王者Netflixの“隙”、忍び寄る2番手U-NEXT オリジナル無しの逆張り戦略

動画を視聴しているユーザー

定額制動画配信サービス市場において、現在、勢いづくのが「U-NEXT」だ。

独自の戦略でユーザーの取り込みに成功。

競争激しい市場ながら、直近23年のシェアはその前年から2.4ポイントも上積みして15.0%にまで成長している。

王者Netflixがシェアを落としているのとは対照的だ。

定額制動画配信サービスが活況だ。直近の国内市場規模は5054億円と見られ、それまでの1年間で12.1%増と2桁成長を見せる。*

*GEM Partners(東京・港)の「定額制動画配信(SVOD)サービス別 国内市場シェア推移」(2024年2月公開)から、23年の推計。契約形態にかかわらず、消費者が動画配信サービス事業者に支払った金額の総計。22年は推計4508億円

動画配信サービスと言えば、米Netflixの名が真っ先に挙がる。

世界最大で、豊富な資金力を武器に高品質のオリジナル作品を次々に手掛ける。

日本では『愛の不時着』(2020年)、『イカゲーム』(21年)と2年連続で話題に。

どちらも「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるほどの社会現象になった(『愛の不時着』は受賞もした)。

そして最近では、『地面師たち』がヒットしたことを知っている人は多いはずだ。

綾野剛、豊川悦司らが出演したこのクライム・サスペンス作品は、Netflix内のランキング1位を連発と大ヒットしている。

また、他サービスでも話題の「国産」オリジナル作品が続々登場し、動画配信サービス人気に拍車をかけている。

例えば、宮藤官九郎が企画・監督・脚本を務めた『季節のない国』(Disney+)は注目を集めた。

こうした状況にあって、現在、勢いづくのが市場2番手の「U-NEXT」だ。

24年9月には、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーとの契約締結を発表。

同社の動画配信サービス「Max」のコンテンツを独占配信する。

U-NEXTは独自の戦略でユーザーの取り込みに成功。

直近23年の市場シェアは22年と同じく2番手だが、2.4ポイントも上積みして15.0%にまで成長している。*

21.7%とシェアトップに立つNetflixのほか、DAZN、Disney+、Huluといった有名どころは23年にシェアを軒並み落としており、明暗を分ける(Amazon Prime Videoもシェアを上げているが、1.1ポイント増にとどまる)。*

*GEM Partners(東京・港)の「定額制動画配信(SVOD)サービス別 国内市場シェア推移」(24年2月公開)から、23年の推計

U-NEXTが抱える有料会員の数は右肩上がりで、24年5月時点で433.9万人に到達。

コンテンツ配信事業の売上高は23年8月期に前の期比19%増の851億円とまさに波に乗っている。

ではどうやって海外勢に対抗できているのか。

まず分かりやすいのが、動画コンテンツの圧倒的に豊富な品ぞろえだ。

その数は36万本に上り、ジャンルも邦画、洋画、海外ドラマ、アニメ、舞台・演劇などと多種多様。

これに魅力を感じて競合サービスから乗り換える利用者は多い。

「視聴数が少ないコンテンツも残し続け、とにかく在庫を増やす戦略を取り続けてきた。オリジナルコンテンツがないからこそたどり着いた、逆張り的発想だ」と語るのは、U-NEXT経営戦略室ブランド戦略Gの佐野裕美氏だ。

コロナ禍以降は動画配信サービスがより身近になり、この膨大な品ぞろえが強力な集客装置として効果を発揮。

「見たいものを探していたら、U-NEXTにたどり着いた」という利用者も多い。

この“物量作戦”を可能にしているのが、アーカイブ管理の内製化だ。

「メタデータ情報の登録、エンコード作業、データストック容量の管理。アーカイブに関わる作業は、すべて社内でカバーしている。そのため、一連の管理費を抑えられ、その分、コンテンツを増やしやすい」(佐野氏)

