「このままだと妻を殺してしまいかねない…」夫婦で同時期に育児うつに陥った男性が語る父親の育児うつへの対処法「男友達に相談という発想もなかったからこそ」
近年、男性の「育児うつ」のリスクが懸念されている。
厚生労働省が「産後パパ育休」を創設するなど、女性の社会進出とともに推進される男性の育児参加。
その裏で女性と同程度のうつの発症リスクがあるほか、夫婦が同時期に発症してしまうケースもあるという。
何が起因で、どう対処していけばいいのか。
実際に夫婦が同時期に育児うつに陥った経験のある父親に話を聞いた。
「妻の言動すべてにイライラして、このままこの状態を放っておくと妻に暴力を振るってしまったり、衝動的になった末に殺してしまいかねない。そんな自分に気付いて医師に相談しました」
そう語るのは東京都に住む会社員男性Bさん(42)。
過激な発言からは到底結びつかないような穏やかな語り口調で柔和な雰囲気の男性だ。
現在は1歳10カ月になる第一子と妻の3人で穏やかに暮らしているが、子どもが誕生した直後に妻が産後うつに陥り、そのサポートをする中で自身も育児うつに陥ってしまったという。
子どもが誕生したのはコロナ禍の2022年10月。
不妊治療の末に授かった待望の我が子だった。
しかし、出産直後に母子が一緒に過ごす早期母子接触(別名・カンガルーケア)が取れなかったことや、十分な産後ケアがすぐに受けられなかったことなどが重なり、妻は産後まもなく精神的に不安定な状態になってしまった。
母子が退院して3人の暮らしが始まってしばらく経ってからも、妻が急にしゃがみこんで動かなくなってしまったり、机の下に入ったまま出てこなくなったり、壁や洗濯機を殴りつけるなどして激しい感情をぶつけたりすることもあったという。
男性は妻の妊娠を機に、在宅で勤務できる仕事へ転職したばかりだった。
しかし、第一子の誕生は転職先に入社する前だったこともあり、会社の規定上育休を取得することができず、在宅勤務しながら妻のサポートと育児をする日々が続いた。
「新しい職場の業務に慣れるまでは時間もかかりました。普通に残業もあるので、子どもが寝ている深夜や早朝にも仕事をしていました。在宅勤務ができたことはよかったですが、妻が仕事中にいろんな頼みごとをしてくることが増え、『在宅勤務だからって自分にはどのタイミングで何を頼んでもいいと思っているんじゃないか』と次第に妻の言動にイライラを募らせていきました」(Bさん、以下同)
妻がかかりつけ医に相談したところ、「うつ病」と診断されたことがきっかけで、長男は0歳7カ月の時に保育園に入園した。
しばらく薬の処方を受けながら、産後うつに対応できる精神科を探していたが、うつ状態は収まるどころかさらに悪化していった。
「保育園に連れていきたくない」といいはじめたり、同じ保育園に通う保護者と比べて自身を卑下するような発言を繰り返した。
そんな妻の言動に男性自身もうつ気味になり、イライラを募らせていったが、「自分のイライラを妻も感じ取ってしまうから、見せないことが大事」だと思い、妻の前では平静を装いつつも、母子が寝静まった夜中に隠れてお酒を飲んだ。
時にはやり場のない気持ちを物にぶつけてしまうことも増えていった。
集中力も低下していき、次第に仕事の業務も滞りはじめるようになった。
そんな状態が4カ月ほど続いたという。
「妻の状態を見ていると、『自分はここまでひどくない』と思ってしまったんです。精神科に通って服薬する必要はない、自分の中で解決できる問題だって。だから当時の自分がそもそも育児うつなのか、あまりよくわからない状態で過ごしていました。でも妻に対する尋常じゃないイライラを自覚し始めてから、『あっ、これは放っておいたら自分もやばいな』と気づいたんです」
状況が好転したのは年が明けて、妻が産後うつに対応した精神科の女性医師と出会い、服薬をしはじめてからだった。
精神的な悩みを定期的に聞いてもらえる環境が整ったことで妻の心身も落ち着いていき、男性自身もかかりつけの病院に月1回ほど通い、薬の処方に加え、定期的に相談ができるようになったことで次第に落ち着いていった。
「同じタイミングで子どもが産まれた男友達もいたんですけど、相談するという発想に当時は至らなかった。産後のうつは母親の問題と思っていたし、相談しづらいのもありました。実際、かかりつけの医師にもともと精神的な不調を診てもらっていたいたこともあって、運よく相談できました。だけど、かかりつけのない状態で新たに精神科とか心療内科を探して通院できたかと考えると、当時の自分にはその選択肢は思いつかなかったと思います」
Bさんは当時の状況を踏まえてこう振り返る。
「育児のために在宅勤務ができる会社に転職しましたけど、今思うと入社を遅らせてでも子育てに専念できる時間をとればよかったなって思います。育休はとれなかったからしょうがないですけど、いっそ『仕事しない』という選択があってもよかったと思うし、実際に出産直後が妻も一番しんどそうでした。もっとあの時こうしておけばなと思うことはたくさんありますね」
国立成育医療研究センターの調査によると、メンタルヘルスの不調に陥るリスクのあった父親が11%、母親が10.8%とほぼ同じ割合であることがわかった。
さらに夫婦が同時期にメンタルヘルスの不調に陥るリスクは3.4%となっている。
同時期に夫婦が不調に陥ることは、子どもの養育環境や発達にも悪影響を及ぼすと専門家から指摘されている。
「自分がつらい時、妻も産後うつ状態なので夫婦だけでどうにかしようと思っても無理でした。男友達にも悩みを打ち明けるという発想がなかったし、保健師の訪問も基本的に母子が中心なので、誰に相談していいかわからなかったです」
Bさん夫婦には以前からかかりつけ医がいたことが功を奏した。
また月に1度程度、実家に家族で帰省した際、両親に子どもを預けたり、妻の母や姉妹に子どもの面倒を見に自宅な来てもらったり、つかの間のガス抜きができたことも救いだったという。
「子どもという存在が家族に一人加わるということは、想像を遥かに超えて大変なことなんだと身をもって経験しました。親の健康は子どもの健康と同じくらい大切です。うまくいかないことがあったら、医師や専門の機関を積極的に頼って相談してほしいです」
現在は夫婦共々落ち着いて育児を楽しんでいるが、同じように子育てに悩む世帯が「孤育て」にならないように、頼ることがうしろめたくない社会が求められる。
参照元∶Yahoo!ニュース