“期待”の女性管理職が次々辞めてしまう「なぜ?」 真の女性活躍のために必要な「3つ」の取り組みを考える

キャリアウーマンをイメージした画像

最近、ある企業で女性管理職の退職が相次いでいる、と聞いた。

退職にまで至らなくても、「このまま課長職を続けるなら辞めます」と訴える女性管理職もいるという。

なぜそのような事態に陥ったのか。

今回は女性管理職が直面する問題と、女性管理職の“退職ラッシュ”の裏に潜む驚くべき事実とは何かについて解説する。

女性活躍の推進が求められる中、政府は2020年代の可能な限り早期に、管理職に占める女性の割合が30%程度になることを目指している。

「改正女性活躍推進法」では2022年から従業員が101人以上の企業に、管理職に占める女性労働者の割合を把握・分析し、数値目標をふまえた行動計画を策定するよう求めている。

また、男女問わず活躍できるよう、柔軟な働き方や、働きやすい職場環境は整いつつある。

しかし現実はどうだろうか?

8月に公表された帝国データバンクの調査では、女性管理職の割合は平均で10.9%だった。

調査開始以来、初の10%台だったが、国際的に見るとその割合は低く、目標達成にはほど遠い状況だ。

さらに、せっかく管理職になった女性たちが相次いで退職する企業もあるというのだから驚きだ。

法律が整備され、表面的には女性の活躍が進んでいるように見えるのに、なぜ苦労して管理職にもなった女性たちは辞めてしまうのか? 

女性管理職が退職してしまう要因は主に3つあると考えられる。

(1)過剰な期待と過少なサポート
(2)ワークライフバランスの破綻
(3)昇進の天井と成長機会の欠如

まず第一に、女性管理職が直面する問題で最も多いのは「期待とサポートのアンバランスさ」だ。

「男性にはない、女性ならではのマネジャーになってくれよ!」

と上司から過剰な期待を寄せられたり、ひどい場合は会社のアピール材料に使われたりする。

「わが社が他社と違うのは、女性社員が生き生きと働いていることだ。大幅に増やした女性管理職の役割がとても大きい」

学生向けの会社説明会で社長がこうアピールすると、人事部部長に抜擢された女性管理職は、「この場から消えたい」と心底思ったそうだ。

課長を2年しか経験していないのに部長に大抜擢され、周囲からの嫉妬ややっかみを感じながら過剰に期待されることは想像以上のストレスだった。

しかもサポートは皆無。

男性の管理職たちは経営陣によく飲みに連れていかれたが、そういう場への声はほとんどかからない。

「相談に乗ってほしい」と専務に持ち掛けても、「俺に聞いてもわかんないから」と逃げられる。

ある大手メーカーの総務部長は次のように語る。

「うちの会社では女性管理職の比率を上げることに注力しました。しかし昇進した女性4人のうち1人が退職。2人が降格を申し出てきました。理由を聞くと、『周りからの期待が重荷になった』『相談できる相手がいなかった』と言うのですが……」

男性中心の職場文化では、女性が孤立しやすい。

男性管理職に質問しても、「私たちもどう助言したらいいかわからない」と言うばかり。

「昔は男勝りの女性が管理職になっていた印象がありますが、今は気丈な性格でなくても女性管理職になれる時代ですから……」

総務の責任者でさえ手探りなのだ。

表面的には成功しているように見えても、精神的に追い詰められ、退職を選ばざるをえない女性管理職も少なくない。

その背景には、相談する機会やフォローを得にくい、という現状がある。

次に問題となるのが「ワークライフバランスの破綻」だ。

女性管理職は仕事と家庭の両立を求められることが多い。

42歳で課長職に就いたIT企業の女性は、出産が遅かったせいもあり、6歳と3歳の子どもを2人を抱える。

育児もしっかりやりたいが、夫は1年の半分を海外で過ごしているため、家事や育児の分担ができない。

夫の仕事は応援したいので、負担をかけたくない、という思いもある。

「退職して、実家のある宮崎に帰りたいと思うこともあります」

そう考えると、「退職」は現実的な選択肢だという。

「当社は女性社員が多く、女性の部下からは私をロールモデルにしたいとよく言われます。私も仕事が好きだし、会社に貢献したいのですが、このまま管理職を続けられる自信がありません」と嘆く。

