モスバーガー、自社農場の新規展開を休止 甘くない農業事業

農業に従事している人

全国で農業の就業者数が減少する一方、農業の法人化は緩やかに増加し続けている。

農林水産省が2024年6月に発表した農業構造動態調査結果によると、全国の農業経営体は前年比で5%減少したが、法人数は1.2%増加し、約3万3400を記録した(24年2月1日現在)。

会社法人は前年に比べ約300増加した。

農業は、就業者の高齢化と人口減少が著しい産業だ。

企業が参入することで担い手不足の解消が期待されるものの、企業は農地の所有ができないなどの規制が存在している。

09年、改正農地法によって農地を賃借する形式で企業が参入できるようになった。

しかし、「農家にいつ返せと言われるかわからない土地に投資を続けるのは怖い」と、参入したある企業の経営者は漏らす。

さらに23年3月には、地方自治体が申請を行えば企業の農地取得が実質的に可能となった。

ただ、手続きが煩雑な上に条件も多い。

依然として企業が農業に参入するハードルは高いままだ。

外食業界は、食を扱うという点で農業と親和性の高い業界である。

業界でいち早く農業に参入した企業の一つが、モスバーガーを展開するモスフードサービスだ。

自社ファームでの生産と協力農家からの供給によって、全国に約1300店舗あるモスバーガーで必要となる野菜の多くを賄っている。

同社は青果店や卸売市場で野菜を仕入れていた時期もあったが、仕入れ先によって品質に差が出る問題があった。

そこで1997年に、作り手の顔が見える安全な野菜を提供し続けることを宣言して現在の形になった。

自社で野菜を管理することで、品質や鮮度が向上。

来店客の多くが、モスと言えば、まず野菜を連想するようになっているという。

モスフードサービスが農業を法人化したのは2006年。

農業生産法人の野菜くらぶ(群馬県昭和村)などと共同で農業生産法人サングレイスを静岡県に設立した。

その後、北海道や熊本県などで社名に「モスファーム」を付けた農業法人を設立し、トマトやレタスなどを生産している。

そんなモスも農業の経営では苦戦しているという。

20年6月の広島県を最後に新規のモスファーム設立はない。

現在は全国10拠点で、モスバーガーで使用する野菜のうち約1割を生産するにとどまっている。

今後の拡大について、現時点では明確な計画はない。

同社の商品本部アグリ事業グループJGAP指導員の近澤太輔氏は「今までは勢いで(モスファームを)つくっていた面もあったが、蓋を開けてみるとそんなにうまく事業は成り立たなかった」と振り返る。

今後は、外部の協力農家からの調達を増やしていく方針だ。

農業経営の難しさは天候の不確実性にある。

最近の悩みは温暖化による作物の不作だ。

特に今年は、猛暑によって主力商品のモスバーガーで使用するトマトの生産量が激減した。

台風などの突発的な天候不良で収穫できなくなることもある。

近澤氏によると、天候に左右されない屋内の植物工場で育てた野菜の生産が増えており、モスにも商談や売り込みがあったが、価格が高いなどの課題があり、採用を見送っているという。

今後について「人工知能(AI)やドローンなどを活用したスマート農業を視野に入れる必要はあると思う」と近澤氏は話す。

拡大を停止したモスファームは、野菜の端境期の供給を補うための生産拠点として活用する考えだ。

外食産業などによる農業事業の苦戦について、東京農業大学国際食料情報学部アグリビジネス学科の渋谷往男教授は「多少赤字になったとしても、本業の顧客に食品の安全性をアピールできるなどのメリットが大きければ参入する意味はある」と話す。

外食大手ワタミの農業事業は赤字のまま20年以上が経過した。

同社が農業に参入したのは02年。

現在、全国7カ所で約530ヘクタールの農場・牧場を運営管理している。

ワタミの渡邉美樹会長兼社長CEOは「執念で続けている」と力を込める。

撤退を検討してもよさそうな状況だが、ワタミはむしろ足元で提携農家を増やしている。

25年2月以降には、新たに40~50軒の農家と提携する考えだという。

その大きな理由が、今年10月に発表したサンドイッチチェーン大手サブウェイの展開開始だ。

ワタミは米サブウェイと日本国内でフランチャイズチェーン(FC)展開する契約を結び、同社の日本法人を買収した。

今まで、ワタミの自社農場で生産した作物のうち、約5割をグループの外食事業で利用していた。

これらを使った冷凍食品の商品化などにも乗り出したが、レタスなどの葉物の冷凍保存が難しく、販売は軌道に乗らなかった。

自社で使い切れない分はスーパーなどに卸していたが「買いたたかれるのでできるだけ自社で使用したい」というのが渡邉会長の考えだった。

今回、野菜を使用する商品を多く持つサブウェイがグループ入りしたことで、自前の野菜の用途は広がる。

渡邉会長は「農業事業は来年黒字化するだろう」と見通しを語る。

農業に詳しい日本総合研究所創発戦略センターチーフスペシャリストの三輪泰史氏は「サブウェイの商品は野菜を多く使用している。ワタミの主力業態である居酒屋よりも農業事業との相性が良い。相乗効果も見込めるだろう」と言う。

ワタミが農業事業で次に注目しているのがコメの生産だ。

おにぎりの専門店がインバウンド(訪日外国人)に注目されるなど、国内外で引き合いが強くなってきた。

渡邉会長は、今後10年は企業が農業に参入して成功するチャンスが高まると見る。

「円安はまだ進みそうで、もしそうなれば収益性はさらに高まる」と言う。ワタミは管理・運営する水田を増やすため、北海道で調査中だという。

日本総研の三輪氏は「気候変動などで野菜が十分に調達できなくなるリスクが高まっている。それを回避するためのコストだと割り切り、赤字覚悟で農業に参入する企業も出てきた」と話す。

今年はコメ不足による価格高騰が企業を悩ませた。

一般企業が農業に参入する場合、それ自体で大きな収益を目指すというより、本業のリスク回避や付加価値向上とセットで採算を考えることが必要になりそうだ。

参照元:Yahoo!ニュース