神田前財務官「日本はもはや大国ではない」「貢献する意志と能力があるのかに尽きる」 ADB総裁候補として意気込み
政府からアジア開発銀行(ADB)の次期総裁候補に指名された前財務省財務官の神田真人・内閣官房参与が4日、読売新聞のインタビューに応じた。
神田氏は10月下旬から11月にかけて投票が行われる総裁選に向け、「総裁に就任したら、加盟国で既に合意した戦略の実施を加速させながら、環境変化にも柔軟に対応したい」と意気込みを語った。(聞き手・鞍馬進之介)
――ADB総裁候補に指名された受け止めは。自身の強みや活かしたい経験は。
「擁立をいただいた要素だと承知しているのは、これまでG7(先進7か国)の議長などを通じて国際協調の議論を主導して政策対応の推進に貢献し、OECDコーポレートガバナンス委員会の議長として、国際的な合意形成を行ってきた。世界銀行など国際機関での経験も豊富で、ASEANプラス3(東南アジア諸国連合と日中韓3か国)会合の議長としてアジア太平洋諸国の状況にも精通していて、各国の大臣、次官、総裁、国際機関のトップと長年にわたる親密な関係があることなどだろうと思う」
「こういった経験を生かして、これまでの取り組みや成果をしっかりと引き継ぎながら、ADBが地域のさらなる発展に貢献できるようにリードしていきたい」
――ADBが1966年の創設以来、アジア太平洋地域で果たしてきた役割は。急速に発展するアジア太平洋地域の現状や課題は。
「アジア太平洋地域で一番大事なのは多様性だ。ADBの加盟メンバーは所得水準や国の広さ、文化、歴史、宗教などが異なる。当然開発ニーズも多様で、きめ細かく対応できる幅広い支援ツールや各国の事情を熟知しているのがADBの強みだ。支援を受けている国に対しては『顧客第一の精神』で寄り添い、『ホームドクター』として、一緒に問題解決に取り組んでいくべきだ」
「他方で、日本を含めた『ドナー』(援助国側)が重要だと思っている開発課題も、誠実に一生懸命に取り組む機関だ。日本を含め、ドナー国の納税者からも信頼される国際機関になることを訴えていかなければいけない」
――総裁選ではどのような政策を打ち出していくか。
「総裁になったら、被援助国とドナー両方の意見を聞きながらやっていくが、まずは、加盟国で合意した戦略の実施を加速させる。気候変動対策や民間資金の導入、民間部門の開発が中心になるが、それ以外にも地域間協力やデジタル化への対応などをしっかりやる。天災など新しいことがたくさん起こるので、そういった環境変化に柔軟に対応して迅速な支援ができるようにしなければいけない。今の戦略を実施する中で、より効率的、効果的なやり方がないのかということは絶えず考えていく」
「正直厳しい情勢の中、何とか過半数を取って勝ち抜けるように、各加盟国に支持をもらえるように精いっぱい働きかけていきたい」
――中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)との連携についても注目される。
「AIIBは当然インフラが中心であり、アジアの膨大なインフラ開発需要に貢献している。ADBに対して協調融資もしてきており、対立しているわけではない。ADBは、世銀に次いで世界最大の開発銀行であり、インフラだけではなく、貧困削減から気候変動まで幅広い任務がある。協調できる部分についてはこれまで通り協調していく」
――ADBは歴代総裁をすべて日本人が務めてきた。「日本の指定席だ」というような見方も一部ではある。日本人が務める意義は。
「それは全く間違っている。国際機関の長は開かれた透明性のある実力本位の原則に従って選ばれるべきだ。政治的な中立性と多様性が組織の大原則なので、誰が総裁になっても特定国だけのために仕事をするということはあり得ない」
「日本はしょっちゅう地震や津波に悩まされ、台風や洪水が毎年のように起き、さらに気候変動によってそれが激しくなっている。(災害に見舞われた加盟国の)悩みを共有できる。日本は天然資源に乏しくて、食料からエネルギーまで、重要な物資を国際市場に依存している。日本人は、安定して繁栄する世界を望み、作っていくという強い意志がある」
――日本の経済規模が相対的に低下していて、選挙戦になった場合厳しいのではないかという声もある。
「日本はもはや大国ではない。中国の経済規模は日本の4倍で、インドにもGDPで抜かれる見通しだ。しかし、国際機関の長は経済規模で決める話ではないはずで、どれだけアジアや世界に貢献する意志と能力があるのかと言うことに尽きるだろう」
参照元:Yahoo!ニュース