外国人がショート動画で食べ比べ コンビニ「たまごサンド」なぜ人気?

コンビニでたまごサンドを購入し、食べている外国人

コンビニを訪れて、たまごサンドを買い、おもむろにガブリ。

目を細めて「ummm(うまい……)」とつぶやく。

そんなショート動画を投稿することが、しばらく前から訪日外国人の間で人気である。

日本人の間でも長く親しまれてきたたまごサンドだが、なぜここにきて外国人に人気なのか。

コンビニ各社はこのひそかなブームをどう見ているのか。

SNSでの盛り上がりが世界に広がる昨今、バズらせてきた当事者やコンビニ3社、パン評論家に取材した。

(日本でもっともおいしいたまごサンドはどれか?)そんな言葉とともに、ニュージーランド出身の男性がテーブルの上にダン、ダン、ダンと3つのたまごサンドをテンポよく並べ、カメラを見て言う。

「It’s time to crown the king(たまごサンド王を決める時が来た)」

TikTokerであるスパークスさんの動画だ。

TikTokerのスパークスさん。

何度もたまごサンド動画を配信してきた取り出したのは、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンのたまごサンド。

スパークスさんは、それぞれの値段を比べ、「ITADAKI、MASU」とつぶやき、たまごサンドを食べていく。

大口を開けて一口で8割食べ、二口目で完食。目を閉じて噛みしめ「んむ……」と感慨に浸る。

首を横にゆっくり振りながら、おいしそうに味わう。

コメント欄には「めっちゃ好きなんだなぁwwwうれしい」「一口食べるごとに死ぬの好き」といった日本語でのコメントが並ぶ。

そんなスパークスさんのTikTokのフォロワーは、37万7600人を超える。

米ニューヨークを拠点に、世界を旅して食レポ動画を投稿しているジェレミー・ジャコボヴィッツさんも「おれは、これについては何度も何度も話してるんだけど、おれは日本のたまごサンドが大好きなんだって」と英語で言う。

ジェレミーさんの日本のたまごサンド好きは筋金入りで、「たまごサンド」と日本語で書かれた自作のTシャツを着て世界各地を旅行し、さらに自身のサイトでそのTシャツやパーカーをオンライン販売までしている。

そんなジェレミーさんのTikTokのフォロワー数は、31万6100人を超える。

日本のコンビニエンスストアで販売されている「たまごサンド」が、ここ数年、外国人に人気だ。

TikTokやYouTubeなどの動画サイトでは「#eggsalad sandwich japan」とハッシュタグで検索できるほど、数多くのたまごサンドの食レポ動画を見ることができる。

投稿者の多くは外国人だ。動画サイトを見ると、東京・新宿で大手3社のコンビニのたまごサンドを購入し、路上でおもむろにパッケージを開け、すぐさまたまごサンドを食べ始める米国人女性(TikTokフォロワー数9万8600人)もいれば、日本の空港に到着した途端、空港最寄りのコンビニに駆け込み、豆大福などと一緒にたまごサンドも購入、そのまま椅子でガブリと食べ始めるシンガポール出身のモデルでインフルエンサーの女性(TikTokフォロワー数19万9000人)もいる。

実際、8月下旬の朝、成田空港のコンビニを数店回ったところ、たまごサンドの品数は住宅街のコンビニとは比べものにならないほど多かった。

成田空港第一ターミナルのファミリーマートの棚は一列すべてたまごサンドだった成田空港第1ターミナル駅に隣接するファミリーマートでは、たまごサンドだけで一列全部13個並べられ、その後ろにも1~2列、およそ30個近くが配置されていた。

