女性社長はわずか0.8%、でも役員は急増中 あまりに極端なジェンダーギャップ、見えてきた企業の実情
トヨタ自動車やソフトバンクグループなど、日本を代表する企業の社長として思い浮かぶのは男性ばかりだ。
共同通信が主要な上場企業1643社を対象に経営トップの性別を調べたところ、女性はわずか13人、率にして0.8%にとどまった。
あまりにも極端なジェンダーギャップで、組織や事業の運営が硬直化しかねない状況だ。
もっとも、取締役や監査役といった役員全体で見ると、女性の数は近年急増している。
多様な視点から経営の意思決定をするべきだとの意識が広がっているのも確かなようだ。
データ分析と多数の関係者への取材を進めると、企業の実情が見えてきた。
2024年1月、日本航空のトップ人事が世間の大きな関心を集めた。
取締役の鳥取三津子氏が客室乗務員出身として、また女性として初めて社長に昇格すると発表したからだ。
記者会見で鳥取氏は「自分らしくやっていく。次のステップに悩む女性社員の後押しになればうれしいと思う」と語った。
女性社長の誕生がニュースになるのは、それがありふれた出来事ではないからだ。
例年、東京証券取引所の最上位に当たるプライム市場の社長は200人ほどが入れ替わる。
だが男性が男性にバトンをつなぐケースが大半だ。
新旧両社長の男性2人が会見場に立ち、笑顔で握手する姿は報道の現場では見慣れた光景になっている。
共同通信は企業が公表する有価証券報告書という書類からデータを取得した。
今年8月末時点のプライム上場全1643社について、2023年度分の報告書から代表者の氏名を抜き出し、他の公表資料と照らし合わせて性別を判別した。
すると女性社長は13人で、全体の0.8%だった。
比較可能な1614社について過去数年間を調べると、女性社長は7~9人に限られた。
一方で女性役員は2019年度の1502人から2023年度には3052人へと倍増し、比率は7.4%から16.2%に上昇した。
既に30~40%を達成している欧米諸国に比べると見劣りするものの、増加傾向が続く。
女性役員の主な担い手は、弁護士や公認会計士らだ。
政府はプライムの企業を対象に、2030年までに女性役員比率を30%以上に引き上げる目標を掲げる。
企業が白羽の矢を立てたのが外部人材で、社外取締役として次々招き入れている。
政府目標を達成するための「数合わせ」(シンクタンク研究者)のケースもあるという。
多数の企業からオファーが集まった結果、3~4社の役員を兼任する女性も多い。
経営人材コンサルティング会社「ボードアドバイザーズ」(東京)の佃秀昭社長は「女性を迎える企業ニーズが高まるのは確実で、人材に余裕がない状態だ」と指摘する。
女性役員の増え方に比べ、なぜ社長は少ないのだろうか。
その背景について日本総合研究所の石井隆介マネジャーは「社外から招く役員が多く、内部昇格が少ない」点を挙げる。
女性活躍を進めるためには「内部で育てた女性社員を役員に登用すべきだ」と訴える。
多様性に富む企業は社内議論が活発で「意思決定の質が向上して成長を見込みやすい」と話す。
こうしたことから、機関投資家が投資先を選ぶ際、役員や管理職に占める女性比率の高さを重視する傾向が強いという。
女性役員比率が高い企業の状況を見ると、大和証券グループ本社は社外取締役を含む役員19人のうち女性が8人を占める。
急場しのぎで外部の女性を集めるのではなく、着実にジェンダー平等を進めてきた成果だとしている。
大和証券グループ本社は2005年に女性活躍推進チームを発足させ、女性が働きやすい環境整備に20年近く前から取り組んできた。
当時社長だった鈴木茂晴氏が「片方の翼でここまできた。両翼でさらに」を合言葉に、生え抜きの女性社員4人を同時に役員に登用するなどトップ自らが強力な推進役となった。
その後、男性社員とキャリアで差がつきやすい産休・育休期間に過去の実績を基に昇格できる制度を整え、スキルアップ研修も参加者の男女比率が半々になるよう意識するなど、段階的に施策を広げてきた。
