「ゾンビ」と揶揄される比例復活 小選挙区との重複立候補対応から透ける各党の思惑

衆院選では小選挙区と比例代表の双方で出馬する重複立候補が可能だ。
重複を認めるかどうかは公認権を握る各党執行部の判断に委ねられ、候補者の命運を左右する。
27日投開票の今回は「政治とカネ」が最大の争点とされ、自民党は派閥パーティー収入不記載事件に絡んだ34人の重複を見送った。
「背水の陣」を敷いたのは自民だけではない。各党の対応からそれぞれの戦略が浮かび上がる。
「退路を断ち、小選挙区の一本勝負だ」
衆院選が公示された15日、不記載事件に関わったとして比例重複が認められなかった大阪の自民候補は、街頭演説で危機感を示した。
不記載候補の重複立候補を認めなかった理由について、石破茂首相(自民総裁)は13日、「(小選挙区で敗れた場合の比例での)復活はあり得ない。正面から小選挙区の有権者に向き合い、判断を求めるということだ」と説明した。
不記載以外では、首相ら党幹部のほか、党の内規にある「73歳以上」の年齢制限に該当して重複しない候補もいる。
大阪の19小選挙区では自民候補15人のうち5人が比例重複を見送り、全小選挙区に擁立した日本維新の会は9区を除く18人について重複を認めなかった。
維新の吉村洋文共同代表(大阪府知事)は15日、大阪市内での街頭演説で「背水の陣だ。大阪の議員が自公と戦って勝ち上がり、永田町でぶつかっていく」と訴えた。
維新は大阪を除き比例重複を認めており、大阪だけでなく国会議員のいる地域を広げたい考えだ。
公明は、維新と初対決する大阪と兵庫を含む全11小選挙区で比例重複を見送った。
平成21年衆院選で、関西では大阪と兵庫の計6小選挙区で全敗し、自民とともに下野した歴史がある。
公明大阪府本部の石川博崇代表は14日、今回の衆院選について「関西の情勢は極めて厳しく、選挙区によっては落選の危機もある」との認識を示し、「小選挙区の有権者の判断を最重要視し、正々堂々と挑む」と強調した。
他党はどうか。
立憲民主党は原則として比例重複を認めるが、野田佳彦代表ら一部の幹部は小選挙区単独とした。
共産党は田村智子委員長が比例東京ブロックで候補者名簿の1位になるなど比例単独候補を上位とし、その下に重複候補を登載しているケースもある。
同党は「論戦力を評価し、候補を決めている」とした。
国民民主党は小選挙区の全候補者を比例重複とし、名簿順位も1位とした。
れいわ新選組は「比例代表中心の選挙制度を目指し、原則は重複あり」とし、社民党は選挙区事情を考慮して決定。
参政党は党内会議で重複候補を決めるとしている。
衆院選の比例代表で有権者は政党に投票する。
候補者に投票する小選挙区では各小選挙区の最多得票者が当選するため、落選候補に投じられた票は「死票」と呼ばれる。
民意をより反映させることを目的とし、少数政党も議席を獲得できるよう比例代表を組み合わせた経緯がある。
現行の小選挙区比例代表並立制は、政治改革の一環で平成8年の衆院選から実施された。
定数の見直しが重ねられ、現在は小選挙区289、比例代表176の合計465の議席を争う。
比例代表では全国11のブロック別に各党の得票数に応じて議席が配分され、各党の候補者名簿の上位から当選者が決まる。
複数の重複立候補者を同一順位にすることができ、小選挙区で敗れた場合は「惜敗率」(当選者の得票数を基準とした落選者の得票率)が高い順に復活当選する仕組みだ。
ただ比例復活した議員は「ゾンビ議員」などと揶揄(やゆ)されてきた。
海外では、比例代表を柱として小選挙区と関連付けた「併用制」を採用する国もある。
政党と小選挙区候補者に投票する点は並立制と同じだが、併用制では全議席を政党の得票率に応じて割り振り、小選挙区を勝ち抜いた候補者が当選者となる。
各党の議席数は得票数に比例するため、民意をより正確に反映できるとされる。
現行の小選挙区比例代表並立制を導入した政治改革においては、政治家個人から政党主体の政治に変えるという問題意識が出発点になっていた。
小選挙区制が目指すのは、政権交代を懸けて主要政党が競い合う英米型の二大政党制だ。
ただ小選挙区でこぼれ落ちた民意を補うために導入した比例代表では、小選挙区での惜敗率が当落の鍵を握る。
政党主体の政治を目指すなら、政党の判断と責任をより反映させる制度とすべきだが、現行では有権者の投票行動に左右される。
一方、各選挙区で複数人が当選する中選挙区制の時代は、投票先を政党ではなく、候補者個人で選ぶ感覚があり、今も根強い。
小選挙区で落選した候補が比例復活する仕組みに有権者が疑問を抱く状況が続いている。
現行制度導入から約30年がたった。
地域政党やワンイシュー(単一論点)型の政党が生まれ、政党のあり方も変わっている。
導入時の理想と制度の間でズレが生じていないかを検証し、国民が納得する選挙制度について議論を始めるべきだろう。
参照元:Yahoo!ニュース