「娘をかわいいと思えない」気持ちが慢性化してしまったら 公認心理師に聞く、親の悩みの背景とは
下の子が生まれたとたん、きょうだいの上の子をかわいいと思えなくなり、その気持ちを解消できない状態になることがある。
最近は「上の子かわいくない症候群」などと呼ばれ、悩んでいる人は少なくない。
0~10歳の子どもを持つママの育児相談をおこなう公認心理師・佐藤めぐみさんは、「私のもとに相談に訪れるママの場合、『上の子』は圧倒的に女の子です」と言います。編集部に寄せられる声にも「息子はかわいいんだけど、娘はかわいいと思えない」「長女に甘えられると嫌な気持ちになってしまう」などの悩みがチラホラ。
それはいったいどうしてなのだろう。
佐藤さんに詳しくうかがった。
■一過性であるはずの「かわいくない!」が慢性化するとき
子どもはときに、親が「かわいくない!」と思うような行動をとるものです。
それは男の子も女の子も変わりません。
親といえども感情がある人間ですから、相手が幼児や小学生でも、ネガティブな反応をされるとムカッとするのは当然のこと。
「もう、本当にかわいくない!」と腹が立つ瞬間は誰にでもあります。
それでも「ママのごはんおいしい!」と笑う顔や、すやすや眠る天使のような寝顔を見て「やっぱりかわいいなぁ」と気持ちを立て直す、それを繰り返すのが健全な親子関係なのだと思います。
問題は「かわいくない」という気持ちが慢性化してしまうことです。
最初は「反抗的な態度にムカつく」とか「下の子が生まれて、赤ちゃん返りがひどすぎる」などの理由でイライラすることが多かったのに、次第に「そこにいるだけで腹が立つ」「甘えられるとゾッとする」という状態になってしまい、「かわいい」という気持ちに戻れなくなるケースがあるのです。
そこまで重症化するケースは、親と同性の子が多いです。
ママであれば女の子、パパであれば男の子。
私の相談室を訪れるのは女性が多いので、「娘がかわいくない」というママの相談が非常に多いと感じます。
なぜ同性の場合、「かわいくない」が重症化しやすいのか。
そこには同性ならではの「自分と似ている、もしくは似ていない」という比較が存在するからだと思います。
私のもとに相談に来る方は、「自分と娘が似ている」と思う人、「似ていない」と思う人、どちらもいます。
「娘と私はタイプが違う(似ていない)」という場合、「理解できない」と悩む人が多いものです。
「私だったらそんなことはしない」「なぜ、そんな言い方をするのか」と、その子のありのままを受け入れることができなくなっています。
男の子のママも「理解できない」という人はとても多いのですが、女の子ほど悩みが深刻でないケースが多い。
きっと心のどこかで「男の子は理解できなくても仕方がない」という気持ちがあるからでしょう。
前提として「同性は理解できる」という思い込みがあるので、理解できない行動をとる娘を「かわいくない」と感じてしまうことが多いようです。
一方、「似ている」がゆえに悩む人も多くいます。
自分の嫌な部分、直したいと思っている弱点が子どもの中に見えてしまい、自分のダメさが露呈して、突きつけられたような気持ちになってしまうようです。
「似ていない」と悩む方も深刻ですが、実際には「似ている」ケースのほうがさらに深刻な問題を抱えているケースが多いのです。
なぜなら、娘が自分と似ていることに否定的な感情をもつ人は、自己肯定感が低かったり、何か別の生きづらさを抱えていたりするからです。
そういう方の悩みを聞いていると、最初は自分と娘の関係性の話だったはずなのに、いつしか自分と母親の関係に苦しんだ過去が浮かび上がってくることは少なくありません。
「母は私のことが嫌いだった」「弟ばかりかわいがられ、私はいつもうるさがられた」「兄は遠方の大学に入れてくれたのに、私は地元の短大だった」など、苦い記憶が次々に湧き上がってくるのです。
「母は感情的に怒る人だった。私は母を反面教師にして子育てしてきたつもりだったのに、娘を嫌悪する自分は母そっくりだ」と嘆く人もいました。
人間は幼いうちに、自分は価値のある人間だということを誰かに思ってもらうことがいかに大切なのか、そしてそれをないがしろにされるできごとはなかなか消すことはできないのだと、改めて思う瞬間です。
このように、「娘が生意気でかわいくない」という問題は単純ではなく、そのもっと奥に根深い問題が潜んでいることが多いものなのです。
「娘がかわいいと思えない」というママに話を聞くと、いくつかの傾向があることに気づきます。
1.忙しすぎる
家事、子育て、仕事などいくつもの「やるべきこと」を抱えて疲弊している人が多いと感じます。
夫も仕事で多忙で、頼ることができない。
忙しいとどうしてもイライラしてしまいますし、子どものワガママなどに対して過敏に反応してしまうこともあると思います。
2.自分に厳しい
明確な母親像があり、自分に課している合格ラインが非常に高い人。
他者の目からみると十分がんばっていて素敵なママなのですが、「そのくらいはできて当然のこと」と、合格点を出すことができません。
さらに「私はあれもダメ、これもできていない」と自分に厳しく、そのぶん子どもにも厳しくなりがちなのです。
3.「ねばならない」が強い
「母親はこうあるべき」「女の子はこうでなくちゃいけない」という思い込みや、「何時までに家事をここまで終わらせる」という自分への縛りが強く、「まぁいいか」とは思えない真面目なタイプです。
このように、ママ側の環境や思い込みが「娘がかわいくない」につながっている可能性があると感じます。
だからこそ、「娘をかわいがれない」という自分をあまり責めすぎないでほしいと私は思うのです。
きょうだいを平等にかわいがれないのも、娘に厳しい態度をとってしまうのも、人間ですから起こりうることです。
まずは多忙ななかでがんばっている自分を認めてあげてください。
それでも、この状態を続けることで娘の中で「ママを信頼しよう」という思い、「自分は誰かに愛される価値がある」という自信が形成されにくくなる可能性があります。
そうなるまえに対策を打っていきましょう。
参照元:Yahoo!ニュース