「タクシー無線」業界団体が解散へ 「効率ばかりを優先していいのか」 公共性訴える幹部の危機感

タクシーの写真

配車アプリの普及や「ライドシェア」の導入をめぐって、タクシー業界が揺れている。

そんななか、タクシー無線の普及に取り組んできた団体が、この秋の解散を決めた。

いま何が起きているのか。

今年10月に解散することになったのは、一般社団法人の「全国自動車無線連合会」。

6月13日に開いた通常総会で、解散するための特別決議を採択した。

1960年に前身が設立された連合会は、64年間におよぶ歴史に幕を閉じることになる。

専務理事を務める岡崎邦春さんは、解散に至った事情をこう話す。

「タクシー無線局の数は現在、全国で6万数千局と、ピークだった2003年時点の約23万局から4分の1強に減りました。局数の減少に伴い会員数や会費が減り、連合会の運営が厳しくなったことが大きな理由です」

タクシー無線とはタクシーに載せた無線機のことだ。

タクシー会社とタクシーを無線でつなぎ、配車供給の指示や安全運航の確認などのやり取りに使われる。

タクシー車内の装置や屋根の上から伸びる無線アンテナを見たことがある人は多いだろう。

タクシー会社に電話で配車を依頼すれば、近くのタクシーを手配できるのは、タクシー無線のおかげだったと言える。

岡崎さんは言う。

「タクシー無線が誕生したのは、戦後間もない1953年です。無線の導入以前は、お客さんを目的地まで送り届けたら会社までいちいち戻ったり、お客さんが来るかどうかわからないまま長い時間待ち続けたりする必要がありました。無線によって客も運転手も格段に便利になり、『タクシーの産業革命』と言われたほどです」

無線を使うには、総務省(誕生当時は郵政省)の免許が必要で、ほとんどのタクシー会社は無線免許を持っていた。

2003年前後にはタクシー無線を搭載する割合(無線化率)はタクシー全体の99.8%に達し、無線を使って地域のニーズに沿った配車供給を行ってきた。

ところが、そんな状況はこの十数年で一変した。

2010年代以降、スマホの通信網を使ったIP無線や配車アプリが急速に普及したためだ。

IP無線や配車アプリを使えば、従来のタクシー無線を利用しなくても、会社や客とやり取りできる。

結果、100%近かったタクシー無線の利用率は、今では5~6割程度に落ち込んだ。

連合会の会費収入もピーク時の3割ほどまで減り、前述の通り、連合会が解散を決めた大きな理由となった。

記者も使っているが、配車アプリは確かに便利だ。

どこにいてもスマホひとつでタクシーをつかまえることができる。

だが、岡崎さんは、「タクシー会社の経営や運転手に余裕があるわけではありませんし、効率よく稼ぐ必要があるのはわかる」としたうえで、「効率や売り上げばかりを優先していいのか」と問題を提起する。

「高齢者や地方部でなど、今でも電話でなければ配車を頼めないお客さんは少なくありません。にもかかわらず、効率的に稼げるアプリ配車を優先し、時間帯によってはお客さんからの電話に出ない会社まであると漏れ聞いています。タクシーは単なるサービス業ではなく、地域の公共交通機関としての役割があることを忘れないでほしい」

たとえば地方に行ったとき、比較的大きな駅の周辺でも、タクシーをつかまえるのに苦労した経験はないだろうか。

街中を空車で走る「流し」のタクシーも、一時期に比べて少なくなった。

こうしたなかで、必要なときにタクシーを使えない人がいるとすれば、問題だろう。

交通手段が見つからず、通院や買い物が困難になる事態も想像できる。

アプリから弾かれてしまうがゆえに、切実なニーズを抱える人がいることと、タクシー事業の行方に岡崎さんは危機感を抱いている。

岡崎さんは、タクシーに“無線”が許可された経緯を思い起こしてほしいという。

「戦後の電波法によって、電波は国民に広く開放されましたが、大部分の利用は警察や消防といった公共機関が占めていました。比較的早い時期からタクシー会社に利用が許可されたのは、公共的な役割が認められたことが大きいと思います。当時からタクシーには地域公共交通機関として、社会に貢献する役割や責任が求められていたということです」

もちろん、連合会が解散しても、タクシー無線そのものがなくなるわけではない。

連合会自身も任意団体として生まれ変わり、業界内の調整役や課題の解決策を見いだす役割を果たす道などを探っているという。

岡崎さんは、タクシー無線がつないできた「公共性」の理念を、今後も守っていってほしいと願っている。

参照元∶Yahoo!ニュース