美容室の倒産が増えているのに、なぜ「特化型店」は好調なのか

美容室をイメージした写真

帝国データバンクの発表によれば、2024年に発生した美容業(美容室)の倒産は8月までに139件に達した。

2023年の同期間に比べて約1.5倍となり、年間最多だった2019年(166件)を大きく上回る勢いで推移している。

背景には、新規開店の増加による店舗間競争の激化、美容資材の価格高騰、スタイリストの獲得難といったコスト増がある。

そうした中、特定メニューの専門性をアピールする「特化型」で売り上げを拡大している美容室が目立ち始めている。

そこで、全国に130店舗以上を展開する「ヘアカラー専門店fufu(フフ)」、幅広い髪質に対応する縮毛矯正「sins式髪質改善酸性ストレート」を打ち出す「sins(シンズ)」、アニメキャラの髪色再現に定評がある推し活特化の「Wille(ヴィレ)」の3社に、ビジネス戦略と反響を聞いた。

「ヘアカラー専門店fufu(以下、fufu)」は、2014年に創業したFast Beauty(ファストビューティ)社(東京都港区)が運営するヘアカラー専門の美容室だ。

同年10月に東京・中野に1号店をオープンし、2024年9月現在は全国に130店舗以上を運営している。

同社の取締役CSO 原田悠氏は、ビジネスモデルの着眼点は「白髪染め」だったと話す。

同社がターゲットとする30代後半以降の女性は、約3カ月に1回のカットに対して、白髪染めは月に1回が通常だ。その際、既存の美容室で染めるのは金銭的にも時間的にも負担が大きい。

かといって自宅で染めるのは、手間がかかる上にキレイに染まりづらい。

そうした既存サービスのネガティブポイントに着目し、美容師のカラーを低価格、短時間で提供するヘアカラー専門店を開業。

リタッチ(伸びてきた根元部分だけを染めること)は3080円(初回のみ1980円)で、全体カラーでも60分以内で完了する。

ブリーチを使用したハイトーンカラー(明るい色に染めること)など時間がかかるメニューは提供していない。

筆者がfufuを利用した際、一連の作業が徹底して効率化されている点に驚いた。

スタイリストが担当するのはカラー剤の塗布からシャンプーまで。

ブローはセルフとなる。

施術・待機・ブローのスペースが分けられており、顧客の動線もスムーズに設計されていた。

この効率化を支えているのが自社開発の予約管理システムで、一切のムダを省いて運営するためのアルゴリズムが肝になっているという。

予約は自社アプリ、美容室の検索・予約サイト、電話の3パターンで受け付けているが、すべてが1つのシステムに連携され、リアルタイムで予約枠が管理される。

システムが自動的に予約枠を判断し、予約を入れることで効率的な運営を実現しているのだ。

「当社のビジネスモデルに似たヘアカラー専門店は増えていますが、10年かけて積み上げてきたシステムの精度は真似しづらいでしょう。当社では効率化している分、カラー剤などの原料にはむしろコストをかけていて、それが顧客満足度につながっていると思います」(原田氏)

メニューを限定して全国に規模を拡大していることから、管理や教育の仕組みを整えやすい点も差別化ポイントになっている。

カットと比べてカラーの施術はハードルが低いため、出産・育児などで一度現場を離れた美容師も採用しやすいそうだ。

2020年12月に創業し、sins式髪質改善酸性ストレート(縮毛矯正)を掲げる銀座の「sins」も、特化型で成功している美容室の一つだ。

同メニューはsinsが開発したオリジナルの薬剤を使用した酸性ストレートで、2万6000~3万8000円(スタイリストによって変動)と高価格帯となる。

厚生労働省が発表している平均的な縮毛矯正の価格(関東・甲信越で1万1675.5円、2018年)よりも大幅に高い。

縮毛矯正は頻繁に行う施術ではなく、半年~1年に1回のペースが通常だ。

にもかかわらず、約85%がリピーターであり、予約が取りづらい状況になっている。

sinsを運営するsinsコスメティクス社(東京都中央区)の創業者であり、代表取締役の日野達也氏の予約は数カ月先まで埋まる人気ぶりだ。

日野氏は、元々「ボブ専門」の美容師として女性客から人気を集めていたが、コロナ禍で「縮毛矯正」に路線変更した経緯がある。

「どんな時代でも生き抜ける術を身につける必要性を痛感し、人口が多く美容室の利用率が最も高くなる50代女性をターゲットにしたいと考え、縮毛矯正のニーズに行き着きました。一般的な縮毛矯正はアルカリ性の薬剤を使用するのですが、傷んだ髪などは施術が難しく、より幅広い方に対応できる『酸性の縮毛矯正』に狙いを定めました」(日野氏)

