夏の甲子園「朝・夕方2部制」 素朴な疑問 高野連担当者に記者が直撃「収益が上がるのでは?」「聖域に手を付けた?」質問にどう答えたか

甲子園球場を撮影した写真

阪神甲子園球場100周年の、特別な夏の甲子園が始まった。

近年の気候変動による酷暑に高野連はどのように向き合っているのか。

担当者に直撃して“素朴な疑問”を聞いた。

日本高野連は今年4月19日、運営委員会を開いて、今年の全国選手権大会の開催時間について、気温が上がる時間帯を避けて午前と夕方に分けて試合を行う2部制を開幕から3日間に限って導入することを決めた。

大会1日目は開会式をこれまでより30分早い午前8時半から行い、第1試合は午前10時に開始。

第1試合終了後、観客も退場させた上で夕方16時から第2試合、その後、第3試合を行なった。

そして2日目と3日目は午前8時から続けて2試合を行い、第3試合は夕方の17時から行う。

さらに準決勝は第1試合を午前8時から、第2試合を午前10時35分から行い、決勝は午前10時に開始することにした。

今回の変更は、温暖化が進む中での「暑熱対策」として導入されたわけだが――その真意、そして今後についてどのように考えているのか、日本高野連の井本亘事務局長に聞いた。

「暑さ対策は数年前から話し合ってきました」こう切り出した井本事務局長は、変更までのプロセスについてこう話す。

「暑い時間を避けるために2部制にすべきだという意見もかなり前からありました。阪神甲子園球場には銀傘と呼ばれる屋根がついていますが、内野の一部だけです。お客さんを全員日陰に収容することはできない。また、4万人規模のお客さんが全員、スタンドから屋内に入って休憩することもできません。だから2部制では、お客さんの入れ替えは必然となります。入れ替え時の雑踏警備は万全にできるのか。事前に想定してオペレーションを組みましたが、実際に机上で考えた通りに物事が動くのか。なにしろ甲子園の100年の歴史で、誰もやったことがないわけですから」

―選手の健康問題もさることながら、観客の入れ替えが大きな問題だということですか。

「そうですね、応援団のみなさんのことや、入れ替え時に騒音などで近隣の住民の方にご迷惑をかけないかなど、環境面を中心に多くのことを考えました。お客様の中には小さな子供さんもいますから、その健康面も考えなければならない。もちろん試合開始時間が変わると、選手は何時に起きないといけないか、高校生に夜遅くまで試合をさせていいのかなども議論をしました。それらを考えると、いきなり1日4試合の日程でやるのは厳しい。なので3試合の日に一部導入の形でまずやってみようとなったのです」

井本事務局長は開幕直後の3日間だけ、という試みについて「全日程でやるべきだとのご批判もあるかと思いますが、まずはスケジュールに余裕があるところから、となりました」とも説明している。

――今回の試合時間変更、2部制となるポイントはどういうところになるでしょうか。

「入れ替え時に雑踏の事故が起こらず、観客の皆さんがストレスなくスムーズに進めることが大事だと思っています。それに加えて、どうしても間が空いてしまうこと。特に開会式がある初日は1試合だけやって、夕方にもう2試合ですから、開会式に出たチームは、半日ほど経ってから試合をしなければいけない。これがチームに実際にどんな影響があるのか、運営側も試合進行をスムーズにできるのか、懸念材料はたくさんありますね」

2部制になるとチケットも通しではなく、分けることになる。収益アップになるのでしょうか?

「いえ、夏の甲子園の中央指定席は4200円ですが、入れ替え制にする3日間は気持ちだけ安くして1試合2000円にしています。どのくらいの経費になるか、いろいろ試算をしているんですが、試合時間が8時からと16時からになったとして、空いた時間は警備も休みにしましょうと言うわけにもいきませんし、その間のメンテナンスも必要ですから、経費そのものは1日4試合をやっているよりちょっと膨れると思うんです」3日間が晴天続きであればいいのですが、途中から雨天になったり、ゲリラ豪雨で朝だけ、午後だけダメになるなどのケースも想定されます。「スケジュールの組み換えはこれまでもあったことですから、柔軟に対応しなければならないでしょう」

