QRコードやオンラインで弔いも 「墓参りのデジタル化」で追悼のあり方は変わるか
猛暑のお盆、墓参りに帰省中の人も多いことだろう。墓参りは、故人とのつながりを再確認する、伝統的な弔い方の一つだ。
今、その墓参りとデジタル技術の融合が進んでいる。
2023年に日本で亡くなった人の数は過去最多の157万人を超えた。
一方、同年の出生数は過去最少の約73万人。
生まれる人の数より死ぬ人の数が2倍以上となる多死社会は、死を悼む人の割合が多い社会だ。
墓参りのデジタル化は、多死社会に何をもたらすのか。
死者の弔い方、悲しみの乗り越え方はどう変わるのか。
北海道札幌市在住の有壁真弓さん(65)は昨年、実家の墓を改修した。
墓は自宅から車で2時間ほど離れた滝川市にある。
改修の際、石材店に勧められ、墓石にある仕掛けを付けることを決めた。
「QRコードを付けたんです。スマホなどで読み取るとQR墓(デジタル墓)につながり、墓に入る故人の名前、写真、プロフィールなどが表示されます。ただ手を合わせるだけではなく、先祖の歴史や家族の近況を語り合う場所になれば、お墓参りが楽しくなるんじゃないかと期待したからです」
デジタル墓からクリックで有壁さんの実家のオンライン追悼サイトに移ると、屯田兵として、福岡県の八女市から北海道滝川市に移住した先祖の歴史、家族の思い出のアルバム、動画などの記録が表示される。
コンテンツの閲覧範囲は自分で設定でき、家族などに限定して公開することもできる。
昨年11月、有壁さんは滝川市の墓地で、スマホでQRコードにアクセスし、孫たちに「これがあなたたちの(3代前の)おじいちゃんよ」などと画像を見せた。
「子どもや孫たちに、私が祖父から聞いた先祖代々の話や写真をオンラインで伝えられる。子どもたちはスマホやパソコンになじみもあるし、わかりやすい。ありがたいですね」
QR墓サービスを開発したスマートシニア株式会社代表・藤澤哲雄さんは、このサービスのポイントは「永続性」にあるという。
「ある特定のウェブサーバーに保存されたデータの場合、そのサーバーがハッカーの攻撃を受けたり、運営する会社が潰れたりすると消えるリスクがあります。しかし、私たちが開発した『永久QR』はブロックチェーン上に分散して記録されるので、データは改ざんされにくい。分散されて保存され、サーバー維持費もかからないので、ほぼ永久に残ります」
永久とはいってもブロックチェーンネットワークが存在する限りという条件が付くが、数百年はデータが残るだろうという。IT企業の寿命より十分長そうだ。
有壁さんにQR墓を勧めた滝川市の山崎石材工業の代表・山崎修さんはこんな技術が欲しかったと語る。
「東日本大震災後、津波の到達点に石碑を建てる『津波記憶石プロジェクト』に参加しました。そのとき、石碑にQRコードを付けて津波の映像などの情報にアクセスできるようにした。これは便利だなと。うちで扱うお墓にも付けたいと思ったのですが、当時はサーバー維持費がネックでした」
だが、「永久QR」なら墓石のように長持ちするだけでなく、墓石以上に豊かな情報を残せる。
「地方のお墓を解体し、遺骨を都市部の納骨堂などに移す『墓じまい』が最近はやっています。しかし、お墓がなくなると、地方と都市部を行き来するつながりも消える。お墓は動かないところにメリットとデメリットがある。デメリットをデジタル技術で補完できればいいですね」
最近はお墓に樹木葬を選ぶ人も増えている。
この場合、墓標はなしか、あったとしても名前と生没年のみの簡素な墓標だ。
だからこそウェブに故人に関する豊かな情報を、という発想も生まれる。
福岡県太宰府市の「令和の里」記念樹公苑は、樹木葬の霊園だが、「オンラインお墓」も運営されている。
同公苑は小高い丘にあり、墓標を設置した自然公園は「祈り」の場として、位牌を管理する本堂は「法要」をする場として位置づける。
オンラインお墓は標準料金の範囲(追加料金なし)で利用可能だ。
「墓標を見るだけでは故人の人となりはわかりません。死去後何年か経ってお孫さんらがおじいちゃん、おばあちゃんはこんな人だったと想像できるように『貴方を偲び、貴方を忘れない』という思いからオンラインお墓を設置しました」(令和の里・福本静二さん)
