止まらぬ資金流出、対外投資超過は過去最高ペースに

国の税収をチェックしている人

7月の日本の経常収支は3.2兆円の黒字となり、7月としては過去最高の黒字額を記録した。

しかし、黒字に貢献しているのは相変わらず第一次所得収支の黒字で、7月は4.4兆円の黒字を記録し、1カ月の黒字額としては過去最高を記録した。

よく指摘されているように、この第一次所得収支の黒字の相当な部分は日本に戻って来ずに海外で再投資されていると考えられ、黒字でも円高要因となっていない可能性がある。

一方、第一次所得収支以外の経常収支の構成項目である貿易収支、サービス収支、第二次所得収支は全て赤字で、合計の赤字額は1.3兆円となった。

最近注目度が上がっているサービス収支の内訳をみると、訪日外国人の消費額から日本人が海外で使った金額を差し引いた旅行収支は5534億円の黒字となり過去最高を記録した。

7月の訪日客数は過去最大を記録しており、街中を歩いていても実感できる結果だった。

一方、いわゆるデジタル赤字の一部となる「通信・コンピューター・情報サービス」の赤字額は2246億円と、過去最大を記録した今年5月に次ぐ額となった。

また、「保険・年金サービス」は2723億円の赤字と1カ月の赤字額としては過去最高となった。

このように第一次所得収支の黒字だけ突出して大きい日本の経常黒字の構造は、国際的にみても異質なものとなっている。

2023年のデータで主要国の経常収支の構造をみると、経常収支の黒字が対国内総生産(GDP)比で3%以上ある国で、黒字が全て第一次所得収支だけという国は珍しい。

ベルギーも第一次所得収支だけ黒字であとは赤字だが、経常収支は赤字だ。

そのほか、経常黒字の対GDP比が大きいオランダ、ルクセンブルグ、スイスは全て財・サービス収支の黒字で経常収支が黒字になっている。

デンマーク、ドイツ、スウェーデンも黒字の主役は財・サービス収支だ。

こうしたいびつな構造の国際収支を作り出している原因は、日本企業による対外直接投資ばかりが大きく、海外企業による対内直接投資が極端に少ない日本の状況にある。

実際、7月の国際収支データでもその傾向が顕著に現れている。

7月のネット対外直接投資額は2.96兆円と相変わらずの高水準となった。

日本からの対外直接投資が2.81兆円、海外からの対内直接投資がマイナス0.15兆円(つまり資金流出)だ。

最近海外企業やファンドが日本企業の買収に興味を示しているという話を聞くようになったが、今のところデータ上では圧倒的に対外直接投資の方が大きい。

1─7月合計でみると、今年のネット対外直接投資額は16.5兆円の対外直接投資超となり、これまでのところ年間で対外直接投資超額が最も大きかった19年の1─7月期を上回り、過去最高の対外直接投資超額となっている。

対内対外投資を相殺する前の片道ベースでみると、今年の1─7月合計の対外直接投資額は17.0兆円で、対内直接投資額は0.47兆円にとどまっている。

相変わらず、対内直接投資が圧倒的に少ない。

また、ネット対外直接投資額のうち、株式資本がネット8.5兆円程度の対外直接投資超となっていることから、ここから数兆円単位の円売りフローが発生している可能性が考えられる。

また、同時に公表された8月中の対外証券投資データも引き続き日本から資金が流出している現状を示した。

8月のネット対外証券投資額の合計は8.75兆円とデータがさかのぼれる05年以来最大となった。

それまでの1カ月の最高額が6.37兆円だったので2兆円以上も大きな投資額となった。

8.75兆円の投資のうち外債投資額が7.34兆円と大半を占め、そのうち4.0兆円が預金取扱金融機関によるものであった。

預金取扱金融機関は為替リスクをヘッジして外債投資を行っている可能性が高いことから、金額の大きさほどは円売りは出ていないと考えられるが、8月中の米国長期金利低下には、一定程度日本の金融機関からの投資が影響していた可能性も示唆される。

また、円相場に影響を与えたフローとしては、対外株式投資が1.4兆円、年金と投信による対外債券投資が3.2兆円程度あり、8月の対外証券投資から発生した円売りは4兆円強程度だったのではないかと推測される。

ドル/円相場や世界の株価が7月後半から8月上旬にかけて急落したことに鑑みると、日本の投資家は急落を好機と捉えて対外証券投資を活発化させたことが伺える。

日本から海外への資金流出による円のファンダメンタルズの悪化は今のところ大きな改善を見せてはいない。

参照元:REUTERS(ロイター)