暑すぎる夏、アイスクリームには逆風?サーティーワンがそれでも「例外」になれたワケ
アイスクリームチェーンのサーティワンの既存店売上高が「31カ月連続で増加」している。
暑いと食べたくなるアイスクリームだが、実は「気温が高いほど全てのアイスが売れる」とは限らない。
それでも、サーティワンが増収を維持できる背景には「意外な理由」がある。
それでも、サーティワンは「例外」に 猛暑日が続いているにもかかわらず、サーティワンの業績は好調です。 「『にもかかわらず』って、暑いからアイスクリームが売れるのは当たり前じゃないの?」と思った方もいるかもしれない。
もちろん、一般的にアイスクリームは特に夏場に売れる。
実際、スーパーのアイスクリームの売り上げは夏場の気温が高いほど伸びる。
しかし、これは近年はっきりしてきたことなのだが、猛暑日で気温が35度を超えると飲食店では出足が鈍るのだ。
加えてお店でのオーダーも濃厚なアイスクリームよりもさっぱりした氷菓の方がよく売れる。
考えてみれば当たり前で、この8月、熱中症の危険を考慮して午前10時から午後4時までわが家でも家族に外出を控えるようにお達しを出している。
私の仕事も日中は極力リモートで、外出するのは主に日が暮れてからというのが、ここ1カ月の生活習慣だ。
生活スタイルがこのように変わると、真夏の日差しの下で冷たいアイスを頬張るという夏の思い出は過去のものになってしまう。
日中外に出る人が減れば、外食各社の来店客数も減少してしまう。
それで、外食各社は「災害的な暑さ」という逆境をどう乗り切るのか工夫をしているわけだ。
これが気候変動下の経済の実情だ。
そこで冒頭の話に戻る。
夏の猛暑日が定着してきたにもかかわらずサーティワンの業績は真夏を含めて絶好調だ。
今年3月に記録した「31カ月連続既存店売上増」は直近6月の開示でも継続中だし、上半期売上高は過去最高の141億円、前年比で26%増と同業他社が羨むほどの成長を示している。
サーティワンはなぜ好調なのだろうか。
マーケティング戦略の観点から3つの成功要因を説明してみたいと思う。
サーティワンのホームページを覗いてみると、この8月は子ども向けのキャンペーンが充実している。
ポケットモンスターとコラボした「31ポケ夏!」に、すみっコぐらしとのコラボ商品、前月の7月はミニオンズで6月はマリオといった具合に、毎月のように子どもが飛びつきそうなキャンペーンを行っている。
サーティワンというと、どちらかというと大人の女性が大好きなチェーン店というイメージがあるたが、ことキャンペーンに限るとメインの顧客層と違うターゲット(=子ども)にフォーカスをしている。
これを疑問に感じる人がいるかもしれない。
実はこのやり方、マーケティングの長期戦略として非常に確実な顧客確保方法なのだ。
というのは、「食」というものは子どもの頃に覚えた味が圧倒的な記憶となって維持されるからだ。
わかりやすい例が日清食品の「カップヌードル」でだ。
1971年に発売された商品で、その後さまざまなバラエティの新商品が登場しますが、なぜか一番売れるのは昔からある最初の商品。
その理由は多くのユーザーにとって人生で一番最初にたくさん食べたカップ麺がこの味だからだ。
このやり方はアイスクリームのような競合が無数にある食品では特に有効だ。
コンビニやスーパーでいつでもアイスが手に入る時代に、小学生の目の高さで31種類のカラフルで違った美味しさが楽しめるアイスが選べるという「特別な体験」を刷り込んでおく。
これによって、サーティワンのアイスは特別なんだという舌の記憶を刻むことができる。
とはいえ、この物価高のご時世に普通のアイスよりも割高なサーティワンに子どもを親が連れていくかどうかが気がかりかもしれない。
しかし、その心配はいらない。
なぜなら子どもをお店に連れていくお母さんの世代もすでに、子ども時代にサーティワンのファン層になっているからだ。
このように「子ども時代に(主たるターゲットとして)女の子がサーティワンのファンになるという現象について、非常に興味深い実例が出ている。
それがイトーヨーカドーとサーティワンのランドセルの共同開発だ。
このランドセル、色はサーティワンの人気商品になぞらえたパステルカラー中心の8種類。
錠前の部分が可愛いアイスクリームの形状をしていて、レインカバーはさらにアイスと同じ楽しい柄になっている。
2017年の発売当初はさすがに奇抜すぎて一回で消えてしまう企画だろうと思われただが、結局完売し、現在も長期企画として販売を継続している。
子どもにも、ランドセルを買う親の世代にも、どちらにもサーティワンがブランドとして定着しているという事実を感じさせるのだ。
ふたつめの要因は運営する親会社の企業特性に関わるものだ。
サーティワンはもともとアメリカのカルフォルニア州に誕生したバスキン・ロビンスが発祥だ。
日本でサーティワンを運営するB-Rサーティワンアイスクリームは、そのバスキン・ロビンスと不二家の対等な合弁会社だ。
日本はバスキン・ロビンスにとって3番目に大きい市場ですが、経営としては不二家の意向を尊重する形で本国とは違う形での成長を容認してきた。
それが結果的に現在の好循環につながっている様子だ。
日本のサーティワンは国内の自社工場で開発されている。
バスキン・ロビンスには現在1300以上のレシピがあるのだが、日本で開発された新商品も本国で認証された後に、グローバルなレシピとして共有される仕組みだ。