「保育士(になる)夢かなえたね!!」「ずっと、一緒にいてくれてありがとう」そんな家族からのメッセージが寄せられているのは、2021年2月に39歳で亡くなった重山美千代さんだ。
美千代さんはコロナ禍のさなかに亡くなったため、葬儀に参列できない遠方の親戚もいた。
そこで遺族は、遠方からでも美千代さんに思いを寄せられるよう、美千代さんのオンラインお墓の利用を決めたのだという。
いつでもどこでも、文章や写真で故人の思い出に触れ、偲ぶことができる。
そこがオンライン墓の長所だが、あえてインターネットにはつながずデジタルデータを利用する墓苑もある。
周囲にオフィスビルや繁華街が広がる東京都港区の「威徳寺 赤坂一ツ木陵苑」。ICカードでお骨の入った厨子が自動搬送されてくるビル型納骨堂だ。
元銀行員の橋本秀人さん(61)は参拝ブースで、タッチパネル式のディスプレーをスワイプしながら自身の家系図を説明する。
自動搬送型の納骨堂、赤坂一ツ木陵苑の参拝ブース。
納骨した厨子がブースに着くと、ディスプレーも「家系樹」を映し出す「これが亡き父と母、私はここ。もうすぐ次男の子どもが生まれるので、また加えないといけないですね」
ディスプレーには、家系図のほか、墓誌、家族史、未来に向けたタイムメッセージ(指定された日が来るまで表示できないメッセージ。孫が20歳のときに開示するなどの指定も可能)、お墓参りの記録といったコンテンツが閲覧できる。
これが同苑の「家系樹」だ。
家系樹は公的なものではないため、ペットを組み入れることもできる。
故人や遺族の意のままに記せるのだ。
ただし家系樹はオンラインには対応しておらず、同苑の参拝ブースまで来ないと閲覧できない。
販売代行している株式会社ニチリョクの同苑担当者は、あえてオフラインでのみ利用できるようにしたと語る。
「技術的にはスマホやパソコンで閲覧することは可能ですが、あえてそうしていません。この場所に足を運んでいただくことに価値があると考えているからです」
前出の橋本秀人さんは2018年に母親を亡くし、赤坂一ツ木陵苑に埋葬するのと同時に、実家のある京都のお墓にすでに埋葬されていた父親を分骨して納骨していたが、今年6月、京都で墓じまいして、父母を同じ厨子(収納用仏具)に納めた。
父母が亡くなったのはどちらも11月。
橋本さんは毎年11月に息子ら家族を集めて、先祖を偲ぶ会を催している。
赤坂見附駅から徒歩2分の立地なので、集まるのも便利だという。
「家系樹のようなサービスがあると、家族が集まったときに思い出話に花を咲かせるような状況が作りやすいですね」
橋本さんの銀行時代の元同僚で、元早稲田大学講師のリチャード・ジニエスさんは最近、赤坂一ツ木陵苑での納骨を生前予約した。
21年前に日本人の妻を亡くし、子どもはいない。
出身地のフランスで両親は他界し、弟は健在だが、もう会う予定はなく、自分が死んでもわざわざ墓参りには来ないはずだという。
フランスには戸籍制度がなく、家系に対するこだわりもない。
それでも家系樹には自分の足跡をたどる文章や写真を納めた。
最近では海外、特にアメリカや中国では、故人の人格を模したAIチャットボット(AIが応答するプログラム)を提供するスタートアップがいくつも生まれている。
「亡くなったおじいちゃんの文章、写真、動画などを自分で集め、自分で設定したAIチャットボットなら、たとえ本物のおじいちゃんと似ていなくても、それに愛着を感じるでしょう。もし『本物』とAIチャットボットが違っていれば、その相違点を家族と話し合えば、故人を思い出すこともできる。『AIチャットボットづくり』も故人を追悼する手段になりうると思います」
オンラインで弔うコミュニケーションをお墓参りのデジタル化にはさまざまなメリットがある。
デザイン墓など凝った墓石や記念碑などを建立する費用に比べて手頃であるうえ、故人や先祖に関する膨大な情報を保存し、閲覧できる。
だが、不安材料もある。
その一つは永続性だ。
前出の橋本さんは元銀行員という職業柄もあり、赤坂一ツ木陵苑を運営するニチリョクと契約する前、同社の倒産リスクを検討したという。
「威徳寺という数百年の歴史あるお寺にある納骨堂なので土地代は無視できると想定し、建物代を見積もり、1基当たりの値段から何基売れればペイするか計算しました。それで大丈夫だろうと判断したんです」
参照元∶Yahoo!ニュース