期間中、医師や理学療法士(PT)が待機している体制は変わらないのか。

「体制は変わりません。ただ、試合開始時間が変わることで選手、さらには客席の熱中症なども減ってくれることを期待します。甲子園の救護室には担当者がいて、毎日利用状況をチェックしていますが、熱中症のほか、飲酒をして気分が悪くなったのではないかと思える人、何のアクシデントかわからない体調不良の人も来ます。3日間、トータルで利用人数が減少すれば、一定の効果があったね、という評価になると思います。そういうエビデンスもしっかり押さえたいですね」

埼玉西武ライオンズは、今季から本拠地のベルーナドームに隣接してMRIなどの装置が整ったクリニックを開設した。ここで故障者、負傷者などを診断しているが、甲子園も医療のサポート体制をさらに充実させる計画はないのでしょうか?

「甲子園がリニューアルされる前は、球場内にレントゲン室があり、全国大会前の投手検診時には使用していました。リニューアルの際に撤去されることになり、投手の検診は大会前に地元で実施してもらうことになりました。大会の時にはバックネット裏に医師の先生と看護師さんに待機していただいています。 でも、本来の医療行為をする場所ではありませんから、限界はあります。球場の近隣にある4~5カ所の医療機関にお願いをして、選手に何かあればすぐに受け入れてもらえる体制を作っています。もちろん、一般の方も状況によっては、病院に搬送する体制をとっています」

今回の改正では、第1日の第1試合(午前10時開始)は13時半、第2、3日の第2試合(午前10時35分)は14時半時点で試合が終わっていない場合、原則として継続試合(サスペンデッド)になるとのことですが。

「コールドゲームにしないのか、というご指摘もありますが、2000年以降で3時間半を超えて決着がついていなかったのは1試合だけなんです。今はタイブレーク制もあるので、こうした事態はまず起こらないだろうと思っています」

なおその1試合とは、2006年夏の決勝、早稲田実の斎藤佑樹と駒大苫小牧の田中将大が投げ合った早稲田実対駒大苫小牧戦だ。

当時はタイブレークも導入されておらず、試合時間3時間37分、延長15回で引き分けになった。

日本サッカー協会(JFA)は、2016年からWBGT(湿球黒球温度=気温、湿度、日射・輻射などの周辺熱環境を総合して計測する“暑さ指数”)が31度を超えることが想定される場合は、基本的に試合を中止または延期する、と決めたが、高校野球ではそうした措置の検討はしなかったのでしょうか。

「検討はしていますが、野球は試合時間2時間のうち、約半分は打者、走者以外はベンチで待機しています。プレー形態や運動量が違いますので、サッカーの事例をそのまま取り入れることはできないと思います」

今年は3試合の3日間と、準決勝以降で開始時間を変更したが、次は4試合の日程でも時間変更を考えているのでしょうか?

「今回初めて実施する2部制が、我々関係者全員がイメージしている通り動くのかどうか、天候の問題もありますし、それを確認してからとなります。メディアの皆さんから“これはやはり無理ではないか”といった意見も頂戴するかもしれませんし、そうなるとまた考え直すことになるかもしれません」

今回の変更は「日本高野連がついに動いた」という印象があります。甲子園の高校野球は「揺るがすことができない聖域」だと思われてきたが、その聖域に手を付けたのは大きな決断だったのでは? と思います。

「そもそも、この暑い中で高校生に野球をやらせていいのか、という批判は根本的にあると思います。しかし、全国大会を別の日程でやるのはさすがに難しい。インターハイなどもそうですが、高校生の部活動は全国規模で一斉にやります。部活の大会は学校が休みの期間に集中してやるのが原則だと思います。その考えに基づいて、今後も検討を進めます」 

7月26日、日本高野連は運営委員会を開き、「熱中症特別警戒アラート」が発令された場合、対応を協議するための対策本部を設置することを決めた。

試合前日にアラートが発令された場合に、翌日の開催可否などを判断していく。

また、開会式直後の第1試合に出場した有田工と滋賀学園の2校は、入場行進の順番を48、49番目とし、退場もそれぞれのベンチに直接向かった。

式典で体を動かさない時間をできるだけ短くし、コンディションへの影響を軽減する。

点灯試合(ナイター)の増加が予想されることから、捕手が投手にサインを出す手の指先にマニキュアなどで着色することを認めた。

現在の高野連はこういう形で変化を恐れず、臨機応変に対応しようとしている。

参照元∶Yahoo!ニュース