「石丸伸二さんの切り抜きで月500万円稼いだ人も」玉木雄一郎の選挙を支えた“動画切り抜き職人”はボランティアと呼べるのか?

先の衆院選で大躍進を遂げた玉木雄一郎代表率いる国民民主党。
朝日新聞の出口調査によると、比例区の投票先として20代で1位(26%)で、30代でも自民党と並んで1位(21%)だった。
「手取りを増やす」「103万円の壁の引き上げ」といった具体的でわかりやすいメッセージが若者・現役世代に届いたと見られるが、ジャーナリストの森健氏が注目するのは、SNS上での選挙戦略、とりわけ「切り抜き動画」だ。
森氏は「 文藝春秋 」2025年1月号でこう述べている。
〈重要な要素が切り抜き動画だ。第三者が動画の一部を自由に切り抜いて編集、投稿したもの。今夏の都知事選で急激に人気を集めた石丸伸二候補の躍進や兵庫県知事選での斎藤元彦氏の再選の一因に挙げられている。
「衆院選では、この切り抜き職人と呼ばれる人たちが玉木さんに集まった。そのために大量に玉木さんの動画が出回りました」(ネットコミュニケーション研究所中村佳美代表)〉
〈この切り抜き動画は、動画サイトのシステムによって拡散される。ある動画を見て「いいね」を押す、もしくは長く見続ける。すると、それをシステムが検知してその動画に関連した別の動画を表示する。「おすすめ」の仕組みだ。この仕組みがうまく働いた可能性があると選挙ドットコムの高畑卓代表は言う。
「もともと玉木さん自身の動画ストックも多いうえ、切り抜き動画が大量に増えた。そうなると、玉木さん動画に『いいね』を押したら、その後はエコーチェンバー(反響室、繰り返し関連動画が表示され続けること)となって、抜け出せない。そうやって大量に玉木さんの動画を見ることになった人が多いと思います」〉
切り抜きで、ひと月で500万円以上稼いだ人がいる。
〈問題もある。切り抜き動画は玉木のファンでもなく、単に自らの収益のためとみられるアカウントが多いことだ。高畑が言う。〉
「石丸さんの切り抜きをしていたアカウントの中には、ひと月で500万円以上稼いだ人がいます。切り抜き職人の多くはその時バズる人のところに集まるだけ。収益目的で選挙活動に乗っかってくる切り抜き職人をどう考えるべきか。今後議論もあるかもしれません」
こう指摘する森氏は、玉木氏本人にも“直撃”している。
〈森:玉木さんがやられてきたライブチャットなどのネット戦略が効いたことはよく分かります。ただ一方で、「切り抜き動画」をつくる「切り抜き職人」が、(先の都知事選で躍進した)石丸伸二さんの後に、今回、玉木さんのもとに集まって働いたのではないですか。「たまきチャンネル」でも「切り抜き大歓迎」と述べていますが、この点について、ご自身ではどう思われていますか。
玉木:「ボランティアのネット化」ですね。「ネットボランティア」と言ってもよいかもしれない。これまではチラシを配って情報伝達をするボランティアの方々がたくさんいてくださったのですが、「切り抜き動画」というのは、いわば「ネット時代のデジタルチラシ配り」です。
森:しかし「切り抜き職人」にとっては、それがお金になるわけですね。
玉木:こちらの陣営からお金を払っていないという意味では「ボランティア」ですが、彼ら自身が自分で儲かる。つまり課金システムによる収益化によって、そこに「ブースト」をかける効果があることは、これまでと大きく違うところだと思います。しかし大事なのは「コンテンツ」です。中身が「面白いもの」「興味深いもの」で、「伝わるもの」でないと出回りません。だからこそ「政策」とか「理念」が大事になります〉
こう話す玉木氏だが、森氏の取材に次のようにも述べた。
〈玉木:アテンション・エコノミー、選挙エコノミーが生じていることは間違いないと思います〉
〈玉木:基本的には「表現の自由」を大事にすべきだと考えますが、ここは私もまだ答えを出しきれていないところです。「プラットフォーマーの責任をどう考えるか」ということになると思います〉
公職選挙法第一条にはこうある。
〈この法律は、日本国憲法の精神に則り、衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長を公選する選挙制度を確立し、その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期することを目的とする〉
「切り抜き職人」を放置して、果たして「選挙が公平且つ適正に行われる」のだろうか。
森健氏が丹念な取材に基づき、玉木代表と国民民主の躍進の裏側に迫った「玉木代表と国民民主を解剖する」の全文は、12月10日発売の「文藝春秋」1月号(「 文藝春秋 電子版 」では12月9日公開)に掲載されている。
参照元:Yahoo!ニュース