電力需要急増で注目浴びる原発、米国では新設に高い壁

電気をイメージした画像

人工知能(AI)ブームに伴う電力需要の急増が、ついに米国の原子力政策を動かした。

機械学習による莫大な電力消費を受けて、1979年にメルトダウン(炉心溶融)事故を起こしたことで知られる東部ペンシルベニア州スリーマイル島原子力発電所が再稼働に向けて動き出し、中西部ミシガン州でも来年、原発が再稼働する予定だ。

民間と政府でこうした動きが起きていることで原発復活への期待が盛り上がっているが、原発を新設するには経済効率やプロジェクト管理に関わる重大な課題を克服する必要がある。

米エネルギー省の推計によると、米国は発電量を今後10年で20%増やす必要がある。

この数字は電力消費量が倍増した1960年代に比べるとはるかに小さいが、需要が低迷した過去20年間からは劇的な増加となる。

背景にはデータセンターの増設、メガファクトリーの建設ブーム、脱炭素化、AIの急激な普及などがあり、電力需要はさらに増加する見通しだ。

クリーンな電力の供給は難しい。

例えば、スリーマイル島の原子炉の発電量は800メガワット超。

一方、オープンAIの共同創業者のサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は、電力消費量が5ギガワット(GW)のメガデータセンターを複数建設する計画を明らかにした。

これはスリーマイル島原発を手がける米電力大手コンステレーション・エナジーが運営する原子炉6基分に相当する。

米エネルギー情報局(EIA)によると、米国の電力供給能力は約1200GW。

データセンター向けの電力は24時間体制で供給する必要があり、しかも顧客の大半が再生可能エネルギーなどで発電された「グリーン電力」を望んでいる。

しかし、需要の増加に伴ってこうした要求に応えるのはますます困難になっている。

仮に1つのデータセンターの電力需要を5GWとすると、通常能力の太陽光パネル約1000万枚が必要になる。

これほどの量のパネル設置には広大な用地が必要で、特に人口密集地では非常な困難を伴う。

だが、最も難しいのはセンターを24時間365日稼働するための電力の安定供給だ。

風力や太陽光発電は自然の力に依存している。

バッテリーで電力を蓄えることはできるが、長期的に供給と需要の間にズレが生じ、コスト面で問題になる可能性がある。

電力需要が一段と高まればこうした問題はますます深刻化する。

こうした課題への代替案として、ガスタービン発電を設置するか、発電能力1GWの原発を5基建設するという選択肢が残る。

米半導体大手エヌビディアのジェンスン・ファンCEOが最近「AI競争に勝つには原子力なしでは不可能だ」と発言した理由の一端がここにある。

もしもファン氏の意見が正しいのなら、電力業界は大きく変わらなければならない。

原発は炭素を排出しない大規模な電力源であり、石炭よりもはるかに安全だが、核廃棄物の管理や大規模な事故への懸念があり、風力や太陽光発電に比べて支持は低迷している。

さらに投資家は原発建設に関わるコストの超過や計画の遅延に懸念を抱いている。

業界団体によると、原子力由来の電力は2006年以来、増えていない。

原発がリスクを抱えている上、新たな大規模な電力源への需要が限られることから、電力会社の多くは設備投資に消極的だった。

あえて原発に踏み出した企業は苦労させられた。

米国内で最も新しい南部ジョージア州のボーグル原発は建設に約15年を要し、費用は当初見通しの140億ドルの2倍に膨らんだ。

対照的に太陽光や風力プロジェクトの設備投資は原発よりもずっと少なくて済む。

予想外の問題が発生することも少なく、素早く供給を開始できる。

ラザードのアナリストによると、原発の平準化電気コスト(発電所の建設と運営にかかる全体的な費用)は1メガワット時あたり190ドルで、太陽光と風力はその3分の1以下だ。

さらにグリーンエネルギーは価格が下がり続けており、可能であれば太陽光発電一択の状態となっている。

休止中の原子力発電所の再稼働には競争力がある。

原発は建設に多額の費用がかかるが、運転コストは比較的低い。

ラザードの試算によると原発の運転コストは1メガワット時あたり32ドルと新型太陽光発電と同等で、既存の石炭火力発電所の半分だ。

コンステレーションは、スリーマイル島の施設の再稼働費用を16億ドルと見積もっている。

1979年に事故を起こした原子炉と異なり、再稼働対象の炉は安全性に対する懸念も最小限だ。

政府による税額控除は年間1億ドル相当に達する可能がある。

さらにマイクロソフトが発電した電力を1メガワット時あたり110ドルから115ドルで購入する予定だと、ジェフリーズのアナリストは見込んでいる。

米国には他にも休止中の原発が少数ある。

これらが再稼働された後は、原子炉の新規増設が検討されることになる。

既存の敷地内での建設なら、すでに存在するインフラを利用し、当局からの承認も迅速に得られる見通しが立ち、コストをいくらか抑えることができる。

しかしこの手法が尽きれば、後はゼロから計画を立ち上げるしかない。

原発新設に当たり、電力会社は長期的な需要があるという確信を得たがるだろう。

実際、1980年代には経済成長が予想を下回ったため、承認を受けた原発のうち30件余りが撤回された。

また、建設業者は妥当な金利での借り入れを望むだろう。

こうした制約をクリアできるかは、電力を使う企業が長期契約を結び、政府が一部の財務リスクを引き受け、インフラファンドや銀行が取り組みに参加し、さらに国民の支持を取り付けることができるかどうかにかかっている。

いくつか期待を抱かせる動きもある。

マイクロソフトは電力購入に前向きで、エネルギー省はミシガン州の原発に対して15億ドルを融資する。

また、ゴールドマン・サックスなど最大14の金融機関が、2050年までに世界の原子力を3倍にするというアイデアを支持している。

ただ、こうした動きではまだ十分とは言えない。

原発推進にとって大きな力を発揮するのは「標準化」だろう。数千人の労働者を雇用し、カスタマイズされた単発の巨大プロジェクトのために特殊なスキルを教えるという進め方は、建設業者や金融業者の不満を招く。

モデルとなる原子炉で合意をまとめ、複数の発電所への導入が決まれば、建設コストを劇的に抑えられる。

一部の起業家が提唱する小型原子炉はまだ実証されておらず、大規模で、既に確立している設計に収れんする可能性が高い。

政府が介入し、強力に合意をまとめるのが理想的だが、米国では政治的に難しいだろう。

エネルギー省は今年9月、もし全てがうまくいけば原発のコストが1メガワット時あたり60ドルまで下がる可能性があるとの試算を示した。

これは太陽光より高いが、天然ガスより低い。

しかしながら、全ての条件をクリアするのは核分裂の管理と同じくらい困難なことかもしれない。

参照元:REUTERS(ロイター)