閉店ドミノの「ドミノ・ピザ」が、さらに「苦戦」しそうなワケ

宅配でピザを受け取っている人

2023年に宅配ピザ業界で初めて1000店舗を突破したドミノ・ピザで、「閉店ドミノ」と呼ばれる現象が話題となっている。

ネットやSNSで8月4日、18日、25日を中心に、各地のドミノ・ピザが閉店したという情報が多く寄せられている。

ざっと検索しただけでも8月4日は、かすみがうら千代田町店、秋田仁井田店、青森観光通り店、盛岡南店。

18日は、大分仲西町店、川越宮元町店、川口桜町店、久留米上津店。

25日は小田原中里店、館林店、フレスポ鳥栖店、播磨町店などの「閉店情報」が見つけられた。

ただ、この現象はしばらく前から起きていた。

例えば山形県では2024年5月19日、山形南館店、酒田山居町店、米沢金池5丁目店の3店舗が閉店したことで、「山形県内にドミノ・ピザはゼロ」という状況になり、話題を呼んだ。

ちなみに、今回の閉店ラッシュで「県庁所在地にドミノ・ピザはゼロ」という事態も起きている。

青森市では2024年5月19日に青森市役所前店が閉店し、残されたのは青森観光通り店の1店舗だけになっていたが、先ほど述べたように同店も8月4日に閉店してしまった。

ドミノ・ピザといえば、業界トップシェアを誇る人気店だ。

「1枚買うと2枚無料!」など攻めたキャンペーンなどで知られ、2023年のクリスマスにはあまりにも注文が殺到し過ぎて「炎上」したことも記憶に新しい。

そんなイケイケのイメージらしく、2033年までには2000店舗という強気な目標も掲げていた。

そんなドミノ・ピザで、なぜここにきて「閉店ドミノ」が起きているのか。

結論から先に申し上げると、本国の方針だ。

コロナ禍で「攻め過ぎた」 ドミノ・ピザを運営するオーストラリアのドミノ・ピザ・エンタープライゼスが7月17日、不採算店舗の整理するため、日本市場で最大80店舗を閉鎖すると発表したのである。

なぜ整理しなければいけないほど不採算店舗が増えたのかというと、「攻め過ぎた」からだ。

実はドミノ・ピザは2020年度以降の3年間、403店も出店している。

ドミノ・ピザ・エンタープライゼスの資料によれば、日本の総店舗数は1017店(7月時点)で、オーストラリア国内の750店を軽く抜き去っている。

いかに異常なハイペースで出店していたのかがうかがえる。

なぜこの3年間にこのような「異常」がまかり通ったのか。

勘のいい方はお分かりだろう。

そう、コロナ禍のフードデリバリー特需だ。

忘れている人も多いだろうが、この時代のビジネス記事を読み返すと「フードデリバリー市場が活況!」「中食産業が急成長」なんて景気のいい話が並んでいる。

それまで日本は欧米ほどフードデリバリーが普及していなかった。

それは裏を返せば、「大きな伸び代がある」ということなので、外資系企業がこぞってこの分野に参入したというワケだ。

ドミノ・ピザも然りだ。

「フードデリバリーという文化が広まってきた今が攻め時」と言わんばかりに、これまでだったら採算が取れないような地域に積極的に出店。

あれよあれよと2021年に800店舗を超え、ピザチェーンとして初めて全国47都道府県を制覇すると、翌2022年には900店舗、2023年には1000店舗を突破した。

ただ、ご存じのように、日本人は熱しやすく冷めやすいところがある。

確かに、コロナ禍でフードデリバリーという新しい習慣も広まってきた。

しかし、一方でコロナ禍が終われば「ああ、そんなこともあったね」とこれまでの日常にサクっと戻る人がかなりいるのだ。

つまり、コロナ禍ではそれなりにピザの宅配を利用した人も、家から出て近所の飲食店で食事をしたり、コンビニやスーパーに行って総菜や冷凍ピザを買ったり、という「コロナ禍前の行動」に戻ってしまうのである。