「朝7時に家を出て、夜10時に帰宅する毎日です。週末も常にパソコンに向かっている状態で、家庭が破綻してしまう」

金銭的余裕があるのでシッター等を雇い、何とかしのいでいるが、この生活を何年も続けることはできないという。

3つ目の問題は「昇進の天井と成長機会の欠如」だ。

多くの企業では、女性管理職として一定のポジションまでは昇進できるものの、それ以上の役職に進むことができない「ガラスの天井」が存在する。

ある金融機関の元女性管理職は次のように語る。

「課長までは順調に昇進しましたが、それ以上はまったく道が開けませんでした。男性の同期は次々と部長、本部長になっていく中、自分だけが取り残される感覚がありました。将来に希望が持てず、退職を決意しました」

退職後、その女性はベンチャー企業へ転籍し、副社長に就任した。

また、男性上司との関係性や偏見によって、さらなる成長機会を与えられないケースも多い。

20年近く私は「マネジャー研修」を行ってきたが、女性の参加者が増えたという実感は皆無だ。

中小企業のみならず、大企業でも同じ。

私見にすぎないかもしれないが、管理職のみならず、将来の管理職候補への研修でも女性の参加者数は増えていない。

平等に教育の機会が与えられているのか、疑わしいのだ。

当然、このような成長の機会が与えられなければモチベーション低下につながる。

企業の多くは多様性を促進すると言いながら、実際には男性主導の意思決定プロセスを維持している。

そのため、女性管理職は限界を感じ、離職を決断せざるをえなくなるのだ。

これらの問題を解決し、女性管理職の退職ラッシュを止めるためには、次のような3つの取り組みが必要だ。

(1)メンター制度の導入

経験豊富な上司や先輩が女性管理職のメンターとなり、定期的に相談や助言を行う仕組みを作る。

もし社内にそのようなメンターがいなければ外部から定期的に招聘しよう。

こうすることで女性管理職たちの孤立感を減らすことができる。

 (2)柔軟な働き方の実現

「管理職になった以上、男性と同じように働いてもらう」などとすべきではない。

個人ごとに事情が異なるのだ。

在宅勤務や時間給、フレックスタイム制度を積極的に導入し、仕事と家庭の両立をしやすい環境を整えるべきだ。

女性管理職のさらなる昇進の道筋を明確に示し、必要なスキルや経験を積む機会を積極的に提供する。

対話を重ね、丁寧に説明する必要があるだろう。

評価基準を透明化することも大事だ。

「機会は平等に、評価は公正に」である。公正な昇進の文化を醸成することは、健全な組織作りに不可欠な要素だろう。

女性管理職の退職は、組織に与える影響がとても大きい。

なぜなら、「やっぱり当社は古い体質だ」「あんな優秀な女性でも管理職が務まらないなんて、会社がダメな証拠だ」とレッテルを貼られるに違いないからだ。

よほどのことがない限り本人の問題とは受け止められない。

これは単に女性の問題だけではなく、組織の多様性や創造性、さらには企業の持続可能性にも関わる重要な課題だ。

超少子高齢化の時代に向けて、企業はどのように生き残っていくのか?

企業ごとにいろいろな施策を打ち出している。

しかし「女性活躍促進」が最重要課題のひとつであることは間違いない。

表面的な数字合わせではなく、組織の根本的な変革が必要だ。

容易なことではないが、この課題に真摯に向き合い、解決策を見いだしていくことが、すべての企業に求められている。

参照元:Yahoo!ニュース