早産児ケアは家族を“真ん中”に ファミリーセンタードケア」模索続く 出生体重664グラムの赤ちゃん 家族が積極的にケア参加 一緒に成長 母「チームに入れてくれてありがとう」

育児をしている女性をイメージした画像

11月17日は、妊娠37週より前に生まれた早産児やその家族への理解を呼びかける「世界早産児デー」だ。

様々なケアが必要となるケースが多い早産児。

病院任せではなく、家族も積極的にケアに参加することで、成長や発達をもっと促そうという取り組みが日本でも徐々に浸透している。

実践している家族を取材した。

読み聞かせ:「ぼくたちこぶたの3きょうだい…」

長野県伊那市の高橋さん一家の三男・吟糸(ういと)ちゃん(1歳7カ月)。

母親の由里絵さん(37)に絵本を読んでもらって、ご機嫌です。

ここは安曇野市の県立こども病院・新生児病棟。

吟糸ちゃんは生まれてからずっと入院している。

伊那からほぼ毎日通う由里絵さんにとって、これは面会ではなく「子育て」の時間だ。

母・高橋由里絵さん:「抱っこの時間を多くつくったり、できるだけ関わる時間を増やすっていう意識をして、笑ったりとか、表情豊かになったのも、そのおかげもあったのかな」

吟糸ちゃんはいわゆる早産児。

様々な治療や手術を受けてきた。

県立こども病院 新生児科・小田新医師:「いろんな難しいところを通ってきましたからね、それを乗り越えてきた。ういちゃん本来の強さは本当にあると思うし、やっぱりご家族の力が大きいと思いますよね」

早産児を育む「家族の力」。

この日、由里絵さんは消毒を始め、呼吸器や胃ろうの管理も看護師と一緒にてきぱきとこなしていた。

母・由里絵さん:「ういちゃんが受けてるケアだし、そういう時こそ、親が近くにいなきゃと思ったんですよね」

病院と家族が取り組んでいるのは「ファミリーセンタードケア」。

病院任せにせず、家族が積極的にケアに関わって、その「中心」にいることが早産児に良い効果をもたらすという考え方だ。

千葉から伊那市に移住してきた高橋さん一家。

由里絵さんは3人目を妊娠しますが、20週を過ぎた頃に出血。

羊水が少なく、医師からは「妊娠を継続するなら覚悟が必要」と告げられた。

県立こども病院に入院し、24週と4日で緊急帝王切開。

生まれた男の子の体重はわずか664グラムだった。

母・由里絵さん:「本当に小さい…っていうのと、頑張ってくれてありがとうという気持ち」

糸を紡ぐように、ゆっくりでも着実に育ってほしいと「吟糸」と命名した。

喜びの一方、不安や戸惑いも。吟糸ちゃんは自力呼吸ができなかった。

呼吸器を装着し、体には心電図や酸素濃度を測る管も…。

母・由里絵さん:「小さい赤ちゃんを目の前にした時は、自分、無力だなっていうのは感じました」

それでも出産前に告げられた医師の言葉が由里絵さんを励ました。

母・由里絵さん:「『どれだけ家族が赤ちゃんに関わるかで、成長・発達が変わりますよ』って言われたんです。それがずっと残ってて」

すぐに実践したのが「ホールディング」。

本来ならまだお腹の中にいる時期の赤ちゃん。

手で優しく包み込む。

父親の竜也さんや祖父母も行った。

1カ月後に行ったのは赤ちゃんを抱く「カンガルーケア」。

肌と肌のふれあいは赤ちゃんの体温や呼吸を安定させる効果があるとされている。

由里絵さんは長い時で3時間ほど抱いて過ごした。

母・由里絵さん:「看護師の方が、すごくいい顔してるねって声を掛けてくれて。生きていけるのか…っていう状況だけど、『あ、育児ってできるんだ』って」

早産児は少子化の影響もあって2022年は4万万3000人余り。

ただ全体に占める割合はわずかに上昇傾向で、2022年は5.6パーセントだった。

これは高齢出産の増加や医療の進歩で救命率が上がったことが要因とされている。

県立こども病院 新生児科・小田新医師:「助かることはできているけど、その先、いかによく助けるか、良い状態で助けてあげることができるかを、みんなで頑張っているところなんです。(家族と)いいパートナーシップをつくって、赤ちゃんのケアをやっていこうと」

