医療脱毛「アリシアクリニック」破産前から出ていた危険サイン 脱毛サロンの倒産が繰り返される背景事情
またか――。
脱毛サロン「アリシアクリニック」が破産したとの一報を受けてつぶやいた。
アリシアクリニック運営の医療法人社団美実会と、関連会社で脱毛サロン「じぶんクリニック」を運営していた一般社団法人八桜会が12月10日、東京地裁から破産開始決定を受けた。
2社の負債総額は合計124億円に達し、債権者(被害者)は9万人を超える。
債権者の大半は、一括前払いやクレジットなどで長期の施術契約を結んだ個人客だ。
東京商工リサーチ(TSR)の調査では、脱毛サロンなどエステティック業の倒産は、2024年1~11月で99件に達した。
すでに2023年1年間の88件を上回り、過去最多を更新中だ。
脱毛サロン業界で何が起きているのか、調査会社の視点で検証したい。
脱毛サロンをめぐっては、1年前の12月15日に「銀座カラー」を運営していたエム・シーネットワークスジャパン(以下、エム社)が東京地裁から破産開始決定を受けた。負債総額は約58億円で、被害者は約10万人にのぼった。
この時、一部の与信担当者は、アリシアクリニックとじぶんクリニックの与信を見直すなど、「ガード」を引き上げた。
この2つのクリニックと銀座カラーには、さまざまな情報からつながりが確認されたためだ。
TSRが発行する情報誌「TSR情報・全国版」の2023年12月27日号には、銀座カラーの関係先として4社を実名で掲載している。
そのうちの2社が、アリシアクリニックとじぶんクリニックだった。
当時の記事は、「(じぶんクリニックは)エム社の創業者が昨年12月まで代表理事を務めていた。以降は別の人物が代表理事を務めている」と記載。
さらに「(アリシアクリニックと)じぶんクリニックの代表理事は同一。エム社の破産申立書の資産目録には、『詳細不明であるが、医療法人美実会を基金拠出型で設立し、その拠出金であると思われる。返還可能性は不明』との注釈が記載された4400万円の拠出金がある」としていた。
情報誌は与信のプロが読者で、読み手は行間を読むスキルに長けている。
与信限度額の設定や取引先との契約見直しなど、実務担当者の「読み解き力」を信じ、実名での記事化に踏み切った。
個人客を巻き込む大規模な倒産が発生すると、「調査会社は蓄積したデータを使って事前に警鐘を鳴らさないのか」、「後出しで『知っていました』は卑怯だ」といった意見がSNSなどで寄せられる。
しかし、無制限な信用情報の発信は、取引相手の離反や事業価値の毀損につながり、事業再生の芽を摘みかねない。
ただ、TSRは寄せられた意見も鑑みて、脱毛サロンをはじめとする、必要資金を借入金でなく前受金で充当している「前受金ビジネス」の動向に関するレポートを作成し、2024年2月13日にホームページで公表した。
TSRが保有する決算データを分析すると、約2割の企業が前受金(前受収益含む)を貸借対照表に計上していた。
また、全体の0.4%の企業は、総負債に占める前受金の割合(負債前受金比率)が50%以上に達していた。
業種によってビジネスモデルはさまざまで、この比率が高いことが一概に悪いわけではない。
ただ、レポートでは「前受金ビジネスは、顧客の増加が続く限り、前受金を元手に積極的に事業拡大を進めることができる。だが、ひとたび顧客が減少に転じると、これまでの投資があだとなり、一気に手元資金がひっ迫する事態になりかねない」とチェックポイントを指摘した。
過去、アリシアクリニックは、テレビCMで積極的に広告宣伝していたが、最近はすっかり見かけなくなった。
一般個人向けのサービスで、同業との競合が激しいなか、広告宣伝の減少は新規顧客の獲得に大きく影響する。
つまり、「顧客減少」と「手元資金の逼迫」の可能性を告げるサインがあった。
こうした日常での違和感も、与信上の重要な情報だ。
今回破産した2つのクリニックの負債前受金比率はどうだったのか。
じぶんクリニックの決算書は入手できていないが、アリシアクリニックは2023年4月期の決算書が手元にある。
それから算出すると84.3%に達する。
前述のとおり、比率が50%を超える企業は0.4%しかない。
その中でも突出した企業に位置付けられる財務内容だった。
繰り返される脱毛サロンの倒産では、泣き寝入りするしかない多くの被害者を見てきた。
倒産や事業再生をウォッチする立場ではあるが、多数の被害者を生んでいるにもかかわらず、大半の案件が破産となっていることに憤りを覚える。
1~11月のエステティック業の倒産99件のうち、破産は94件(構成比94.9%)と圧倒的に多い。
窮境局面にある企業の債務整理の手段は多岐にわたるが、社会への影響が大きい場合は事業継続と取引先、従業員への影響を最小限にとどめることが必要だ。
民事再生などの再建型倒産や計画前事業譲渡はその代表例である。
単純な破産では、未消化のサービスへ有効な手段を取りにくくなる。
金融機関による「デット・ガバナンス」が効きにくい業界であることも一因だ。
アリシアクリニックの2023年4月期の貸借対照表の借入金はゼロだった。
前受金を基に、運転資金を確保していたことが背景にあると思われる。
メインバンク制が薄れてきたとはいえ、企業が窮境局面に陥った際、金融機関の影響力は大きい。
収益改善に向けた計画作成の支援や、スポンサーや事業譲渡先を探すサポートなどに対応する金融機関は少なくない。
ただ、あくまで金融機関から借り入れがあり、信頼関係が構築できていた場合の話だ。
脱毛サロン業界は、ひとたび経営が破綻すると多くの被害者を生む。
だが、外部の目は行き届きにくく、有事の際も的確なサポートにリーチしにくい構造になっている。
契約に際しては自身のアンテナを最大限伸ばすことが必要だ。
参照元:Yahoo!ニュース