不法移民送還に軍動員へ、トランプ氏の構想は法廷で阻止できるか

ホワイトハウスの外観を撮影した写真

トランプ次期米大統領は、数百万人の不法移民の強制送還に米軍を活用することを公約している。

国内では連邦軍を動員しないという米国の伝統に反する構想だが、法律の専門家によれば、司法の場で争ったとしても阻止することは難しそうだ。

トランプ氏の政策顧問らは、収容所の建設、不法移民の国外移送に軍を活用し、国境警備隊や移民局職員には捜査や身柄の拘束に専念してもらうと話している。

専門家は、軍の役割がメキシコ国境沿いを中心とする支援の任務に限定され、容疑者と接触しないのであれば法的には問題がない可能性があるとしている。

米空軍士官学校のライアン・バーク教授(軍事・戦略研究)は、個人の見解としつつ、「こうした計画に異議を唱えても、恐らく成功する可能性は低いと思う」と語る。

1878年の民警団法は、連邦軍が国内法の執行に関与することを禁じている。

ただし連邦議会は、例外として、大統領に対し、違法薬物取引の取締りや法秩序が崩壊した状況における支援任務に関しては、連邦軍を効果的に活用する権限を与えた。

トランプ氏は、移民の強制送還に軍隊をどのように動員するつもりか説明していない。

同氏はSNS「トゥルース・ソーシャル」において、トランプ政権は不法移民の大量強制送還に「軍事的なアセット」を使うだろうというユーザーの投稿に対して、「そのとおり!(TRUE!)」と応じた。

トランプーバンス陣営の政権移行チームで広報担当を務めるカロリン・リービット氏は25日の声明で、「トランプ大統領は、違法な犯罪者や麻薬密売人、人身売買業者に対する史上最大の強制送還作戦を開始するため、連邦・州レベルで必要なあらゆる力を結集するだろう」と述べた。

1990年代のクリントン大統領以来、歴代大統領は監視や訓練、装備の修理といった支援任務のため、州兵や連邦軍を国境地帯に派遣してきた。

専門家らは、民警団法に定める支援任務の例外規定により、軍が強制送還の対象者を収監するための収容所を建設できる可能性もあると指摘する。

トランプ氏の移民問題担当顧問であるスティーブン・ミラー氏は2023年11月、こうした構想をニューヨーク・タイムズ紙で披露した。

移民の人権擁護団体である米国移民評議会の報告書によると、毎年100万人の不法移民を強制送還するには、政府は収容能力を20倍に増やす必要があるという。

かつて国防総省の弁護士を務めたミシェル・パラディス氏は、軍に求められる任務が増えれば増えるほど、たとえそれが支援的な役割であっても、訴訟のリスクが増えると語る。

同氏は、軍が収容所を建設する際の資金が州のプロジェクトから流用されると、その州の知事から訴えられかねないと指摘する。

トランプ氏は4月、タイム誌に対し、州兵を動員した強制送還計画を支持すると語った。

州兵は州知事の指揮下にあると同時に、大統領指揮下の連邦軍の予備役部隊でもある。

州兵が州知事の指揮下で活動する場合は、たとえ支援の任務を超えて積極的な治安維持に携わる場合でも、民警団法による規制の対象とはならない。

第1次トランプ政権は2020年、ミネソタ州での警察によるジョージ・フロイドさん殺害事件への抗議行動に対処するため、首都ワシントンで州指揮下にある州兵を動員した。

ただし、州知事は州兵の動員を拒否することができる。

カリフォルニア州のロブ・ボンタ司法長官(民主党)はロイターに対し、ある州の州兵を別の州に派遣するのは「危険な状況」だと語った。

ボンタ州司法長官は、「カリフォルニア州はもちろんそうした動員には応じないし、そのような状況に対応するために、既存の対抗策をすべて検討するだろう」と述べた。

州知事が自州の州兵の派遣を拒否した場合、トランプ氏は、民警団法のもう1つの例外である反乱法を発動することが可能だ。

兵士に法の執行権限を与えるという反乱法を発動するにはいくつかの条件がある。

公共政策を研究する左派系のニューヨーク大学ブレナン司法センターによれば、米国史上、反乱法が発動された前例は30回ある。

そして、州知事の側からトランプ氏に対して、反乱法の発動が要請される可能性もある。

1992年のロサンゼルス暴動では、ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領がこの要請を受けた。

法秩序が崩壊した場合や公民権を守るために必要な場合には、トランプ氏が独自の権限で反乱法を発動することもできる。

南北戦争後の1871年にはクー・クラックス・クラン(KKK)による人種差別的暴力に対応するため、また1950年代、60年代には、学校における人種差別撤廃の執行と、公民権デモを警備するためにこの法律が発動された。

反乱法に基づいて活動する軍と関わる者は、他の法執行機関に関わる場合と同じく憲法上の保護を受けられる。

97年にテキサス州で発生した10代の米国人の射殺事件など、米国領土内で活動する軍人が刑事捜査の対象となった例は複数ある。

ジョージ・ワシントン大学ロースクールのローラ・ディキンソン教授は、反乱法の発動条件が整っていると主張するのも難しいが、裁判所は通常、国家安全保障の問題については大統領に判断を委ねると語る。

「私だったら、これは連邦憲法の規範と伝統に対する重大な違反であると主張するところだが、法廷で争うのは容易ではない」とディキンソン教授は主張する。

参照元∶REUTERS(ロイター)