英財務相、8兆円増税で国再建へ大きな賭け
リーブス英財務相はスターマー労働党政権で初となる予算案で、過去30年で最大規模となる年間400億ポンド(約7兆9600億円)の増税計画を発表した。
増税で賄った資金で英国を迅速に再建し、同時に原資を負担する企業の憤りに耐えるという大きな賭けに出た格好だ。
リーブス氏とスターマー首相は7月の就任からさまざまな混乱に直面している。
英国初の女性財務相となったリーブス氏は成長を阻害することなく、公共サービスを向上させるためにどのような増税が可能なのかの説明を迫られていた。
リーブス氏は「働く人々」を支えるという左派寄りの公約を守ると主張し、増税の多くを企業に振り向けた。
併せて富裕層も増税のターゲットとし、相続やキャピタルゲイン、別荘、プライベートジェット、私立学校などの分野に高めの税率を適用した。
リーブス氏は数年間にわたって大企業に対し、政治的および規制的な安定を提供し、成長を手助けするために事業計画に関する規制の簡素化に協力すると約束してきた。
それにより、労働者も賃金上昇の恩恵を受けられるようにとの望みを託していた。
これに対し、大企業は増税と賃上げのために支出しなければならないのであれば、事業への投資や生産性の向上はできないと不満を表明していた。
リーブス氏は議会で、財政破綻と公共サービスの崩壊した状況を受け継いだ自身にとって選択の余地はなかったとして「私たちは企業にもっと貢献するように求めている」と言及。
さらに「企業の成功は学校の成功に依存する。健全な企業は健全な国民保険サービス(NHS)に依存する。そして強い経済は強い財政に依存する」と訴えた。
労働党のある有力議員は、党は政権奪還後の最初の予算に「悪いニュース」を束ねることで、その後は経済をより強い成長に回帰させ、公共サービスの改善を促し、将来の予算では増税を巻き戻せることに期待していると語った。
もしも経済成長を実現できなければ、労働党政権はより深刻な問題に直面することになる。
英予算責任局(OBR)は、経済成長率が2024年と25年に従来予想をわずかに上回った後、26―28年には下回るとの見通しを示した。
14年間続いた保守党政権に終止符を打った労働党政権は、巨大な債務と経済成長低迷に悩まされる英国のインフラと公共サービスの更新を任された。
リーブス氏は、2022年のトラス元首相の失脚につながった債券市場の混乱を引き起こすことなく借り入れを増やすことに成功した。
投資家がインフラ投資を増やすという同氏の方針を好感したためだ。
しかし、企業側の反応はより厳しかった。
英取締役協会の政策ディレクター、ロジャー・バーカー氏は、大部分の企業が増税の先を見据えるのに苦労するだろうとして、「企業のリーダーらは、これが心機一転をもたらすビッグバン(大爆発)となり、この議会中に二度とこのような大きなショックが起こらず企業がもっと安心して計画を立てられるようになると期待するしかない」と言及した。
また、キャピタルゲインや相続、外国人富裕層への増税は英国の起業家精神を奪う恐れがあるとの批判も出ている。
英北部への投資に特化したベンチャーキャピタル(VC)、パーエクイティのパートナー、アンドリュー・ノーブル氏は、キャピタルゲイン課税の引き上げは「より豊かな未来 」の実現に貢献できる人材をひきつけ、引き留めるのをより困難にするとの見方を示した。
今回の予算案で、今後5年間に国内総生産(GDP)の2%に当たる年間700億ポンド弱の支出増が可能になる。
リーブス氏とスターマー氏は、これが08年の金融危機後に保守党が導入した緊縮財政への逆戻りを避けつつ、英国の基盤を立て直すために必要な資金だと訴えている。
英国の多くの公共サービスはそれ以来、大幅な予算削減に苦しんでいる。
これは長期にわたる賃金低迷と分裂した政治による国内の怒りに拍車をかけた。
リーブス氏とスターマー氏は今回の予算案で病院と学校、道路、鉄道の運営の改善に着手し、自分たちを選んでくれた有権者に報いることができると期待する。
かつて財務省に勤務していたキングス・カレッジ・ロンドンのジョナサン・ポーツ教授は、政府が投資を後押しするために長期的なビジョンと安定性を提供すれば、大企業は社会保険料の引き上げに対応できる可能性があると指摘。
政府は公共サービスを早期に改善するために資金を効果的に使えることを示す一方、長期的な成長を促進するためのインフラ投資も行う必要があると指摘。
「この政権を成功させるためには両方に取り組む必要がある」との見解を示した。
参照元:REUTERS(ロイター)