戦後3回目のブーム「昭和の団地」に若い世代が続々住み替える理由とは

昭和時代の団地に、あえて若い世代が住み替え、高齢世帯などが住み続ける例が注目されている。
設備や間取りに古さがあっても、工夫して住む楽しさがあるという。
団地の魅力を探った。
「55歳、小さなひとり暮らし」(大和書房)の著書もある大野祥子さん(57)は京都市内にある築約50年の団地の3DKに住んで18年になる。
3人の子どもは全員独立し、今は1人暮らし。
長女と2人暮らしだった4年前のコロナ禍の時に部屋を一気に整頓した。
畳敷きの6畳2間と板張りの8畳のダイニングキッチンを仕切るふすまを全て外し、風も光も通りやすいひと続きの空間にした。
「昔ながらのグレーの柱や青いタイル張りのキッチンは今ではむしろおしゃれに感じる。一見、シンプルで無機質な部屋には、好きなアンティーク家具や観葉植物が似合うと分かった」と話す。
ななさんは、押し入れの上段に書棚などを入れてデスクにしている(インスタグラムから)団地ファンサイト「公団ウォーカー」運営者で「日本懐かし団地大全」(辰巳出版)の著書がある照井啓太さんは、「コンパクトな間取りや無駄のないデザインなど機能的な団地の魅力が見直されている。室内も日当たりが良いなど住空間の心地よさが再評価されている」と指摘する。
現在は戦後3回目の団地ブームといわれ、ファミリー層を含む20~30代の若い世代がけん引役になっている。
「持ち家の購入に関心がない、定住にこだわらないなど、住宅の価値観が変化している。自分らしい住まい方を求める人に魅力的に映る」と照井さん。
静岡市内の築約60年の団地で夫(27)、長男(2)と暮らす「なな」さん(26)は出産を機に仕事を辞め、固定費を節約するため住み替えた。
リノベーション済みの3DKで、「外廊下など共用部分の古さは気になった」と言うが、心地よく暮らすヒントをSNSで探したりして、自分たちらしい暮らし方を見つけた。
例えば、押し入れはふすまを外し、上の段は立っても座っても使えるデスクとして使うことにした。
狭い玄関の姿見はダイニングに移し、食事から出掛ける準備まで1か所で済み、時短が実現した。
「ライフスタイルを自分で作れるのがいい」と笑う。
団地は敷地内に公園があるなど住民のつながりがほどよくある。
「独居の高齢者が増えた結果、同世代でつながるようになった」と話すのは、団地暮らしの日々を描いた「ぼっち死の館」(小学館)などの作品がある漫画家の斎藤なずなさん(78)。
大型団地の多摩ニュータウン(東京)に住んで40年。
10年ほど前に夫を亡くしてからは一人で暮らす。
近隣の入居者と声を掛け合ったり、おかずのやりとりをしたり、緩やかに支え合って生きている。
鍵を預けられるような知人もいる。
「悩みがあっても共有できる。いざという時に助け合える関係性ができました」と言う。
照井さんは、「今後は、広場など屋外の空間を使いこなして近隣の住民との人間関係を築き直そうとする人が若い世代を中心に出てくるだろう。団地暮らしは新しいライフスタイルとして定着する可能性がある」とみている。
自治体などが団地の再生に力「団地ブーム」の1回目は庶民の憧れの住宅として注目された高度経済成長期で、1960年頃から始まった。
2回目は住宅価格が高騰する中、手が届きやすかった1980~90年代のバブル経済期で、3回目が現在だ。
UR都市機構と無印良品は共同で各地でリノベーションに取り組むなど、古くなった団地を再生する例が増えている。
自治体などは地域の大学と連携し、住民同士がつながる居場所作りとして、再生に力を入れ始めている。
少々の古さや不便さは受け入れ、時に逆手にとって楽しみ、アイデアを足す。
記者は団地に住んだことはないが、団地ならではの魅力が再発見できた。
参照元∶Yahoo!ニュース