非公認はつらいよ 政権放送NG、ビラ枚数の大幅減 候補者「背水の陣」

選挙に立候補している政治家

非公認は崖っぷちなのか。

15日に公示された衆院選で、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件に関与した大物政治家らが党の公認を得られず、10人が無所属で立候補した。

公認は世論の理解を得られないと党本部が判断したためだ。

無所属だと公認候補に比べて選挙活動が制約され、当選の道も狭まる。

ある候補者は「背水の陣」と言い、経験者も「不便でした」と語る。

政党の後ろ盾がないと、選挙戦の何が変わるのか。

最も厳しい点は、非公認だと小選挙区の立候補に限られることだ。

政党の公認候補の多くは、小選挙区に出馬すると同時に、政党や政治団体の間で得票数を競う比例代表にも立候補している。

小選挙区と比例代表の両方に出るため「重複立候補」とも言う。

もし小選挙区で敗れても、当選者と接戦を演じれば「惜敗率」(自分の得票数を当選者の得票数で割った数字)が高くなり、比例代表で救われて当選する可能性がある。

これを「比例復活」と呼び、ある意味ではセーフティーネットになっている

一方、無所属候補は比例代表に出られないため、比例復活の道が閉ざされる。

今回、裏金事件で公認を得られなかったある候補者は過去に2回、比例復活で当選している。

公示前の街頭演説では「日本刀でチャンバラをするようなもの」と述べ、悲壮感も漂わせた。

選挙活動の格差も小さくない。

たとえば、政策や経歴を伝える選挙ビラの枚数は、政党が公認する候補の方が多く配れる。

小選挙区の候補者は誰でも7万枚が上限となるが、公認候補の場合、これに政党・政治団体が各選挙区で配れる4万枚のビラを上乗せでき、11万枚まで配れるのだ。

無所属候補にはこの上乗せ分がないため、今回非公認となる候補にとっては、従来よりもビラの枚数が4割減ることになる。

選挙ポスターの掲示についても、候補者個人は、自治体が設置する公営の掲示板だけに制限されるのに対し、政党・政治団体は個人宅や商店といった建築物にも所有者の許可を得れば1000枚を上限に張ることができる。

このポスターに候補者の写真を載せれば、さらなる知名度アップにつなげることができる。

また、選挙カーについて候補者個人は1台までとなっているが、政党・政治団体は各都道府県内に擁立した候補者数に応じて使用が認められる選挙カーが増えるため、公認候補になれば使える選挙カーの数も変わってくる。

さらに如実に差が出るのが、政策を訴える場となる政見放送だ。

これは政党・政治団体にのみ認められており、9分以内に編集した映像をテレビで放送できる。

公認候補ならこの映像に登場したり、詳しいプロフィルを紹介してもらったりすることが可能だ。

しかし、無所属の候補は氏名や年齢、経歴のみの放送に限られ、アピール力は弱まる。

資金面でのハードルも上がる。

自民党の場合、公認候補には500万円程度の公認料と小選挙区に立候補するための供託金300万円が出るとされるが、非公認になると公認料がもらえず、供託金は自分で用意しないといけない。

経験者は非公認での選挙戦をどう感じたのか。

「公示直前に突然、公認では立候補できないことになりました。ポスターは刷り直しになり、党の選挙カーも使えません。物理的に不便でした」

こう振り返るのは、2017年衆院選大阪区に無所属で立候補した平野博文元官房長官(75)だ。

平野氏はその頃、民進党(当時)の府連代表。

民進党は選挙直前に希望の党(当時)との合流を決めたが、希望の党は日本維新の会が牙城とする大阪には維新との調整で候補者を擁立しないと決めていたこともあり、平野氏ら大阪の民進党候補13人は路頭に迷う危機に追い込まれた。

平野氏以外の12人は、枝野幸男氏らが結成した立憲民主党に移籍したり、他の選挙区にくら替えしたりするなどしたが、自身は地元から無所属で立候補する道を選んだ。

「それまで支えてもらっていた土地ですから。選挙戦が制限されることを承知のうえで、無所属で出馬しました。私の場合は『裏金議員』とは根本的に事情が違うでしょう」と振り返る。

平野氏は投開票の結果、自民党と日本維新の会の両候補を破り、無所属ながら当選を果たした。

比例復活の道が閉ざされたことに不安はなかったのか。

「『復活当選になれば』という気持ちで選挙戦を戦う人はいないのではないでしょうか。気持ちの上では変わりません。私も選挙中は『金メダルを取らせてください』とお願いしました」と語った。

参照元:Yahoo!ニュース