「花火の燃えカス」問題で花火大会中止が続々 「被害総額1200万円」「苦渋の決断」の背景を聞いてみた

花火を撮影した写真

長かったコロナ禍が明け、全国各地で花火大会が復活した2023年。

ところが今年、再び中止を決定した花火大会がいくつもある。

原因の一つは「花火の燃えカス」だという。

7月8日、千葉県船橋市は「船橋港親水公園花火大会」の開催見送りを発表した。

同花火大会は、長年市民に親しまれてきた。

地元に住む女性は、こう残念がる。

「打ち上げ場所との距離が近くて、迫力ある花火が魅力でした。特に昨年はいい観覧席から見られて、とても楽しかった。駅から会場も近いし、仕事が終わってから行けると今年も楽しみにしていたのに」

コロナ禍明けで4年ぶりに再開された昨年は、約4000発が打ち上げられ、会場は6万人の観客でにぎわった。

ところが、打ち上げ花火の燃えカスが、港に係留されていたプレジャーボートなどに落下。

総額1200万円という被害が生じたという。

花火大会を主催する「ふなばし市民まつり実行委員会」は港での開催継続は困難と判断、今年度の開催は中止を決めた。

中止が報道されると、実行委員会の事務局である同市商工振興課には問い合わせが相次いだ。

同課の尾崎晃一郎係長は語る。

「『場所の変更は仕方ないにせよ、今後も花火大会を続けてほしい』という声が多く寄せられました。花火大会を楽しみにされている方が大勢いらっしゃることを実感しました」

「花火の燃えカス」とは、花火の火薬を覆う丈夫な紙で作られた容器「玉皮」の燃え残った破片のこと。

花火を打ち上げれば必然的に飛散する。

火のついた状態で落下することもある。

花火を打ち上げる際は、花火の直径に応じて打ち上げ地点からの安全距離(保安距離)が設けられる。

「我々が打ち上げる2.5号玉の花火の場合、半径65メートルの保安距離の円内は基本的に何もない状態でないと、県から打ち上げ許可は下りません」(尾崎係長) 

例年、港のほぼ中央に台船を停泊させ、打ち上げ地点にしてきた。

保安距離のすぐ外側にはボートやヨットが係留する「船橋ボートパーク」があり、風向きや風力によっては花火の燃えカスが落下する恐れはある。

実行委員会は花火大会のたびに業者に依頼して船を防炎シートで覆ってきた。

昨年は係留された船が200隻近くあり、シートのレンタル代と作業費を合わせた費用は約540万円にもなった。

「ボートやヨットにはさまざまな付属品があり、完全に全体を覆うことは難しい。昨年はシートのすき間から燃えカスが入ってしまった」(同課の石崎博課長補佐)

燃えカスで、計7隻の船に焼け焦げが生じた。

高価な船だと1隻数千万円もするため補償額がふくらみ、最終的に修理代として計1200万円が加入していたイベント保険から支払われた。

「過去にも花火の燃えカスによる被害はありましたが、昨年ほど大きな被害ははじめてでした」(石崎課長補佐)

花火大会の開催見送りは、実行委員会が「燃えカス」対策の検討を重ねた結果だ。

四方にある建物やボートパークは保安距離に入らないギリギリにあり、港内での花火の打ち上げ地点は変更できそうになかった。

周辺のボートやヨットの防炎対策を徹底すると、持ち主が船を使用できない期間がこれまで最長だった10日間よりも延びてしまい、「私有財産にそこまで制限をかけるのは難しい」(同)。

船の移動を依頼することも考えたが、係留場所の確保は簡単ではなく、乗用車が駐車場を移動するようにはできない。

「船の所有者の皆さんが、『焦げても弁償してくれればいいから、花火大会を続けていいよ』とおっしゃってくださったとしても、被害を重く受け止めている我々としては、同じ被害を繰り返すわけにはいかない」(同)

