2年間スマホ禁止 家具職人を育てる「飛騨職人学舎」に密着 入学者が絶えない理由は”超ストイック”な生活にあった

家具を製作して職人を撮影した写真

岐阜県の飛騨・高山は古くから木工が盛んな地域。

「飛騨産業」は、創業100年を超える老舗家具メーカーで、伊勢志摩サミットの円卓を手がけたことでも知られている。

職人の高度な技術でつくられる家具は全国トップレベルの品質で、まさに”一生もの”。

今回は、職人の技術を受け継いでいくための家具職人養成学校「飛騨職人学舎」に密着。

スマホ厳禁で全寮制という”超ストイック”な2年間の生活で、業(わざ)を学ぶ職人の卵たちを追った。

朝5時30分。

学生たちの一日は、寮の周りのランニングからスタート。

現在、寮に在籍している4人が、早朝の街を走ります。

飛騨職人学舎は、家具職人を目指す情熱があれば、経歴や年齢は関係ない。

他県から、素人同然で門を叩く人も珍しくないという。

2024年4月に入学した1年生の市丸昌広さんは佐賀県出身の23歳。

ここに入学する前は、料理系の大学に通っていたそうだ。

(市丸昌広さん):「家業が家具の卸業で。家具と触れ合う機会が元々多くて、自分も作り手に回りたいと思った」

1年生はほかに、共に東京都出身で22歳の木下凜々さんと18歳の中村優空さんの2人。

中村さんと市丸さんは「普段は男子高校生みたいな会話で、ふざけていることが多い」のだとか。

若い人材を確保し、技術を受け継いでいくために作られた「飛騨職人学舎」。

木工に集中するため、2年間、スマホは使うことができない。

午前中は、工場研修で機械の使い方や木の扱い方を学習。

午後は、主に工具を使いながら手で木を加工する技術を学ぶ。

休みは1か月に1日のみという厳しい環境ですが、10年前の開校以来、入学者が絶えることはないそうだ。

(市丸昌広さん):「基礎から学べるのが良さ。(スマホを)持っていても、本当に使う暇がない。逆に無くてありがたい」

生徒の指導にあたるのは、学舎長の玉田義卓さん。

熟練技能の全国大会で上位入賞を果たした家具作りのスペシャリストです。

この日は、毎年夏に行われる「技能五輪(家具職種)」の予選に向けての練習。

木材を、のこぎりやカンナなどの工具で削り、図面通りに組み立てて精度を競う。

課題は4本の木で出来た「枠」。

単純そうに見えるが、接合部分が特に難しく、台形のように斜めに切った「ほぞ」が、ピタリと合うように作らなければなりない。

(飛騨職人学舎・玉田義卓学舎長):「結構、難しいですね。ミリというより、”0.何ミリ”ですね」

全国大会に出場するには、予選で基準点を超える必要がある。

習得に2年ほどかかる技術ですが、ここでは3か月で身に着くよう取り組んでいる

技能五輪に出場できるのは23歳以下。

23歳の市丸さんにとっては、最初で最後のラストチャンスだ。

(市丸昌広さん):「寮では仲間。ここに来たらライバル。心のどこかでは、負けたくないと絶対に思っている」

練習は、毎日午後10時まで。

木工と向き合う時間は1日10時間を超える。

厳しい環境に身を置く中で、市丸さんの支えは家族や友人からの手紙だ。

(市丸昌広さん):「僕は”まーこ”と家では呼ばれています。『毎日、みんなでまーこが頑張っているか心配していました。分からなくて当たり前だから、いろいろ聞いて吸収してね』(と書いてあります)。寝る前にいつも読み返しています」

迎えた予選当日。

市丸さんは、緊張しながらも、練習の成果をぶつけます。

しかし、練習通りにはいかなかったようだ。

(市丸昌広さん):「指を切っちゃって。焦って自分のペースで加工できなかった」

玉田学舎長が結果を発表。

1年生からは唯一、木下さんが全国大会への出場を決めた。

目標には届かなかった市丸さんですが、2年間にわたる学校生活は、まだ始まったばかりだ。

(市丸昌広さん):「同級生たちが働いている中で、まだ学びを続けることは勇気のいる選択だったけれど、後悔はない。自分が作りたいものを、どんどん作っていけたらと思います」

「家具職人になる」という強い決意を持ち、高山にやってきた若者たち。刺激を与えあいながら、夢へのステップを登り続けている。

参照元:Yahoo!ニュース