「社員旅行」はオワコンなのか? 行きたくなかった若者も満足させた「令和の社員旅行」の最前線
<『社員旅行があります』ってメリットのように記載してる会社、若者からしたらそれが超デメリットなの分かってないのかな?>。
8月、社員旅行に関するこんな投稿がXで8000件近くリツイートされ話題となった。
温泉旅館に泊まって夜は酒盛り……という昭和スタイルの社員旅行に抵抗を感じる若者が多いのは想像にかたくない。
その一方、社員旅行をスタイリッシュに変革して組織の結束を高めるツールとしている企業もある。
令和の社員旅行事情を取材した。
産労総合研究所の「社内イベント・社員旅行等に関する調査」によると、社員旅行を行う企業は1990年代には8割近くあったが、年々減少し、2020年にはコロナ禍の影響もあり27.8%まで落ち込んでいる。
こうした世相を反映してか、冒頭のXポストにも「上司や先輩と一緒に海外旅行なんて行っても、少しも楽しめない」「仲良くなりたい人たちだけで行ってくださいって感じね」など冷ややかな意見が多く上がった。
若者世代を中心に、職場にドライな人間関係を求める風潮になりつつある今、社内旅行は失われゆく企業文化なのか。と思いきや、ユニークな社員旅行を大成功させた会社もある。
企業のシステム開発支援などを手がける「アルトワイズ」は今年4月、1泊2日の社員旅行を決行した。
昨年に続き2回目となる今年、全社アンケートによって行き先に選ばれたのは、千葉県にあるグランピング施設だ。
「社員旅行委員会」の名のもと、向井崇泰社長に任命された4人の社員が半年かけて準備をした。
同社社員の年齢層は20代後半~30代前半が最も厚い。
当日は社員のおよそ半数にあたる約30人が参加し、キャロットケーキ作りやバーベキュー大会など、学生顔負けのハイテンションで楽しんだ。
中でも抜群の盛り上がりを見せたのが、夜の廃校舎で行われた「サバイバルゲーム(サバゲー)」のチーム戦だ。
上下関係おかまいなしに、光線銃を打ちあう白熱の一夜を、向井社長はこう振り返る。
「社員それぞれ、“心の化粧”がとれた素顔が垣間見えた気がします。いつも真面目に仕事をしている人がシャウトして走り回ったり、先陣を切った女性陣がスライディングをしてコケたり。社長の私はみんなから狙われて、『そっち行ったぞ!』なんて集中攻撃に遭いました(笑)。あまりに楽しかったので、社員に『来週も行きたいね』と言ったら、『僕は明日行きたいっす』と。いい社員旅行になったなと安心しました」
社員旅行委員会メンバーの一人である吉田瑞希さん(25)はこう話す。
「今まで“えらい人”という認識しかなかった上の立場の方々を、困った時に相談できるお父さんみたいに感じるようになりました」
とはいえ、吉田さんも当初は社員旅行に乗り気ではなかったという。
「社内イベントは正直めんどくさいと思っていたし、趣味をはじめ自分の時間を大切にしたいZ世代の気持ちはすごくよく分かります。でも今回参加して、『会社の人と遊びに行ってもどうせ楽しくない』『世代もちがうし話が合わなさそう』というのは、こり固まった考えだなと痛感しました。人との縁は自分の仕事や将来にプラスになるかもしれないし、殻に閉じこもっていてはダメだなと」
リアルなコミュニケーションの場が増えれば、会社への帰属意識は高まり、現場の課題や社員の思いをすくいとりやすくなる。
そう考える向井社長は、来年の社員旅行はより多くの社員が参加してくれるのではないかと、期待を寄せている。
「若者世代だと、自分のペースを崩される場所に行くことをダルいと感じる人もいるでしょう。でも天の岩戸に隠れた天照大御神が、外のお祭り騒ぎが気になって姿を現したように、こちらが楽しそうにしていたら、『輪に入ってみようかな』と思ってもらえるかもしれない。とりあえず近いうちに、レーザー銃を買ってオフィスでサバゲー大会をやります(笑)」
一方、“ワイワイ楽しむ”以外の方法で社員旅行を成功させたのが、企業向けに人材教育のコンサルティングを行う「アチーブメント」だ。
年間の売り上げ目標を達成したら社員旅行に行く文化があった同社は、2018年以前は2泊3日で海外を訪れていた。
だが家庭を持つ社員が増えて長期の旅行が敬遠されたり、コロナ禍になったりといった事情から、しばらく社員旅行は中止していた。
しかし今年3月、1泊2日の沖縄旅行という形に変更し、6年ぶりに再開。
新入社員から勤続30年超えのベテランまで、160人が参加した。
18年のグアム旅行を企画した社員の張酉煦(ちょう・ようしょう)さんによると、前回は街なかでリアル謎解きゲームをするなど「完全に遊びに振り切った旅」だったが、今年は部署や役職を超えて結束を深めることを重要テーマにすえ、プランが組まれた。
中でも社員の満足度が高かったプログラムが、5~6人のチームに分かれて、自分の人生をプレイバックするワークショップだったという。
過去のつらい体験や自分のモチベーションについて、時には涙ながらに語った社員たちの様子について、今年の旅行を企画した佐藤宙さんはこう振り返る。
「学生時代にいじめられたことを話す人もいたし、私は親族をなくした時のつらい経験について話しました。相手のバックグラウンドや原動力の正体を知ると、『なんでこんなに仕事に細かいの?』『なんでそこまで成果にこだわるの?』などと、これまでモヤモヤしていたことの辻褄(つじつま)が合う。その結果、『この人のためなら一肌脱ぐか』と、モチベーションが高まった社員が多くいたようです」
後日、社員旅行を振り返るアンケートを行うと、「それぞれの人生を知る中で、仲間や会社への自信が高まった」「この仲間たちと一緒に働ける喜びをかみ締めた」などと、同僚や会社への愛着が増したという感想が相次いだ。
社員旅行を実現したい企業と旅行会社のマッチングを行うWebサイト「社内旅行net」によると、今年の企業からの問い合わせ件数は、コロナ禍前の水準に戻っているという。
同サイト編集部の石幡晴美さんは、「リモートワークが広がり飲み会離れが進んだことで、社員旅行の価値が見直されつつあるのでは?」と話す。
「昔は社員旅行への参加は半強制のムードがありましたが、今は団体行動に抵抗を感じる社員をどう取り込むか、企業側も歩み寄っています。若い世代に納得感のあるSDGsをテーマに電動自転車を使ったエコツーリズムを取り入れたり、寝る時はビジネスホテルの個室を用意したり、各社知恵を絞っています。『社員旅行はオワコン』と言われることもありますが、宴会でお酒を飲まされて嫌な思いをする……というかつての姿とはちがった形で、今後も続いていく気がします」(石幡さん)
とはいえ、注意すべき点もある。前出のアチーブメント社員・張さんはこう指摘する。
「嫌がる社員を無理に参加させるのは、病気の根本を治療せず、痛み止めを飲んでいるのと同じ状態です。『社員旅行が嫌』は『会社が嫌』の裏返しかもしれない。これまで社員間の“人間どうしの付き合い”を大切にしてきたのかを振り返り、組織のあり方を見直す必要があると思います」
令和版に“アップデート”された社員旅行であれば、また企業文化として復活する日が来るかもしれない。
参照元:Yahoo!ニュース