スタイリストの個性をウリにするカットよりも、「sinsの縮毛矯正」をブランド化することで、「人」に依存しないビジネスモデルを構築したいと考えたという。

一方、既存の酸性ストレートの薬剤は扱いが難しく、高度なスキルが求められる。そこで、扱いが容易な薬剤を開発することにした。

約8年前から縮毛矯正を研究してきた知見を生かし、創業後は店舗運営と並行して薬剤の開発に注力。

2021年6月に完成させた。

sins式髪質改善酸性ストレートと名付け、自社で使用するだけでなく、全国1100店舗の美容室に薬剤を販売している(2024年9月現在)。

薬剤の完成により酸性ストレートの提供がしやすくなり、スタイリストの教育コストもかかりづらくなった。

2024年1月には店舗を拡張移転し、現在は日野氏を含む9人のスタイリストで運営している。

「薬剤の開発には、総額で約8000万円の費用がかかりました。創業3期目(直近)の売上高は2億6000万円で、前期から約2.2倍の成長率です。新規のお客さまには酸性ストレートしか提供していませんが、競合が少なく売り上げを伸ばしやすいビジネスモデルです。縮毛矯正という高価なメニューゆえに、失敗したくない心理が働き、平均より高価であることが集客につながる側面があります」

2015年に創業した「Wille」は、推し活をサポートする美容室として、アニメファンを中心に支持を集めている。

「開店時は一般的な美容室として営業していたのですが、近隣に多かったハイトーンカラーを提供する美容室と差別化を図りたいと考え、アニメキャラクターの髪色を再現する『2.5Dカラー』を考案しました。SNSに投稿していたところ、多くの人がそれを目的に来店するようになりました」(Wille 代表取締役 志賀尚之氏)

最初に話題になったのは、人気アニメ『ラブライブ!』に登場するキャラクターの髪色を再現した投稿だった。

“ことりベージュ”と名付けて紹介したところ、女性向けのキュレーションサイトに取り上げられ、そこからSNSを経由して多くの予約が入るように。

その後も、『鬼滅の刃』をはじめ人気アニメのキャラクターの髪色を再現した投稿が注目され、「推し活特化型の美容室」として知られるようになった。

Willeの場合、2階と3階の2フロアのうち2階は「推し活特化」としてフィギュアやアニメのポスターなどを飾り、3階は通常のフロアとして営業。

推し活向けにとどまらない幅広いメニューを提供しているが、「推し活特化」を打ち出すことで集客に成功している。

2018年からは、人気アニメとコラボした期間限定の「コラボ美容室」の取り組みも始まった。

「コラボ美容室の実施は年に2回ほどで、そのアニメの人気キャラクターをイメージしたヘアスタイルやポイントエクステなどのメニューを提供するほか、店内もコラボ仕様に装飾します。アニメファンの方が興味を持って来店してくださり、新規顧客の獲得につながっています」

志賀氏いわく、来店動機で最も多いのは「アニメ関連のイベントに参加するために、好きなキャラクターの髪色にしたい」だそうだ。

ハイトーンカラーは染めたての色が長く継続しないため、イベントの直前に来店する顧客が多いとのこと。

染めた髪色をキレイに見せるヘアアレンジを追加注文する顧客もおり、定期的な髪のメンテナンスとは動機が異なっている。

現在、店舗全体の顧客のリピート率は約70%ほど。

スタイリストによって異なるが、志賀氏の顧客は、ほぼ全員がアニメキャラクターの髪色をオーダーするという。

ここ数年で「推し活特化」と打ち出す美容室が増えているが、パイオニア的存在であることは選ばれやすい要因になっていると志賀氏は話した。

総合的な美容室と比較して、3社のような特化型はどのような特徴があるのか。

効率化や差別化をしやすい、スタイリストの採用や教育をしやすい、単価を上げやすい、トレンドに左右されにくいなどである。

とはいっても、単に「専門店である」だけで人気を獲得できたわけではない。

独自の仕組みや技術で顧客満足度を高めたり、打ち出し方で引きつけたり、専門店の中でも差別化を図って集客に成功しているはずだ。

一方、特化型のデメリットとしては、例えば「白髪が生えなくなる薬剤」や「酸性ストレートよりも魅力的な薬剤」が新たに開発されると、ビジネスが成り立たなくなる可能性がある、同じメニューを施術し続けるので業務に飽きが生じやすい、などもある。

そもそも、なぜ美容室の経営が難しいのかという問いに対して、3社とも「フリーランス美容師の増加」を挙げた。

現状の働き方や収入に不満を持つスタイリストが、「自由」や「収入増」を求めてフリーランスを選ぶ傾向があり、それに付随して業務委託で運営する美容室が増えているという。

売れっ子スタイリストほど独立する傾向があり、魅力的な人材を確保できないことから集客が難しくなり、昨今の材料費の高騰なども相まって倒産に追い込まれる流れがあるようだ。

上記を踏まえると、スタイリスト個人としてよりも、店舗としてブランド化しやすい特化型の3社が活況なのはうなづける。

参照元:Yahoo!ニュース