また、同じ第1ターミナルのローソンでは、表に並べられているたまごサンドは5個だったが、後ろに2列用意があり、およそ15個が配置されていた。

保安検査後に利用できるセブン-イレブンでは、たまごサンドは棚一列見事に売り切れていた。

実際にファミリーマートで買っていた男性、シンガポール人のロブさんに尋ねると、「そうそう、僕も大好きです」とうれしそうに笑った。

「パンがケーキのようなやわらかさでしょう。日本のコンビニのたまごサンドは本当においしいよね。ソーシャルメディアでも有名だしね」

なぜ日本のコンビニのたまごサンドは、外国人の間でこれほどまでに人気なのか。

多くの食レポ動画をバズらせているTikTokerに尋ねてみた。

「なぜたまごサンドを食べる動画の投稿をしているかって? そりゃもちろん僕は本当に好きなんだよ。だから、食べる動画を投稿し始めた。そしたら、たまごサンドを好きな人がいっぱいいるのに気づいたわけさ」

そう語るのは、冒頭で紹介したニュージーランド出身のスパークスさん。

観光客ではなく、日本に来て8年、埼玉県のフリースクールで教師をしている。

プライベートでは、ソーシャルメディアでの投稿やコミュニケーションを楽しんでいるが、たまごサンドを食べる動画はマクドナルドのハンバーガーを食べる動画に次いで広く見られているという。

TikTokerのスパークスさん「たまごサンドとマクドナルド(のハンバーガー)を食べる動画は、僕の動画でも人気のツートップでね。何度も投稿しているけれど、毎回400万から500万回くらい見られている。昨年の夏はライブ配信をやっていて、ほとんど毎日食べてたよ。みんな僕が食べるのを見るのが好きなんだね」

スパークスさんは照れながら笑う。

だが、たまごサンドは日本だけの専売特許ではない。

たまごサラダを挟むサンドイッチ自体は、欧米はもちろん、世界中どこにでもある一般的なものだ。

他の国のサンドイッチとどこが違うのか。

「まずパンの柔らかさ。次に、(挟んでいる)たまごサラダのフレッシュさ。そのマヨネーズがポイントで、ちょっと甘く、ちょっとすっぱさがある。そのコンビネーションがいいから、おいしいのだと思う」(スパークスさん)

コンビニ各社は、こうしたたまごサンド人気をどう見ているのか。

コンビニ3社、たまごサンドへのこだわりはコンビニ3社のたまごサンド。

「外国人の間でのたまごサンド人気は、3年前の東京五輪のあたりからだと認識しています。取材で来た外国人記者がたまごサンドを食べて、そのおいしさに驚き、SNSで発信したことが発端だと聞いています」

ファミリーマートのデリカ食品部調理パン・調理麺グループの川島裕さんはそう語る。

「海外のサンドイッチはたまごやレタス、ハムなどさまざまな具材を挟んだミックスタイプが多いと聞いています。具材がたまごサラダだけというのが、外国人には珍しかったようです。また、海外のパンはフランスパンのようにパリッとした(粒子の粗い)ものがある中で、日本の食パンの柔らかさに感動したのではないかと思います」

たまごサンドは、たまごにマヨネーズや調味料とあえたものをパンに挟むというシンプルな商品。

ファミリーマートではロングセラー商品で、調理パンの売り上げのなかでは常にベスト3に入る。

ただし、レシピは同じままではなく、ときに大きく見直し、日頃から細かい改良を重ねているという。

たとえば、マヨネーズや調味料の配合を調整してややマイルドにしたり、やや酸味を強めるなどの工夫がある。

「当社のこだわりは、たまごの白身のカットサイズをちょっと大きめにして食感を味わえるようにしたところ。また、パンについては2年前に発酵種を見直しました。たまごとの食べ合わせを考えて、味は主張しすぎないようにし、ふんわりしっとりの噛みごたえを重視しています。そのうえで、買いやすい価格設定も意識。いま税込み価格で300円を切ります」(川島さん)

海外にも店舗があるセブン-イレブンはかねて外国人にも知られ、人気がある。

セブン-イレブンの広報担当は、外国人の間でのたまごサンド人気の理由について、次のように話す。

「訪日外国人のお客さまがたまごサンドについて発信しているSNSを拝見すると、とくにパンの柔らかさやしっとりした食感に多く言及されているようです。シンプルな仕立てのたまごサンドは、具材はもちろんのこと、パンのおいしさも味わうことができます。品質向上を長年続けてきたポイントに気づいていただけたものと考えています」

