「消える号令」「さん付け」激変する塀の中 無期懲役囚に迫る“獄死”の実態

今、塀の中が劇的に変わっている。
行進に伴う号令が消えて、受刑者は「さん」付けで呼ばれるようになっている。
また、厳罰化で無期懲役の終身刑化に拍車がかかり、刑務所の中で死ぬ“獄死”も増加している。
この日、無期懲役囚が35年ぶりに塀の外の見学に出る。
強盗殺人・無期懲役 35年服役「昭和、平成、令和、3つかかりましたけどね」
万が一の逃走に備えて、念入りに写真撮影が始まる。
強盗殺人・無期懲役 35年服役「実感湧きますね、シャバに出たという。シャバの空気というやつですね」
歩き方がぎこちない。
35年という塀の中での習慣が強く刷り込まれているのだ。
刑務所は号令と行進の世界。
細かな規則が受刑者の行動を縛ってきた。
長期刑650人が収容される千葉刑務所。
法務省の分類で『LA』。
Lは長期刑、Aは初犯を表す。
無期懲役囚は340人。
半数以上が“死刑を免れた男達”だ。
行進に伴う号令は刑務所の象徴だったが、現在はそれが消えた。
号令は元々こんな経緯で行われるようになったと言う。
藤本哲也 最高検参与「ヤクザが肩で風切って歩いていた。『ちゃんと歩け』と言ったら、こう(行進して)歩き出して、それをみんなが真似した。(行進は)ヤクザから始まった」
長年の習慣が染みついた受刑者の反応は様々だ。
殺人・無期懲役 50代後半・服役28年「戸惑いが多い。毎日のように号令で動いてきましたので。急に無くなると、あれ?という感じになる」
ーー長年いると、塀の中も変わってきた?
強盗殺人・死体遺棄・無期懲役 70代・服役22年「私は厳しくしてもらった方が、ルールがきちんとしていて過ごしやすかった」
刑務官は受刑者を呼び捨てだったが、“さん”付けで呼ぶようになった。
強盗致死・無期懲役 50代「たかが名前だけど、(さん付けかどうかで)心の開き方が違う。自分たちも人間なので」
殺人・無期懲役 50代後半・服役28年「威圧感はないです。お互い距離を感じるように。(刑務官と)違った距離感が生まれた感じ」
強盗殺人・無期懲役 40代後半・服役20年「よそよそしくなった気がする。今まで呼び捨てで呼ばれて、親しみがあったような気がする」
若い刑務官でも、はるかに年上の受刑者から「先生」「親父さん」と呼ばれていた。これも「担当さん」「職員さん」に変わった。
刑務官歴21年「最初に入った22歳の時は『オヤジ』と呼ばれていた。違和感はありました。ただ、そう呼ぶのが当たり前だと思っていた」
刑務官歴13年「(受刑者からは)『オヤジ』とか呼ばれた。異世界に来たような感覚を受けました。『規律が乱れるんじゃないかと不安だ』とか(受刑者から)そういう声があって、(さん付けを)やめてほしいという声はたくさん聞きます」
法務省は強力な権限で管理していた受刑者の処遇を改めて、社会復帰や再犯防止の為の教育に変えていく方針だ。
その一環が、号令の廃止や人権尊重の観点から、受刑者を“さん”付けで呼ぶ刑務官の意識改革だ。
藤本哲也 最高検参与「対等な形で話をすることで、社会に出た時のコミュニケーション能力をつける狙い。自分を卑下するのではなく、自分は生きているんだという信念を持たせて社会に帰そうと、処遇形態がまったく新しく変わることになる」
千葉刑務所の重要課題は高齢化対策。
今回の改革の一つでもある。
高齢化のスピードは加速し、“介護施設化”が顕著だ。
誤嚥性肺炎は死に直結しかねない為、口の周りの筋肉を鍛える訓練が欠かせない。
歯科医「かなり高齢の無期(懲役)の人もいる。亡くなるまでいらっしゃる方もいます。ある意味、究極の福祉なのかもしれない」
劇的に変化する塀の中。
一方、塀の外では前代未聞の事件が起きていた。
今年5月、滋賀県大津市で社会復帰を支援する保護司が殺害された。
容疑者は、保護観察中だった。
事件は、出所後保護司に頼らざるを得ない受刑者たちにも衝撃を与えた。
強盗致死・無期懲役 50代・服役13年「人のこと言えるわけではないけど、あれはひどいと思う。みんな(受刑者は)思ってます」
強盗殺人・無期懲役 服役30年「刑期が長い身からすると、迷惑な事件」
ーー保護司は恩人ですか?
