タイ自動車部品業界に暗雲、家計債務増大や電動化が逆風

タイの国旗を撮影した写真

タイの自動車部品業界は、先行きに暗雲が漂っている。

多額の債務を抱えた国内消費者の自動車購買力が弱まっているほか、エンジン車主体の生産態勢が電気自動車(EV)に乗り換える海外の買い手の動きにうまく対応できていないためだ。

このため各メーカーが減産や雇用削減を迫られ、政府はてこ入れ策を打ち出している。

痛みは既に業界全体に広がりつつある。

例えばトヨタ自動車や三菱自動車を含めた日本メーカー向けに30年余り部品を製造しているテクノ・メタルは現在、国内2カ所の工場の生産量が最大能力の40%にとどまり、受注減少に伴って人員もじわじわと縮小してきた、と幹部の1人は明かす。

この幹部は「昨年末時点で従業員は約1200人だったが、今は900人。労働時間も75%に圧縮し、残業を減らした」と語った。

タイの自動車生産自体もこの1年で落ち込み続けており、8月は前年比20.6%減だった。

国内販売台数は12カ月平均が14年ぶりの低水準になったことも、業界のデータから分かる。

業界の見通しでは、今年の自動車生産台数は昨年の190万台から170万台に下振れ、このうち55万台が国内販売、115万台が輸出向けになると予想されている。

野村総合研究所タイの山本肇プリンシパルは「ある種の危機、それもかなり深刻で抜け出すのは簡単ではない」と述べ、国内市場の停滞と輸出面での競争激化という組み合わせが自動車セクターを圧迫していると付け加えた。

EVセクターは急成長して中国のBYDなどから多額の投資を呼び込んでいるものの、約2000社とおよそ70万人の労働者を抱えるタイの自動車部品産業の生産減少を穴埋めすることはできていない。

タイ自動車部品製造業者協会(TAPMA)のソンポル・タナデュムロンサク氏は「タイのコスト構造は中国より30%も高い」と指摘した。

最も苦境にあるのは、タイで昨年の国内自動車販売の半分近くを占めたピックアップトラックだ。

昨年は生産全体の67%に当たる82万台強が輸出されたが、今年これまでは輸出が前年比で8.76%減少。

生産台数も20.51%減って61万6549台にとどまっている。

これがタイの自動車部品メーカーに打撃を与えた。

なぜならピックアップトラック用部品の90%余りが国内で生産され、ピックアップトラックだけで国内部品市場の7割を占めるからだ。

カシコン銀行の調査部門が今月公表したリポートによると、年初来の自動車部品売上高は前年比12%弱減って5190億バーツ(156億8000万ドル)だった。

TAPMAのソンポル氏は「中小の部品メーカーが今事業を閉鎖すれば、戻ってこない」と述べ、状況は1990年代終盤のアジア通貨危機やコロナ禍の時期より悪く、このままでは全社が立ち行かなくなると訴えた。

このような事態をもたらした主因は、今年3月末時点で4億8400万ドルと、国内総生産(GDP)の90.8%に達しているタイの家計債務残高だ。

これはアジアで最も多く、自動車販売の足かせになっている。

金融機関が今年上半期に承認したピックアップトラック購入ローンはおよそ20万3000件。

2019年は全体で72万2000件だった。

消費者のあらゆる層で与信環境が非常に引き締まっているため、タイのEV製造業者協会は今年の予想販売台数を従来の半分に引き下げた。

現在自動車を所有する人々もローン返済に四苦八苦している。

ピックアップトラック購入ローンの不良債権残高は前年比で40%も増加してきたとされる。

こうした中で自動車部品業界は政府に対して、外国メーカーのエンジン車とハイブリッド車生産向けインセンティブを強化してほしいと要望している。

TAPMAのソンポル氏は「われわれは特にピックアップトラックのエンジン車とハイブリッド車生産で最後まで生き残り、生産拠点として外国メーカーを誘致したい」と強調した。

政府はハイブリッド生産について投資呼び込みのインセンティブや補助金提供を計画している。

タイ工業連盟自動車部門のスラポン・パイシットパタナポン氏は「日本勢もハイブリッド技術で競争する態勢に移行し、部品を必要としている」と話す。

政府の投資委員会は、外資に地元部品メーカーとの合弁設立を働きかけている。

ただテクノ・メタル幹部は「(中国のEVメーカーに供給)できたとしても利益は小さい。われわれは引き続き日本勢のためのOEM(相手先ブランドによる生産)に注力しなければならない。彼らがEV計画を持ち合わせているならば、われわれにとって喜ばしい」と語った。

参照元:REUTERS(ロイター)