若い読者の皆さんはピンと来ないかもしれないが、1974年にサーティワンの日本の1号店が開業した当時、不二家は日本最大のケーキチェーンだった。
昭和の当時、どこの町の商店街にも不二家のペコちゃんのお店があり、子どもにとってデザートといえば不二家だったものだ。
そして当時も今も、不二家の最大の優位性は商品開発にある。
この不二家のスイーツに関わる商品開発のDNAが、バスキン・ロビンスとの合弁でぴたりとあったのだ。
サーティワンのロゴカラーはピンクと青が基調で、31種類のフレーバーはさまざまなフルーツをイメージしたカラフルな商品だ。
普通に考えるとカラフルなお菓子は人工的なイメージを持ちやすいものだが、そこが不二家の商品開発力で、モチーフとなるフルーツのイメージを損なわない形でフレーバーが開発されている。
定番フレーバーに加えて、毎月、期間限定のフレーバーが投入されている。
それらすべての商品で、「カラフルであるにもかかわらず、食べたい気持ちを生み出す」という非常に難しいポイントを両立させているのだ。
起業のDNAという視点でもうひとつ指摘をさせていただくと、不二家がパートナーだったことで結果的に「高価なアイス」というマーケティングポジションが定着できたことは大きかったと思う。
サーティワンの基本的なメニューであるレギュラーシングル、つまり一つのフレーバーがコーンにのった商品の価格は420円、ダブルにすると760円というのが基本的な価格だ。
これをアイスクリームの価格だと考えると非常に高いと感じると思う。
ところがサーティワンの顧客から見ると、この価格をあまり気にする様子はない。
理由はサーティワンのアイスはスイーツだと考えている人が多く、価格もコンビニスイーツやカフェのデザートをイメージして比較するからだ。
この現象も商品のカラフルな色が心理的に生み出している現象だと考えられる。
見た目が普通のアイスではないことで、価格が高くてもこれはちょっと特別な商品なんだと消費者が納得してくれているのだ。
さて、サーティワンのIR資料を読むと、近年では同社はテイクアウトの充実に力をいれている様子だ。
これが成長の3つめの要因と関係している。
サーティワンの国内店舗は1000店を超えている。
地方ではフードコート含め、座って食べられるお店が多いのだが、東京の都心では店舗スペースが小さいお店の方がもともと主流だ。
さらに、サーティワンでは最近、テイクアウト専門店である「サーティワン to go」の拡大を始めている。
直近ではまだその数は20店と限定的だが、中期的には100店まで拡大する方針だという。
私の自宅から近い新宿の店舗もこの to go店で、立地の関係もあるのだろうが、けれども全国では売上トップランクだという。
コロナ禍の影響があったのかもしれないが、コロナ禍前に売り上げに占めるテイクアウト比率は23%だったところが、2023年には41%に増えている。
自宅でサーティワンを楽しむ人が増えているのだ。
今年の5月、このテイクアウト需要が関係すると思われる面白い出来事があった。
サーティワンが実施した「よくばりフェス」というキャンペーンが大当たりした結果、一時的に専用カップが品薄になって販売を停止するという事態が起きたのだ。
通常570円で3個のポップスクープサイズ(スモールサイズよりやや小さいサイズ)のアイスを楽しめるトリプルポップという商品があるのだが、このよくばりフェスではこれを1個100円でトータル10個まで増やすことができることになった。
簡単にいえばトリプルポップをポップ10にしたうえでそれが1270円で楽しめるのだ。
通常商品ですとバラエティパックでスモール8個2240円、12個3200円ですから、それより小さいサイズとはいえ10フレーバーで1270円というのは非常におトクだった。
キャンペーンはそのおトク感で成功したのでしょうけれども、このキャンペーン、販売促進の観点でみてもサーティワンにもの凄くメリットのある企画だったのだろう。
なにしろ固定客であるファン層に対して、10種類のフレーバーを自宅で楽しむ経験をしてもらうことができたのですから。
これは、ストーリーとしての戦略がサーティワン全体で一貫していることを意味する。
冒頭でお話ししたように、長期的に顧客のファン層を拡大していくには子どもの頃から舌に味を覚えさせることが大切だ。
さらに歴史の長いサーティワンのようなお店では、固定ファンになった母親が子どもをお店に連れてくるように仕向けることが重要だ。
そして高い価格実現性を維持するには、商品のポジショニングが重要だ。
「これはアイス」とポジショニングするよりも「これはスイーツ」「特別なスイーツ」とポジショニングできたほうが価格実現は高くなる。
一方で酷暑の季節を迎えるとアイスについて顧客の来店飲食率は下がる。
そこで暑さが来る前にテイクアウトを中心にプロモーション価格で10種類のフレーバーのアイスをファンが自宅に持ち帰るように仕向けたというのがこの5月企画の戦略ストーリー的な意味合いだったわけだ。
実はわが家にもサーティワンの熱狂的なファンが1名いて、シャトレーゼの安価で美味しいアイスを推奨する私は結構家庭内調整に苦労している。
とはいえ、今晩のデザートはサーティワンだということになった日は、私もそれなりに珍しいフレーバーのアイスを楽しんでいる。
サーティワン、しばらくは順調に拡大基調を続けそうだ。
参照元∶Yahoo!ニュース