「カフェでお仕事」コーヒー1杯で“長居”問題に店が悲鳴 「8割がカフェワーカー」の切ない現実

カフェで仕事しているビジネスマン

カフェで仕事をする人はすっかり珍しくなくなった。

電源完備のカフェも増えた。コロナ禍は明け、利用者は増えたはずなのに、2023年はカフェの倒産数が過去最多を更新した。

カフェで仕事は、ありかなしか。

9月某日、都内の小さなカフェ。

キーボードをカタカタとたたくせわしない音が聞こえてくる。

「リモートワークの日、家だと集中できないから、カフェに行くんですよね」

PC作業をしていたIT企業に勤める会社員の男性(28)はこう言った。

「会社にいると雑務を頼まれたりして、結局自分の仕事ができない。カフェなら程よく集中できますし、コーヒーを1杯頼んでしまえば、ずっといられる」

この店のコーヒーは1杯420円。カフェではおよそ4時間を過ごすという。

だが、肩身は「狭い」。

以前、渋谷のスターバックスで2時間ほど仕事をしていたところ、「いろんな人ににらまれた」。

席を探していたらしい若者たちには、「早くどけよ」と舌打ちされた。

以来、「なるべく人が来なさそうな場所のカフェを選ぶようにしている」が、このカフェでも「店員に直接OKをもらったわけではない」という。

カフェで「風当りの強さ」を感じているのは、仕事民も勉強民も同様だ。

今年6月にXに投稿された「カフェ勉強への風当たりが強い」という内容のポストに、現在までに1.3万件のいいねがつくほど話題になった。

WEBデザイナーの渡辺久実さん(40)も、ヘビーなカフェワーカーだ。

平均で3~4時間、長いと10時間以上同じカフェにいることもある。

「家にこもっているとアイデアが浮かばないので、外でやっています」

10時間以上いると、さすがに引け目を感じるのでは?

「多少は申し訳なく思うので、ケーキを追加することもあります。でも、コーヒー1杯500円にケーキを合わせても1000円いかないくらい。それで集中できる環境が整うので、やめられません」

飲食店経営の専門誌の関係者は、カフェの需要の変化を指摘する。

「もともと、カフェは、待ち合わせでの時間つぶしや、軽食をとる、一休みする、といった比較的短時間の使い方が多いこともあり、客単価が低くても、回転率は高いのが当然でした。けれども、ここ数年、リモートワークが増え、長時間になる使い方が増えました」

だが、こうした状況はカフェにとっては死活問題だ。

「カフェは客単価が比較的高くない代わり、高い回転率を見込んでいます。しかも、コーヒーと軽食やケーキなどのセットを注文する通常の客に比べ、カフェワーカーやカフェ勉をする客の単価は低い傾向にある。大手チェーンはともかく、コーヒー1杯で長時間粘られては、個人カフェ経営者が悲鳴を上げるのも無理はありません」

この傾向は特に都心部で顕著だという。

コーヒー1杯で長居する客が増えれば、経営はひっ迫してしまう。

今年1月に発表された帝国データバンクの調査結果によると、2023年の喫茶店(カフェ)の倒産は全国で72件。

前年の34件から2倍以上増え、過去最多となった。

物価の高騰もあり、「ある程度の長居を見越して値上げするか、回転率を上げるために時間制限を設けるか、カフェは経営戦略の岐路に立たされている」という。

確かに、90~120分といった時間制限を設けるカフェを見かけるようになった。

カフェで仕事をすることが多いという26歳のWEBライターの男性は、「1時間を超えると、周りを気にしてしまう」と話す。

以前、時間制を導入するカフェで店員から声をかけられた。

「『そろそろお時間です』と。ほかにも勉強している人とか、何人かに声をかけていました。ああ、滞在時間をチェックしているんだな、と思いました」

それまでカフェで時間を気にしたことはなかったが、今は違う。

「1時間を超えたあたりで、『何か頼まなきゃ』とそわそわしてしまって……。結局、カフェ通いを減らし、自宅で集中できる環境を整えています(笑)」

カフェ側はカフェワーカーをどうとらえているのか。 

東京・西新宿。企業のオフィスが立ち並ぶ一角に、ハンドドリップコーヒーがウリの、コーヒー好きをターゲットにしたカフェがある。

だが、このカフェは、現在、カフェワーカーに占拠されたといっていい状態だ。

数年前まで、昼時はコーヒーを飲みたい会社員たちでにぎわっていた。

PCを広げる客や勉強をする客も一定数いたため、よかれと思って電源コンセントを設置した。

だが、コロナ禍が明けてから、「客層が変わった」という。

店主の佐々木隼太さん(56・仮名)はこう話す。

「リモートワークが増えたせいか、PCを持ち込んでカフェに『長居』する人がとても増えました。休日には、コーヒー1杯で昼過ぎから閉店までいる人もいます」

コーヒーは1杯350円で、お代わりは200円。

リーズナブルな料金設定にしたのは、「多くの人に自分のコーヒーを飲んでもらいたい」「値段を気にせず入れるオアシスでありたい」という気持ちからだ。

だが、現在、常連客はほぼ消え、カフェワーカーが客の8割を占める。

多くのカフェワーカーは、せっかく用意したディナーメニューに見向きもせず、1杯のコーヒーでカタカタと仕事に精を出す。

客席は15席程度。

これでは利益を出すのは至難の業だ。

「経営を考えると、回転率を上げるか、値上げするかしかない。値上げはしたくないので、心苦しいのですが、電源コンセントは取り外しました。混雑時は声をかけるようにしています」

それでも、店内はワーキングスペース状態だ。

佐々木さんが大切にしたい、コーヒー好きの常連がほっと一息つきやすい雰囲気ではなくなってしまった。

「ここは場所が悪かった。場所を変えようかという話も出ています。いま、90分制の掲示を出そうか、迷っているところです」

リラックスできる空間にしたいから、ガチガチに制限をかけてギスギスしてしまうことに抵抗がある。

記者はカフェが大好きだ。

ゆっくりコーヒーを味わいたいし、お店を応援したい。

現代人の心のオアシスだとも思う。

だが、出先で仕事をする場所がほしいときもある。

これからカフェで仕事をするときには、なるべくケーキも追加で頼もう。そう思った。

参照元:Yahoo!ニュース