抱えていた弱点の解消も、U-NEXT人気を後押ししている。

実はもともとU-NEXTは国内・海外ドラマの作品数が競合サービスと比べて少なかったが、21年から反転攻勢。

まずは同年に『ゲーム・オブ・スローンズ』などで知られる米国のケーブルテレビ「HBO」作品を見放題とする独占配信を始めたのだ。

そして23年には大胆な試みを決行。

TBSとテレビ東京系のドラマ作品やバラエティー番組を配信していた「Paravi」を統合した。

これにより新規利用者を獲得するだけでなく、ドラマ作品の品ぞろえに不満を感じていた利用者の再獲得にも成功している。

このParavi統合により、大きな副産物も得た。

いまひとつだった認知度がアップしたのだ。

「テレビ番組の放映最後に『過去の放送はU-NEXTで』と告知されるメリットは大きい。取り組んできたデジタルマーケティングではリーチできなかった層に対して、アピールできるようになった。その効果は統合前に想定していた以上だ」(佐野氏)

この結果、有料会員数は大幅に伸長。

23年2月末は292.5万人だったが、同年6月のParavi統合を経て、24年5月には433.9万人と急増した。

1年数カ月で140万人超増えた計算になり、佐野氏はU-NEXTの認知度アップも大きく寄与したと見ている。

ここで興味深いのは、近年、「オワコン説」が強まるテレビというオールドメディアの底力だ。

佐野氏は民放公式テレビ配信サービス「TVer(ティーバー)」の強い送客力について指摘。

無料のTVerは月4000万UB(ユニークブラウザー)を誇り、ここからの流入が如実に増えているという。

「Tverのドラマ配信はその週の放送分や1~3話限定というパターンが多く、過去放送分をU-NEXTなどの動画配信サービスで楽しむケースが散見される。TVerが動画視聴の入り口として機能してくれている」(佐野氏)

では、競合サービスのようにドラマや映画のオリジナル作品制作には、今後も手を出さないのか。

この疑問に対して、佐野氏は「作りたいという思いはあるものの、資金力がまだ弱い。その前に、ドラマや映画に比べるとコストが少なく済み、オリジナリティーを出せる自社のIP(知的財産)を増やしていきたい」と説明する。

実はU-NEXTは20年にオリジナル小説、22年にオリジナルコミックの制作体制を立ち上げた。

24年9月には小説『団地のふたり』がNHK BSでドラマ化されている。

「他社のように映画やドラマに継続的な投資を続ける体制はまだ整っていない。出版文化が根付いた日本だからこそ、ゼロからイチを創り上げるやり方でU-NEXTの存在感を示していきたい」(佐野氏)

「ライブコンテンツの強化」もU-NEXT人気を強固なものにしている。

近年、スポーツや音楽関連のライブコンテンツを精力的に増やしており、23年のライブ配信はスポーツが2888本、音楽が160本という実績をたたき出した。

さらに24年7月にはプロサッカーリーグ「プレミアリーグ」(イングランド1部)と7年間のパートナーシップ基本契約を締結。

同年8月から「U-NEXTサッカーパック」をスタートさせている。

U-NEXT代表取締役社長を務める堤天心氏は、「利用者が寄せる熱量が高いライブコンテンツの中でも特にサッカーは有望株。試合が定期的に開かれる点も含めて、サブスクリプションの動画配信サービスとの親和性があるコンテンツだ」と狙いを説明する。

 U-NEXTでスポーツを観戦する利用者は継続率がとても高く、今回のプレミアリーグとの契約でさらなる向上を狙う。なお、こうしたライブコンテンツは施設からの需要も高く、「インバウンド需要に沸くホテルなどからの要望が多い」(堤氏)という。

数々の施策をバックアップするのが、一度、契約した利用者をつなぎ留め続けるもともとの仕組みだ。

とても“強固”で、解約率の低さには定評がある。

利用料金は月額2189円(税込み)と競合に比べて割高ながら、雑誌読み放題(電子書籍)やU-NEXT内で使えるポイント付与という特典が利用者の心をつかんでいる。

しかもこのポイントは電子書籍の購入にも使えるため、利用者によっては割安感がぐっと増す。

海外勢に対して、いわば「弱者の兵法」を駆使しながら勢いづくU-NEXTだが、この現状を当事者はどう見ているのか。

「まだまだで、到達度は70点くらい。強みを生かしながら、競合との差別化を進めていきたい。プレミアリーグとの契約でライブコンテンツを強化できたので、まずは会員数500万人を目指す。それを超えると新たなステージが見えてくると思う」

参照元:Yahoo!ニュース