強盗殺人・無期懲役 服役30年「我々受刑者にとっては、受け入れていただける人」
強盗殺人・無期懲役 40代後半・服役20年「自分たちの仮釈放にも、影響があったりするのかな」
更生保護施設“古松園”にやって来たのは、4年前に仮釈放され、現在保護観察中の無期懲役囚だ。
保護犬のケンタが出迎える。
無期懲役囚(4年前に仮釈放 保護観察中)「園長のおかげです。ケンタも路頭に迷って処分されるところを、園長に助けてもらった。自分も拾ってもらったようなもの。命の恩人だと思う。感謝しています」
保護司との強い絆が窺える。
無期懲役囚は、一生無期懲役が消えることはない。
1か月に2回、保護司との面接が遵守事項だ。
出所者が身を寄せる民間の更生保護施設、古松園は1897年に設立された。
部屋代は半年、食費は2か月間無料だ。
仮釈放後の無期懲役囚が、定員20人の半数を占めた事もあった。
山積みされた衣類や日常品、食料品の米、味噌、醤油に至るまで、支援者から寄付されたものだ。
理事長は、歴代現職の岡山市長が務め、地域の代表が古松園の役員になっている。
保護司の岩戸顕園長は元少年院の教官だ。
服役中の無期懲役囚75人の身元引受人で、これまでに仮釈放後の約80人の面倒をみている。
引き受けるに当たっての面接は、犯罪内容に踏み込む厳しいものだ。
古松園 岩戸顕 園長「強盗傷人・監禁・強盗殺人・死体損壊・死体遺棄。これだけ付いてるな。女性2人を拉致して、生き身のまま焼き殺し、死体をチェーンソーで切断したとある。普通の人がやることではない」
岩戸園長には、身元保証を懇願する無期懲役囚からの手紙が殺到している。
古松園で、岩戸園長の面接を受けていた無期懲役囚の住まいを訪ねた。
保護観察中の彼は1Kのアパートで暮らしている。
ーーここは独房より広いですね?
無期懲役囚(仮釈放 保護観察中)「広いですわね」
ーー社会の生活はいいですか?
無期懲役囚(仮釈放 保護観察中)「間取りも自由にできる」
ーー自由はいいですか?
無期懲役囚(仮釈放 保護観察中)「いいですよ。経験した人しかわからない」
生活保護は1か月10万5千円。
家賃4万円で、残りの6万5千円が生活費だ。
無期懲役囚(仮釈放 保護観察中)「(食材も)40%オフとかあるじゃないですか。そういう(安い)のを利用している」
事件を起こせば、再び無期懲役囚として収監されてしまう。
無期懲役囚(仮釈放 保護観察中)「対人関係とかは気を付けている。あとは、拾い物を時々します。財布を拾ったり、スマホを拾ったり。必ず交番に届けています。拾得物横領罪でどこでどうなるか分からないから、非常に気を付けている」
服役中の彼は、40年近い刑期で技術を高め、“備前焼の名人”と呼ばれるほどの腕前だった。
無期懲役囚(2015年放送時)「集中しないと。ブレたら製品が立ち上がりません。雑念が入ったら、自然に体に現れてきます」
いま暮らす部屋には、自分が作った備前焼が飾られていた。
ーー死刑判決だったらどうでしたか?
無期懲役囚(仮釈放 保護観察中)「なっててもおかしくない。感謝しています。あのまま終わっていたら、備前焼もできなかった。色々な人との付き合いもできなかった」
『無期刑については10年を経過した後、仮に釈放することができる』
法律ではこう定められているが、厳罰化が進み、千葉刑務所での無期懲役囚の仮釈放は、この3年でわずかに1人だった。
強盗殺人・無期懲役 60代・服役34年「拘置所も刑務所も15年経てば出られると言われた。現状は、終身刑みたい。生きて出られるのか」
死刑を免れても、“仮釈放”を目標に、最低30年以上の刑期を生きなければならない。
殺人・強盗殺人・無期懲役 40代後半・服役20年「死刑になると思っていたが、無期懲役になって生きることを許された。正直嬉しかったです」
令和4年の無期懲役囚は、約1700人。仮釈放の平均刑期は45年を越えており、終身刑化に拍車がかかっている。
無期懲役 覚せい剤密輸 男性「初犯が1年半、2回目が7年、今回が無期懲役です。500キロの覚せい剤を密輸。いつ出られるんでしょうかね。できるなら、私の命があるうちに出たい」
無期懲役・強盗致死 50代・服役13年「自殺した人もいた。年齢だけ重ねて、希望もなくなって、ここの中で死んでいくのが怖い」
全国7か所にある死刑場のひとつが、宮城刑務所仙台拘置支所に存在する。
オウム死刑囚の一人の死刑も、ここで執行された。現在も4人の死刑囚が拘置されている。
隣の宮城刑務所は『LB』に分類される。
Lは長期刑、Bは累犯、つまり複数回服役した受刑者が収容されている。
無期懲役囚は150人。
暴力団関係者も少なくない。
最高年齢は90歳。
ここ5年間の仮釈放はわずかに2人だ。
このため、塀の中での死亡、つまり“獄死”の増加に直面している。
報道特集のカメラが宮城刑務所の病棟に初めて入った。
そこには生死をさまよう受刑者の姿があった。
刑務官「もうちょっとでという感じの人たちです」
宮城刑務所(医療重点施設)の病棟には、末期がんや極度の認知症の受刑者たちが収容されていた。
彼は20代から、人生の殆どを塀の中で過ごしてきた無期懲役囚だ。
認知症が進み自分の境遇は全く意識の中にない。
ーーいま何歳ですか?
殺人・強盗殺人 無期懲役・80代後半「今なんぼだべ?ちょっと忘れた」
ーー自分の事件を覚えてますか?
「窃盗」
ーー刑期は?
「何か月だっけな。ちょっと忘れた」
ーー無期懲役ではないですか?
「無期(懲役)だ」
生死を彷徨い、死が近い重篤受刑者は“個室”に移される。
ーー病名は何ですか?
看護師「癌です。終末期の患者さんです。いろいろ転移してしまって」
症状の重さで部屋が分けられている。
出口に近いほど重篤だ。
病棟を出ると霊安室に通じる。
この日も霊安室には、すでに2つの棺が準備されていた。
参照元∶Yahoo!ニュース