デパ地下を「7階」に移してどうなった? 西武池袋の実験で分かった意外なこと

デパ地下をイメージした画像

2025年1月にリニューアルオープン予定の西武池袋本店(以下、西武池袋)が、今夏より実験的な取り組みを開始している。

改装期間中、地下1階にあった食品売り場を7階に移動して「デパナナ」として営業しているのだ。

多くのブランドをそろえる常設の食品売り場を上層階で展開するのは、百貨店の取り組みにおいて珍しい。

というのも、地下と比較して上層階への集客は難しいとされるためだ。

デパナナは従来の食品売り場と比較して面積が3分の1弱になったことから、ブランド数も従来の約200から約70に厳選。

それに伴い各ブランドの売り上げ目標も従来の3分の1としており、想定通りの結果が得られているが、意外な反響も見えているという。

デパナナの取り組みによって、どんなことが分かったのか。

西武池袋本店 ブランドマネジメント部 デパ地下担当BMマネージャーの溝部智弘氏に取材した。

2023年9月1日、セブン&アイ・ホールディングスが子会社のそごう・西武を米投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループに売却した。

フォートレスの完全子会社となったそごう・西武は、新株主のもと事業戦略を再構築し、2024年6月に本格的な改装工事への着手と2025年夏のグランドオープン予定を発表。

6月21日には、ヨドバシカメラの新業態で美容体験に特化した「ヨドブルーム(Yodobloom)」が西武池袋にオープンした。

売り場面積の半分弱をヨドバシカメラが占めることから、西武池袋の面積は大幅に縮小する。

2025年のリニューアルでは、「ラグジュアリー」「コスメ」「デパ地下」の3領域を中心とした店舗に生まれ変わる。

この改装に伴い地下1階をクローズする必要があり、そこにあった食品売り場をどうしようかと検討した結果、デパナナのオープンを決めたという。

「食品は非常にニーズの高い商品であり、改装期間中も提供し続けたい思いがありました。売り場を7階にしたのは、元々が催事場であり火気や水道、排気機能などのインフラが整っていたことが理由です」

デパナナは地下の食品売り場と比較して面積が3分の1以下に縮小されており、出店数も同様に減らしている。

さらに各店舗の売り場面積も以前より小さいという。

つまり、人気ブランドの売れ筋商品をぎゅっと凝縮して展開している。

「従来のデパ地下は『総菜』『菓子』『名産品(ギフト系)』の3領域があったのですが、デパナナではよりニーズが高い『総菜』と『菓子』の2つに絞り込みました。さらに『和総菜』『洋総菜』『中華総菜』といった各カテゴリーの中で人気ブランドを厳選しています。規模は縮小しましたが、常設売り場と見え方が変わらないように配慮しました」

加えて、以前7階で催されていた期間限定の催事をデパナナでも取り入れた。

一定区画を設け、季節に合わせた商品をポップアップストアとして展開している。

西武において常設の食品売り場を上層階で展開するのは初めてのこと。

期間限定の物産展ならば7階でも集客しやすいが、果たして地下の食品売り場を7階に移して、わざわざ足を運んでもらえるのかという不安はあったという。

しかし、8月2日に開業して約3カ月が経過した現在、当初の目標をほぼ達成できているそうだ。

「売り上げ目標は各ブランドの通常時の売り上げと比較して7割を目安にしており、ほぼ想定通りです。やはり食品のニーズは高いのだと手応えを感じています」

上層階への移転と規模の縮小により、多くのブランドが通常時の7割ほどの売り上げに落ち込んでいるが、意外にも一部のブランドや商品は以前よりも売り上げが伸びていると溝部氏は付け加えた。

「一例ですと、いなり寿司の専門店は地下よりも現在のほうが売れ行きが良いです。地下にあった際は約80の総菜ブランドがひしめいていましたが、デパナナでは約30ブランドに厳選されているので、個性が際立って認知されやすくなったのだろうと分析しています」

その他にも、ある菓子ブランドで、以前はあまりスポットが当たっていなかったバターサンドがデパナナに移転して急に売れ出した事例もあるという。

フロア全体の来客層は以前と大きく変わっておらず、来客数は売り上げと同じく約7割と推測されるとのこと。

一部のブランドにおいては「顧客に気付かれやすくなったメリット」が効いているようだ。

また、季節限定のポップアップストアも好調で、例えば8月~9月末まで販売した人気店の「かき氷」には多くの来客があった。

「残暑が厳しいタイミングだったこともあり、週代わりでブランドを入れ替えながら実施したところ、かき氷目当てに多くの方が来店されました。地元のブランドだけでなく埼玉のブランドも招集して、西武池袋限定のメニューも用意しました」

イートインスペースは12席ほどの小規模な展開だったが反響は良く、かき氷を食べた後、近くにある総菜店やパン屋などで買い物をしていく動きも見られたという。

その他、1階のコスメ売り場との買い回り企画も実施し、一定の効果を上げている。

1階のコスメと7階の菓子、それぞれの売り場で買い物をすると菓子などのギフトが受け取れるものだ。

想定通り、あるいはそれ以上の反響が得られている一方で課題を尋ねると、「バックヤード」の扱いを挙げた。

「当店のバックヤードは地下2階と3階にあり、商品のストックを置くスペースに加えて総菜などを調理できる厨房もあります。地下1階で営業していた際はバックヤードまでの行き来が5分ほどとスムーズでしたが、現在は距離が遠くなり倍の10分かかってしまう、といったことが発生しています」

思いの外、売れ行きが良いこともあり、各ブランドからも『売り場の近くにストックを置きたい』と再三言われているが、構造上の理由で実現できていないという。

特に混雑する時間帯にストックが切れてしまうと、売り逃しが発生することもあるかもしれない。

また、これから年末年始に向けて百貨店の食品売り場は行列ができるほどの混雑が予想されるが、そうした際の顧客の誘導にも細心の配慮が求められる。

「地下より売り場面積も狭いですし、お客さまの動線も当然狭くなるため、丁寧にご案内して安心安全にお買い物ができるよう運営していきます。その上で、引き続き目標とする売り上げを確保できればと思います」

西武池袋では、地下1階の食品売り場、及び2階、3階のコスメ売り場を2025年1月に、1・2階、4階~6階(フレグランス・宝飾・時計・ラグジュアリー)を同年春に、7・8階(ファッション・雑貨・催事場・アートサロン)を同年夏~秋にオープン予定としている。

百貨店の顔と言えるデパ地下には、百貨店初出店の新ブランドを含む約180ショップを展開予定だ。

バラエティー豊かなブランドがそろうことで集客につながるが、一方でデパナナの実験を通して「幅広く何でもそろうという従来のような打ち出しではなく、適正な面積で一つひとつのブランドや商品の価値が伝わる見せ方をしていかなければという視点が芽生えた」と溝部氏は締めくくった。

斬新なデパナナの取り組みを経て、西武池袋のデパ地下はどう生まれ変わるのか。

引き続き注目が集まりそうだ。

参照元∶Yahoo!ニュース