こうなると「攻めの出店」をしたところほど、不採算店となってしまうことは言うまでもない。

今回の「閉店ドミノ」の対象となった店の中には、「2022年にオープンしたばかりなのにもう閉店しちゃうの?」と地域住民が戸惑うようなケースもあるのだ。

このような話を聞くと、「ドミノ・ピザはうまいし安いから、不採算店の整理をしっかりすれば順調に2000店舗に到達するはずだ」と思う人もいらっしゃるかもしれない。

個人的にはドミノ・ピザをよく利用するので、ぜひそうなっていただきたいと思うのだが、その道は決して容易ではない。

「宅配ピザキラー」ともいうべき新しいプレーヤーが、ドミノ・ピザの成長を阻(はば)むことが予想されるからだ。

それは、セブン-イレブンだ。

ご存じの方も多いだろうが、セブンが「宅配ピザ」に参入する。

といっても、店内でイチからピザ生地をこねたりするわけではなく、冷凍のピザをオーブンで焼いて宅配するというもの。

今のところピザは2種類で「マルゲリータ」(780円)と「照り焼きチキン」(880円)。

7月に首都圏の一部店舗でテストをしていたが、九州・北海道エリアへと拡大。

8月から約200店舗規模に拡大していくという。

この「コンビニで焼いたピザを届けます」というサービスは、セブンの商品を最短20分で自宅に届ける「7NOW」の一環となる。

「宅配ピザ」というインパクトの強い商品を押し出すことで「7NOW」の認知度向上・利用者拡大を目指していくようだ。

ドミノ・ピザにとって、このセブンピザはかなりの脅威になると思っている。

今回、ドミノ・ピザが「積極的に出店したけれど結局、不採算になってしまったエリア」の客を根こそぎ奪われてしまう恐れがあるからだ。

北海道を例に説明しよう。

ドミノ・ピザは先ほどのようなコロナ禍のフードデリバリー特需を受けて、北海道を果敢に攻めていた。

2020年から札幌を皮切りに、旭川、苫小牧、函館、帯広、釧路と立て続けにオープンさせた。

しかし、特需が終わったことで店がどんどん整理されている。

旭川は4店舗→3店舗、函館は3店舗→1店舗、帯広は3店舗→2店舗、釧路は2店舗→1店舗になった。

宅配拠点が消えるということは、それだけ宅配エリアが小さくなっていくので、ライバルのピザーラやピザハット、ローカルの宅配ピザ店に取られていく。

しかも、それだけではなく、そこに先ほどの「セブンピザ」も入ってくるのだ。

この新参者の強みについて、メディアは「安さ」や「早さ」を挙げることが多いが、実は宅配ピザ側が本当に脅威に感じているのは、「サイドメニューの豊富さ」だ。

北海道はコンビニ激戦区として知られており、この人口減少の日本においてコンビニの店舗は増加傾向にあるほどなのだ。

そのため、「7NOW」も全国に先駆けて北海道限定商品を宅配する。

「からあげ(ザンギ)10個入り」(907円)、「おかずコロッケ北海道産ジャガイモ使用3個入」(291円)、「三元豚の厚切りロースカツ」(673円)、「ギザギザポテト6食分(盛盛)」(991円)、「みらいデリナゲット20個入り(プレーン/チーズ)」(1057円)である。

ピザ単体の勝負なら、やはりドミノ・ピザなど大手チェーンの「注文を受けてイチからつくるピザ」のほうに軍配が上がるだろう。

しかし、サイドメニューも含めた総合力となると、セブン側にもこれだけのメニューがそろっているので、かなりいい勝負になるのではないか。

しかも「7NOW」は基本的にセブンで扱っている商品を届けている。

コンビニの棚に並ぶ無数の飲料や総菜、スナック菓子、スイーツと組み合わせられる。

サイドメニューの豊富さでは圧勝なのだ。

仮に今回の「閉店ドミノ」を乗り越えて体制を整えたドミノ・ピザが撤退したエリアに再進出を果たそうと思っても、そこには既にセブンがいて「7NOW」を着々と広めている可能性が高い。

ということは、その商圏内の客はセブンの安くて速いピザと、豊富なサイドメニューを堪能しているということだ。

ここを切り崩していく、というのはドミノ・ピザからすればかなりの至難の業だろう。

首都圏を中心に出店攻勢を仕掛けるイオングループの「まいばすけっと」が、商圏内のコンビニ客を奪うことから「コンビニキラー」の異名を取っているが、今度はセブン側が「7NOW」を武器に、「宅配ピザキラー」になるかもしれないのだ。

そこに加えて筆者が、ドミノ・ピザの「2000店舗」が厳しい道のりだと考える理由がもう1つある。

いろいろな専門家の方たちが「日本のピザ市場は今後も有望」ということをおっしゃっているが、言われているほど右肩上がりで成長をしているような世界ではなく、かなりシビアな競争を強いられるレッドオーシャンなのだ。

東日本電信電話(NTT東日本)が公開している「タウンページデータベース」によれば、全国のピザ店の登録件数は2013年に2377件だったが、毎年減少を続けて2022年には1840件にまで減っている。

ピザ店自体は長期的な減少トレンドに陥っている。

新規プレーヤーの参入や商品数が増えて「市場規模」が大きくなっていることは間違いないだろうが、それはあくまで「コロナ禍」のような特需が後押しになっている可能性が高い。

人口減少で消費が冷え込んでいく一方の日本では「瞬間風速的なバブル」かもしれないのだ。

実際、バブルの反動も出ている。

2023年12月に東京商工リサーチが発表したところによれば、同年1~11月の「宅配ピザ店」の倒産は13件だった。

これは集計を開始した2009年以降、最多だった年間6件を大きく超えて「過去最多」だったという。

このような「バブルの反動」に加えて、もっと本質的なことを言えば、「消費者の半分が50歳以上」になり、この比率がさらに進んでいく日本では、米国のように「ピザ=国民食」というポジションを確立するのが、なかなか難しいような気もしている。

日本冷凍食品協会のデータによれば、ドミノ・ピザが出店攻勢をかけている最中、2022年の冷凍ピザの生産量は7570トンである。

冷凍食品の王者、ギョーザは10万2348トン、中華まんじゅうは1万3373トンという数字を見ると、ピザはまだ国民食とは言い難い。

しかも、ドミノ・ピザが1000店舗を達成した2023年には6881トンと減少してしまっているのだ。

こういうデータを見ていると、ドミノ・ピザもセブンピザも残念ながら前途洋々とは言い難い。

しかも、セブンはまだ宅配サービスを普及させるためのフックの一つくらいにしか考えていないが、ドミノ・ピザの場合、「ピザ1本足打法」だ。

「若年層の減少」は死活問題である。

いずれにせよ、2023年の1000店舗から倍の2000店舗に増やすためには、これから日本の内需を支えていく「50歳以上のシニア・高齢者」が、こぞって注文をするようなピザが求められる。

これまでは若者や女性の利用者が多いと言われてきた「宅配ピザ」に、新たな価値を提示することができるのか。

ドミノ・ピザの巻き返しに期待したい。

参照元∶Yahoo!ニュース