イタリア製高級ブランドの影に移民労働者の過酷な労働

イタリアの国旗を撮影した写真

先週高級アクセサリーメーカー、モンブランがジュネーブに構える主力店の前で、イタリアのトスカーナ州からやってきた一握りの移民労働者たちが、こうしたスローガンの書かれたプラカードを掲げて叫んでいた。

これらの労働者たちが、十数人のイタリアとスイスの労働組合幹部とともに糾弾したのは、モンブランが昨年、コスト上昇を理由にサプライヤーのZプロダクションとの契約を打ち切ったことだ。

労働者や労組役員はロイターに、トスカーナに拠点を置く中国系のZプロダクションは何年にもわたる非正規雇用と長時間労働の慣行を2022年10月に改めて、労働環境を改善させたと明かす。

ところが2年半ほどZプロダクションで働いてきたというパキスタン出身のザイン・アリさん(23)によると「私たちが正規労働者として1日8時間、週5日の勤務を求めたから、モンブランは契約を切った」という。

アリさんは「彼らは単に奴隷が欲しかっただけだ」と憤る。

モンブランはロイターに、昨年Zプロダクションとの契約を終了したのは、親会社リシュモンが定めたサプライヤーの行動規範が守られていなかったことが監査で分かったからだと説明した。

今年になって、イタリアのファッション産業の中心地であるミラノ近郊で、ディオールやジョルジオ・アルマーニなどの高級ブランド製品生産を請け負っている工場16カ所で労働環境が極めて劣悪だったことが、検察当局の捜査によって暴露された。

ロイターが高級ブランドのサプライチェーン労働者や労組指導者、非営利団体、自治体幹部、業界関係者らに取材したところ、このような労働環境は皮革製品の産地として知られるトスカーナに広がる高級ブランドのサプライチェーンの特徴でもあることが分かった。

複数の関係者は、Zプロダクションなどの工場は、モンブランや他のブランド企業向けに未経験の不法移民を雇って生産活動をしていたと証言する。

2022年まで配達員としてZプロダクションで雇用されていたアレッサンドロ・レッシさん(53)は工場唯一のイタリア人で正規労働者だったが、移民の労働者らは長時間労働を強いられたと述べた。

「私は午後6時に退勤したものの、他の全員は残っていた」と語るレッシさんによると、職場にいた人の大半は中国、パキスタン、バングラデシュの出身でZプロダクションがコスト削減のために採用。

「トスカーナではごくありふれた光景だ。コストをサプライヤーに押しつけているのが大手ブランドにほかならない」という。

パキスタンで溶接工だったというアッバスさん(32)は15年にバルカン半島経由でイタリアに入った不法移民。

何年もの間、高級ブランドの下請け工場で苦しい条件の仕事を強いられてきた1人だ。

最初の働き口はフィレンツェ近くにあった中国系企業の工場で、就労許可は取得していなかった。

「私の仕事は14時間立ちっ放しだった」と振り返り、パキスタン人やアフガニスタン人、中国人など約50人の同僚とともに高級ブランドのバッグや皮革アクセサリー製造に従事したと話す。

自身の担当は革バッグの染色だったが、その技術を身につけたのはイタリアにやってきた後だ。

「足の痛みがひどくて夜眠れなかった。トイレにも行けず、座れなかった」と明かしたアッバスさんの稼ぎはパートタイム労働者として毎月600─700ユーロ(約9万5000-11万円)の固定給と残業手当が400─500ユーロ。

健康を害してこの工場を解雇された後、19年にトスカーナのプラートで新たな仕事が見つかったものの、また3年ほど同じような厳しい労働環境に置かれ続けた。

それでも22年、労組の支援を受けて同僚とともに毎月1400ユーロを支給される正規労働契約を勝ち取ることができた。

2017年にパキスタンからイタリアにやってきたアルスラーンさん(27)も長時間労働に苦しんでいた。

「1日12時間強、週6日働いていた時は、買い物に行ったり衣類を洗濯したりする時間もほとんどなかった」と語ったが、アッバスさんと同じく労組の助けを借りて22年にZプロダクションと正規労働者として契約したという。

ミラノの裁判所に提出された文書によると、高級ブランド企業は自社でデザインした製品の生産を1つの有力な下請け業者に委託するのが通例だが、その下請け業者はサンプル品以外の生産能力はなく、実際の仕事は孫請け業者に回される。

孫請け業者は、生産コストが低い代わりに、労働環境のチェック体制や働き手を大事に扱う仕組みは存在しない。

6月にミラノの検察当局はディオールの事例に言及した文書で、こうした違法労働は非常に根深く、高級ブランドによる収益追求一辺倒の姿勢に基づいたより幅広いビジネスモデルの一環となっていると指摘した。

ただ高級ブランドのサプライチェーンは網の目のように広がっており、内部で起きている事態を適切に監視し続けるのは難しい。

イタリアのファッションブランド業界団体会長を務めるカルロ・カパサ氏は「各ブランドは平均で7000のサプライヤーと取引がある。それぞれのサプライヤーが2社の下請け業者を持っているとすれば、さらに1万4000社が加わる。合計2万1000社の監査を毎年実施するのは不可能であり、誰かが(規制を)逃れるのは間違いない」と述べた。

当局による工場の捜索が入っていることで、サプライヤー側も警戒を強め、この夏の査察では少なくともミラノ周辺の業者は労働環境を整備していることが判明した。

またある捜査当局幹部はロイターに、一部のサプライヤーは今のところ捜索の中心的な対象になっていない地方に生産拠点を移し始めたと話した。

業界関係者の1人は、生き馬の目を抜く高級ブランド産業では、正規労働者の雇用や規制を守った労働環境の導入はどうしても負担がかかると打ち明ける。

低給与の労働者を不健全な環境で使用しているサプライヤー、例えばディオールと取引があった業者を見ると、ハンドバッグ1個当たりの生産請負額は最低53ユーロで、ディオールはこれを定価2600ユーロで販売していることが、裁判所の文書から分かる。

複数の専門家は、低コストで請け負うという業者の申し出を受けた大手ブランドは、労働者の権利を侵害するリスクを冒す結果を招くと肝に銘じなければならない、と警告している。

参照元∶REUTERS(ロイター)