被害が繰り返し発生すれば、イベント保険の保険料は上がることも考えられる。

新たな会場も探したが、意見調整や計画策定の時間が十分になく、今年度の花火大会開催を見送らざるを得なかった。

「花火大会を楽しみにしている方が多くいらっしゃり、苦渋の選択でした。次年度以降、持続可能な花火大会にするため、検討を重ねていくことといたしました」(同)

徳島県で最大級の「鳴門市納涼花火大会」も、燃えカス問題で今年の開催は中止になった。

4年ぶりの開催となった昨年は、約7000発が打ち上げられ、5万5000人を魅了した。

ここでも花火の燃えカスが、車や屋根の上に設けられた太陽光発電のソーラーパネルに落下、燃えカス被害が発生した。

飛散した花火の燃えカスは、同市観光振興課の職員によると、毎年、花火大会後はボランティアや市の職員らが清掃活動を行ってきた。

だが、昨年の花火大会では断続的に雨が降った。

水分を含んだ花火カスが車やソーラーパネルの表面に密着し、火薬由来とみられる成分が染み出し、変色やシミをつくってしまったのだという。

「『洗ってもとれない』という苦情が市に寄せられました」(観光振興課の職員)

花火の打ち上げ場所は川沿いの「撫養(むや)川親水公園」の近くで、周辺には住宅地が広がる。

「ソーラーパネルを設置する家屋が増えました。屋根の上を覆う対策も難しい。花火大会を見直す時期にきていると思います」(同)

市や商工会議所などは、25年度以降の開催を目指して、打ち上げ場所の変更や規模の縮小を検討していくという。

「関東三大七夕まつり」の一つ、「狭山市入間川七夕まつり」(埼玉県)の花火大会も今年は中止になった。

理由の一つがやはり、花火の燃えカス。

祭りの実行委員会の事務局である狭山市商業観光課の担当者は言う。

「以前から燃えカスの課題はあり、昨年は打ち上げ場所を700メートルほど移動したのですが、また苦情が寄せられました」

燃えカスがカーポートの屋根や車上、ソーラーパネルなどに落下、汚れたという。

狭山市でも、燃えカス問題も含め、花火大会全体を見直していくという。

火を打ち上げれば、発生する花火の燃えカスのために、愛車や家屋に傷がつくのは確かに問題だろう。

このまま、花火大会は減っていってしまうのか。

日本煙火協会に問い合わせてみた。

国内外で多くの花火大会を手掛けてきた河野晴行専務理事は、相次ぐ花火大会の中止について、「複合的な要因が絡んでいて、燃えカスだけが理由とは一概には言えないでしょう」と語る。

「花火の燃えカス問題は昭和の時代からありました。なぜ今年、花火大会がこの問題で中止が相次いでいるのか、わかりません。花火の構造や打ち上げ方法が変わったわけでもありません」(河野専務理事)

確かに、打ち上げ場所の近くに大きな駐車場やヨットハーバーがあると問題が拡大しやすいので、協会はこれまでも大会主催者に注意を呼びかけてきた。

だからこそ、首を傾げる。「もし、花火の燃えカスのみの問題で花火が打ち上げられないのであれば、東京の人口密集地で開催される『隅田川花火大会』は大問題になっているはずです」(同)

河野専務理事は、「開催地の住民感情が関係しているのでは」と推察する。

取材に、「4年ぶりの花火大会で住民の意識が少し変化したのかもしれない」と、話す自治体の職員もいた。

「毎年、花火大会が開催されていたころは、燃えカスが降ってきても、『いつものことだから』で済んでいたのかもしれません。

コロナ禍の4年をはさみ、昨年は久々の開催だった。

降ってきた『燃えカス』に改めてストレスを感じたかもしれません」(ある自治体職員)

夏の花火は、老若男女を問わず楽しむことのできるイベントのひとつだ。

どの職員も、「市民の期待が大きくて、花火大会はやりたいのですけれど」と、残念そうに訴えていたのが印象に残った。

参照元∶Yahoo!ニュース