2017年に社長に就いた、現会長の中田誠司氏は「多様性を力に変える」と繰り返し、女性管理職を対象とした研修も導入した。
中核子会社の大和証券では足元の女性管理職の比率は23%程度。
日本企業の中では高い方だが、意思決定に参加する女性をさらに増やすため、さまざまな分野で経験を積んだキャリア人材の役割に期待を寄せる。
人事担当の白川香名専務執行役は「多角的な見方が業務にプラスだと感じる場面が増えれば、女性を含む多様性の確保が力になると実感するはずだ」と語る。あらゆる階層でキャリア人材を採用し、女性社員と切磋琢磨する環境づくりを目指す。
生え抜きの女性が続々と経営陣に加わるのが理想だが、多くの企業には十分に幹部が育っていない現実がある。
こうした中、男性中心の企業風土を変革する先導役として、社外人材には期待が寄せられている。
会社経営の椿奈緒子さんは3年前に初めて上場企業の社外取締役に就任した。
当時のことを「社外取締役として、どのように価値を発揮すれば良いのか。暗中模索だった」と振り返る。
IT大手の会社員時代に複数の新規事業を立ち上げた経歴を買われたが、社外取締役として貢献するノウハウは持ち合わせていなかった。
社外取締役を務めた女性ら10人以上に体験談を聞いて回ったところ、大半が畑違いとも言える「女性活躍推進」に向けた役割も期待され、悩みながら取り組んでいたことが分かった。
この気付きを基に2022年、意見交換と情報発信を目的とした集まりを立ち上げた。
「社外取締役女性ラボ」だ。
椿さんは「それぞれの成功事例を展開できれば取締役会はもっと機能しやすくなる」と力を込める。
椿さんは現在、別の上場企業で社外取締役を務めており、この企業で初となる女性社員向けキャリアセミナーを実施した。
参加者からは「社外取締役と接点を持ち、背中を押してもらえるのはうれしい」といった感想が多く寄せられたという。
近く全社員向けのマネジメント研修も開催する予定だ。
社外取締役が活躍するためには、企業側の努力も重要になる。
複数の企業で社外取締役を務める女性ラボのメンバーは「企業側が『お飾り』で女性役員を置くケースは実際に存在すると思うし、そのような環境で力を発揮するのは難しい」と指摘する。
取締役会の会議時間は議論を尽くすには限られており「取締役会以外の場で社内外の役員同士が十分な対話の機会をつくることが必要だ」と強調する。
地方議員出身の社外取締役の女性は「企業が提供しているサービスへの(自分自身の)理解が深くないことによる信頼不足を感じたことがある」として、情報収集のため取締役会以外の社内会議にも積極的に参加している。
自身の発言に対して快い顔をしていない執行役員がいることに気付いた際には「その言動は傷つくので控えてほしい」などと伝え「対等な土俵づくりに努めた」という。
女性人材紹介サービスのワリス(東京)の田中美和代表は、企業活動の分野でジェンダー平等を実現していくためには、まず柔軟な働き方を実現することが大事だとの見方を示す。
田中さんによると、女性役員や管理職を増やすために必要なことを役員経験のある女性たちに尋ねたところ「柔軟な働き方の実現」が最上位だった。
田中さんは「多くの家庭で女性が子育てや介護を担う状態が続いている」と現状を説明する。
その上で「リモートワークやフレックスタイムといった柔軟な働き方ができなければ、女性が私生活を大切にしながら仕事で成長していくのは難しい」と指摘する。
田中さんは「無意識の偏見や思い込みで、経営の中枢につながる部署に女性が配属されにくい傾向がある」と述べ、社内でキャリアを積む機会に男女差があると問題視する。
多くの企業が人手不足に悩む中、性別や国籍、年代を問わずに活躍できることが会社の魅力になるとみる。
田中さんは「多様性が採用においても強みになる時代になっている」と強調した。
参照元:Yahoo!ニュース