「置き配」の窃盗がじわり増加中 被害にあえばほとんどが「泣き寝入り」で宅配ドライバーも不安視
「置き配」は防犯対策としても有効だ。
強盗が宅配業者を装う手口があり、警察は業者と対面することなく荷物を受け取る置き配を推奨している。
だが、置き配の荷物を狙った窃盗もじわり増えている。
今年9月、近畿地方に暮らす40代の男性はインターネットの通販サイトでモバイルバッテリーを注文した。
荷物の到着日は外出予定だったので、ガスメーターボックス内への「置き配」を指定した。
帰宅後、ガスメーターボックスを開けたが荷物は見当たらない。
宅配業者に問い合わせると、配達時の画像を見せられた。
そこには確かに荷物が置かれた様子が写っていた。
何者かに盗まれてしまったのだ。
男性は宅配業者に対応を求めたが、返答は「指定された場所に荷物を置いた時点で配達は完了となるため、後はお客様の責任になります」。
宅配業者から「通販サイトに相談するように」とうながされて問い合わせたものの、対応を断られた。
男性は警察に盗難届を出した。
被害額は約8000円。
こんなケースもある。
同10月、首都圏に住む30代の女性はフリマアプリを利用してネックレスを販売した。
荷物を発送し、しばらくするとスマホの画面に「配達済み」と表示された。
だが、いつまで経っても購入者から受け取り評価のメッセージが届かない。
その後、購入者から「置き配を指定したところ、盗難に遭い、商品を受け取っていない」という連絡を受けた。
女性は「受け取り評価がないと、商品取引が完了しないため、入金されないかもしれない」と困惑する。
置き配は非接触で荷物の受け取りができることから、コロナ禍に感染症対策として注目された。
宅配業者にとっては再配達の負担を減らし、効率化が図れるというメリットもある。
昨今、凶悪化が報じられる「強盗」対策としても有効で、「宅配業者の訪問があったときは、できる限り業者と対面することなく、非対面での受け取りを希望してください」と警視庁の担当者は話す。
だが、ここへきて置き配の「盗難」がじわり増えている。
国民生活センターによると、置き配された荷物の盗難の相談が増え始めたのはコロナ禍の2020年。
22年には置き配の盗難リスクについて、注意喚起を行った。現在も被害は増加傾向にあるという。
残念ながら、置き配の窃盗犯が検挙され、商品が戻ってくることはめったにない。
ほとんどのケースは泣き寝入りだ。
昨年度、東京都内で「置き配が盗難に遭った」という消費生活センターへのトラブル相談は368件。今年度は上半期だけで234件と、かなり増えている。
このうち、盗難保険の補償によってトラブルが解決したケースは昨年度で5件、今年度上半期は5件。
「盗難被害のうち2%弱しか補償されていません」と、東京都消費生活総合センター・相談課長の高村淳子さんは明かす。
まず、置き配盗難保険自体が少ない。
大手宅配3社(ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便)のうち、置き配盗難保険を用意しているのは日本郵便だけだ。
1事故当たりの支払い限度額は1万円(送料、消費税および使用ポイント分を含む)。
補償を受けるには被害者が盗難に遭った証拠を集め、警察に盗難届を提出しなければならない。
保険金請求フォームに盗難届の受理番号を記入する必要があるからだ。
ところが、盗難届が受理されないケースが多いのだ。
商品が再送されることもあるが「置き配」では、現在、ほぼすべての宅配業者が指定された場所に荷物を置いた時点で「宅配完了メール」を荷受人に送信する。
配達した状態の写真を添付せず、メールだけを送信する業者もある。
この場合、荷物が届いていなくても、「誤配」の可能性が生じる。
確実に荷物が配達されたことを証明できなければ、盗難届は受理されない。
また、「置き配」で盗まれる荷物の多くは通販サイトで購入した商品だという。
同センターは「注文した商品が届いていない」旨を通販サイトにメールするか、書面で伝え、調査を依頼することをアドバイスする。
通販サイトに相談した時点で、同じ商品を再送してくれることもある。
しかし、対応を断られれば、「まず、泣き寝入りとなってしまう」。
「家電製品のような高額商品が被害に遭ってしまい、『もう置き配は使わない』と、悔やむ人もいます」(同)
商品の配送の初期設定が「置き配」になっている通販も増えてきた。
それに気づかず、置き配された荷物を盗まれてしまったケースもある。
「指定しなければ、対面の配達ではなく、『置き配』になってしまう配送システムに怒りをぶつける人もいます」(同)
宅配ドライバーたちも置き配に不安を感じている。
宅配ボックス大手「ナスタ」(東京都)は昨年11月、宅配ドライバー400人に置き配についてのアンケートを実施した。
荷物を置く場所として断トツで多く利用していたのは「玄関先」で66.5%。
「宅配ボックス」は28.2%、「郵便受け」は1.8%だった(複数回答)。
荷受人から「玄関先」を指定されて荷物を置いた後、「荷物がない」というクレームを受けた経験のあるドライバーは18.3%。玄関先に荷物を置くことを「不安だと思う」という回答は75.3%に達した。
では、「置き配」荷物の盗難を防ぐにはどうすればいいのか。
置き配された荷物を盗難から防ぐには、配達完了メールを受け取ったら、なるべく時間をおかずに荷物を回収することだとセコムの濱田宏彰研究員はいう。
宅配業者が自宅を訪れた際、手が離せなかったため、インターホンで置き配を依頼。
数時間後に確認したら荷物がなくなっていたというケースもある。
ヤマト運輸は置き配の日時指定が可能なサービスを「クロネコメンバーズ」「EAZY」で展開している。
「お客さまの在宅・帰宅時間に合わせてご指定いただくことで、少しでもお荷物の盗難リスクを軽減できると考えております」(ヤマト運輸)
佐川急便も「スマートクラブ」に登録すれば同様のサービスを受けられる。
記者も置き配のお世話になっているが、さいわい、盗難に遭ったことはない。
近隣の人たちも同様のようだ。
置き配は「善意」に支えられていると実感する。
破綻せずに続いてほしい。
参照元∶Yahoo!ニュース