海外の研究では、家族の積極的な関与は早産児の成長や発達を促し、退院を早める効果があるとされています。家族の不安やストレスを軽減させる効果も。

それに基づくのが「ファミリーセンタードケア」。

考え方は日本にも紹介され、各地の病院で取り組まれているが、効果に関する研究は少ないと言う。

そこで、県立こども病院はフィンランドの大学病院から「プログラム」を学び、2023年に病院に取り入れ、研究も始めた。

まず見直したのは家族とのコミュニケーション。

一方的な報告ではなく、一緒に考えてもらうよう、声掛けをした。

家族との「パートナーシップ」を作る第一歩だ。

県立こども病院 新生児科・小田新医師:「きのうときょう、赤ちゃんの様子どう違いますか、という感じのことを聞くと、『そう言われるとどう違うかな』とか、親御さんたちも赤ちゃんのことをより知りたい、もっと前のめりに観察するようになる」

当初は心拍数などが表示される機械ばかりを気にしていた由里絵さん。

ある日、看護師から「モニターではなく表情を見てあげて」と言われた。

母・由里絵さん:「その時は、本音は『わかんないよ…』って思ったんですけど。でも時間をかけて自分なりに観察しようって思うようになって。どう思ってるかなとか、呼吸状態とか、ちょっとした異変にも気づけるようになってきたかなと思ってます。まだまだですけど」

由里絵さんはこの日初めて痰の吸引に挑戦した。

母・由里絵さん:「何秒くらいとかあります?」

看護師:「あまり長くやると苦しくなっちゃう」

吟糸ちゃんは10月、成長を促す為の頭蓋骨を拡大する手術と胃ろうを造設する手術を無事、乗り越えた。

現在の体重は9300g。

表情が豊かになり、手足の動きも活発になっている。

痰の吸引は自宅に戻るためのステップの一つだ。

看護師:「ういちゃん、いいかい?やってみるよ。せーの、はい」

無事に完了―。

母・由里絵さん:「いろんなケアの延長ではあるんですけど、初めてやることは緊張しますね。だんだんです。教えてもらいながら、一緒にやりながら、ですね」

♪「ハッピバースデー、トゥーユー」

こちらは2023年5月の映像。

この日、2人のお兄ちゃんが初めて吟糸ちゃんと対面。1歳の誕生日を祝った。

母・由里絵さん:「やっと会えたね」

あれから半年。

2人は自宅で一緒に過ごせる日を心待ちにしている。

母・由里絵さん:「ういとくんに会って、何したい?」

次男・らくちゃん(4):「えっと、レゴブロックで遊びたい!」

長男・こうちゃん(6):「ういとくんに、ごはん食べさせたい」

父親の竜也さんは退院後のことを考え、時間の融通が利く仕事に転職した。

父・高橋竜也さん(36):「目の前のことが精いっぱいだったので、そこまで考えられなかったんですけど、徐々に成長してきたところで、自分は家の方も守らなければいけない。小さく生まれたっていうのも意味があることで、個性というか、自分たちの家族の成長にもつながるっていうのがいいのかなと思います」

竜也さんは「こうした家族がいることを知ってもらい、周囲の理解や支援が広がれば」と話している。

10月、松本市で開かれた日本新生児成育医学会。

講演を依頼された由理絵さんは「早産児の母」としての経験を医療従事者に伝えた。

高橋由里絵さん(講演):「生きるか死ぬかの厳しい状況で、いくつもの山を乗り越えてきました。家族には何もできないと思っていましたけど、医療者に全てを任せるのではなく、家族にもできることが必ずあります。ファミリーセンタードケアの環境があったから、ういちゃんと向き合えたし、愛情を持てたし、命がつながっているというふうに思ってます。家族をチームに入れてくださり、ありがとうございます」

医療機関が個々の家族と向きあう必要があるファミリーセンタードケア。

導入にはスタッフの意識改革や場所の確保など、様々な課題がある。

神奈川県の看護師:「家族の声をストレートで聞く機会って少ないので、本当はこう思ってるんだなっていう発見がたくさんありました」

東京都の看護師:「この場にいていいと思える、歓迎してもらえているという環境や雰囲気を作ってもらえたと仰っていたので、自分もそういう雰囲気を作っていけたら」

シンポジウムの座長 県立こども病院・糸島亮医師:
「そういう関わりをしてみようと、あれ(由里絵さんの講演)を聞いたら、医療者はみんな思うのでは。明日からでもできることなんですよ。そういった意味ですごくよかったと思うし、皆さんに響いたと思います」

小さく生まれた赤ちゃんと一緒に、家族も「成長」―。

これも「ファミリーセンタードケア」の効果と言える。

母・由里絵さん:「せっかくだからっていうのも変ですけど、医療的ケア児の吟糸の育児を、楽しめたらいいなっていうのはあります。(吟糸は)まだ小さいから、ここの記憶がどれだけ今後、残るかわからないですけど、少しでも楽しい時間が、記憶として残ったらいいな」

参照元:Yahoo!ニュース