コンビニ3社、それぞれ改良を重ねているセブン-イレブンのこだわりも、食べごたえがあるようにゆでたまごのカットサイズを大きめにし、厚めのパンと組み合わせたところだという。

シンプルな具材だけに、満足感のあるボリュームに設定したのもポイントだ。

ローソンの商品本部デリカ・厨房部シニアマネジャー・吉田祐子さんも、外国人の間でのたまごサンド人気について把握していたが、東京五輪というよりコロナ禍より前だった覚えがあると言う。

ローソンのたまごサンドもたまごの分量を多めにし、しっかり味わえるように工夫している。

レシピは市場の動向をにらみながら年単位で見直すが、今年の3月からは、たまごの配合量を増やし、隠し味にかつおだしを加えて、うまみを増したのがポイントだ。

ローソンのたまごサンドは、3社の中で最もカロリーが低いのが特徴だ。

今年6月、創業49周年を記念した「お値段をそのまま47%増量企画」として、たまごサンドを増量したキャンペーン商品を発売したところ、約1週間の販売期間の売れ行きは通常の7倍にものぼったという。

「今回のキャンペーン商品は、たまごサンドが好きな方に思う存分味わっていただくためのごほうび企画でした。ですが、SNSでは『やりすぎ!』『バグってる』など、好意的なニュアンスを込めてのコメントを多数いただきました」

全国1万個以上のパンを食べ歩き、「旅するパンマニア」として活動する片山智香子さんは、これほど外国人が日本のたまごサンドを好きになるとは想像していなかったと語る。

「10年ほど前、テレビのお仕事で外国人に日本のパンについてインタビューをしたとき、『日本のパンは柔らかすぎる』『僕らはもっとクラッキーなものが好き』というコメントがありました。それが最近は『パンがケーキのようなやわらかさ』だなんて。時代が変わったんですね。それこそ、すし、ラーメンが日本食として受け入れられてきたように、サンドイッチも新しい『日本食』として、そこに続いていくんだなと感じました」

片山さん自身、コンビニのたまごサンドが大好きで、仕事で地方のホテルなどに泊まったときに、朝ごはんとしてよく購入しているという。

コンビニ3社のたまごサンドにはそれぞれ特徴がある。

比べてみると、サイズも価格も、もちろん味も異なる。

8月中旬、都内の3社で購入したたまごサンドを比べてみると、もっとも重量があるのがファミリーマートで、もっとも価格が安いのもファミリーマートだった。

味は人によって好みが分かれるが、言うまでもなく3社には違いがある。

片山さんも食べ比べをして、自身のYouTube動画で紹介している。

ファミリーマートでは、パン生地がしっとりしていることやマヨネーズの味わいの濃さを指摘し、セブン-イレブンでは万人受けする味とパンの厚みとたまごサラダの量のバランスの良さを評価。

また、ローソンでは、シンプルな味わいとカロリーが控えめなのがうれしいと評価をしたうえで、こう自分の好みを語った。

「3社ともおいしいのですが、マヨラーの私としては、ファミリーマートがイチオシでした!」

うなずく人もいれば、異論もあるだろう。だからこそみな、たまごサンドに一言コメントしたくなる──というのが、バズる背景にあるようだ。 

スパークスさんはこの夏、母国ニュージーランドに短期間だけ帰国し、8月下旬、また日本に戻ってきた。

成田に到着すると、まっすぐファミリーマートに向かい、ファミチキと一緒にたまごサンドを購入、帰りの特急の中で、たまごサンドにファミチキを挟んで食べたという。

「それが日本に戻って最初にしたことというのがね、笑えますね」

TikTokなどで食べる動画がバズるのは、みんな食べることが好きで、食べるのを見るのも好きだからだ。

それがソーシャルメディアでの傾向なんだとスパークスさんは言う。

「僕の食べ方をおもしろく見ている人もいるだろうし、そうじゃない人もいると思う。その見られ方はどうでもかまわない。僕としては、日本の食を広く知ってもらえたらうれしいですね」

参照元∶Yahoo!ニュース