ワンオク・Takaが「パニック障害」を公表 周囲はどのようにサポートすればいいのか?

パニック障害の人の心理をイメージした写真

ロックバンド「ONE OK ROCK」のボーカルを務めるTaka(36)が、自身のインスタグラムを更新し、映画『キングダム 大将軍の帰還』の主題歌について語るとともに、「パニック障害」を抱えていることを打ち明けた。

そこでパニック障害とは、どのような病気なのかを解説する。

身の回りでパニック発作が起きたときの対処方法やサポート、パニック障害の治療方法もみていく。

編集部:パニック障害はどのような病気ですか?

稲川先生:予期せず突然に動悸・めまい・手足の震え・窒息感・吐き気・発汗などの症状が起こることを「パニック発作」といい、何度も繰り返される状態やそれによって日常生活や社会生活に支障が生じるのが「パニック障害」です。パニック発作でみられる症状は心臓・肺・脳の病気を疑うものでもあり、救急外来をはじめ医療機関を何度も受診するケースが少なくありません。パニック発作は誰にでも起こりうるものですが、予測できる発作や単発での発作の場合はパニック障害とはいいません。パニック発作を起こす頻度は個人差があり、月に数回のケースもあれば週に数回のケースもあります。決して珍しい病気ではなく、一生の間にパニック障害になる人は1,000人に6~9人いるといわれています。男性よりも女性に多く、20~30代の若い世代に好発するのが特徴です。

編集部:何が原因でパニック障害になりますか?

稲川先生:明確な原因はまだ解明されていませんが、脳内の伝達物質やストレスが影響しているのではないかといわれています。脳内には多くの神経細胞や受容体があり、さまざまな情報伝達が行われます。その伝達機能に何らかの異常が生じると、脳に「生命の危機」を知らせるアラームが発動し、パニック発作を引き起こすのです。その他にも、発症の数か月前に強いストレスを経験したケースや、カフェインなど特定の物質を摂取した際に発作が起こるケースもあり、さまざまな原因が考えられています。

編集部:パニック障害でみられる症状を教えてください。

稲川先生:パニック障害の症状は「パニック発作」「予期不安」「広場恐怖」の3つです。先ほどお伝えしたように、パニック発作は動悸・めまい・窒息感などの身体症状で、発作が起こることは予測できません。そのため、「突然起こる」という表現が使われるのです。そして、パニック発作を何度も経験すると、「また発作が出るのではないか」「次は本当に死んでしまうかもしれない」という不安や恐怖を感じる人も少なくありません。それが「予期不安」で、パニック障害の特徴的な症状です。また、「この場所に行くと発作が起こる」「発作が起こっても逃げられない」という不安から特定の場所を避ける状態を「広場恐怖」といいます。パニック発作を起こさないように特定の場所を避けるため、日常生活や仕事に影響が出ることも少なくありません。その特定の場所は人によって異なり、エレベーター・電車・会社などさまざまです。予期不安と広場恐怖はすべてのパニック発作の患者さんにみられる症状ではありませんが、これらによって外出が困難になったり会社を辞めたりするケースもあります。

編集部:パニック発作が起きたときの対処法を教えてください。

稲川先生:パニック発作が起きたときは、慌てずゆっくりと呼吸をしましょう。また、できるだけリラックスできる体勢になることも大切です。パニック発作は発作が始まってから10分以内にピークを迎え、20~30分ほどで治まるといわれています。辛い症状がそれだけ続くのは大変な苦痛ですが、「必ず発作は治まる」と思って心に余裕を持つことも大切です。少しでも気持を落ち着かせられるように、呼吸法を知っておくことをおすすめします。近くに頼れる人がいれば側にいてもらうのもよいでしょう。

編集部:パニック障害を疑ったら何科を受診すればよいですか?

稲川先生:パニック障害を疑う症状があれば、精神科・心療内科を受診してください。しかし、最初から精神科・心療内科にかかるのではなく、「大きな病気ではないか」と思って内科や救急外来を受診するケースも少なくありません。パニック発作でみられる動悸・胸の痛み・冷や汗といった症状は、心筋梗塞を疑う症状でもあります。パニック発作の場合は検査をしても身体に異常はみられません。そういった症状の訴え・受診歴・検査結果をもとに、精神科・心療内科を紹介されるケースもあります。身体の病気ではないことを確認するためにも、最初に内科を受診するのも1つの方法です。

編集部:診断基準について教えてください。

稲川先生:まずは身体に異常がないことを確かめる必要があります。また、理由がなく突然発作が起こることも、パニック障害の診断に必要な情報です。そして、「また発作が起こるかもしれない」という不安・恐怖のような精神症状や、発作を回避するための行動の変化が1か月繰り返されるとパニック障害と診断されます。

編集部:パニック障害の治療方法が知りたいです。

稲川先生:主な治療方法は、薬物療法と精神療法です。薬物療法の目的は発作を起こさないことで、抗うつ薬の1つである選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)や、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が使われます。正しく内服すれば発作を起こさないか、もしくは回数を減らすことができ、パニック障害のコントロールにつながります。パニック障害の治療には他にも精神療法があり、併用されることも多いです。

編集部:治療は薬物療法だけではないのですね。

稲川先生:パニック障害に効果的とされているのが「曝露療法」です。曝露療法はパニック発作が起こりやすい場面に向き合い、発作が起こりうる状況でも安心していられるようにします。要は、「発作が起こるかもしれない」という不安な状況に慣れて、「この状況でも自分は大丈夫」と不安を和らげていくということです。その他にも呼吸法や認知行動療法などがあり、患者さんに合った精神療法が選択されます。精神療法は、決して「気の持ちようで病気を治す」という意味ではありません。特に曝露療法は辛い場面に向き合うことがあるため無理は禁物です。パニック障害の治療は、焦らず自分のペースで進むことが大切です。治療について不安なことがあれば、医師やカウンセラーに相談しましょう。

編集部:パニック障害は治りますか?

稲川先生:パニック発作や予期不安を経験したことがある人にはわかりますが、「治らないのではないか」「一生病気と付き合うのか」という不安に駆られることがあります。不安になるのも無理はありませんが、パニック障害は適切な治療を受ければ治る病気です。しかし、パニック発作やパニック障害を放置すると外出が困難になり、ますます発作に対する不安を高めてしまいます。パニック障害は抑うつ状態・うつ病を併発することも多いため、早期発見・早期治療が大切です。パニック障害を放置しても自然に治ることはほとんどなく、むしろ慢性化して抑うつ状態やうつ病になるリスクを高めます。辛い症状があれば、1人で悩まず受診することをおすすめします。

編集部:日常生活における注意点を知りたいです。

稲川先生:パニック発作は疲労や睡眠不足で起こりやすくなるといわれているため、しっかりと睡眠をとって疲れを溜めないことが大切です。規則正しい生活や栄養バランスのとれた食生活を心がけてください。カフェイン・アルコール・ニコチンは避け、日中は適度に身体を動かしましょう。また、パニック障害は数回の受診で治療が完了するものではありません。治療を中断しないため、そして再発しないためにも信頼できる医師をみつけることが大切です。「最近発作が起こらないから」と自己判断で薬を中断せず、医師の指示に従いながら薬を調整しましょう。日常生活や薬のことなど、気になることがあれば早めに医師に相談するのもパニック障害の治療で大切なポイントです。

編集部:周囲の人はどのようにサポートすればよいですか?

稲川先生:パニック障害の患者さんの中には、「周囲の人に理解されない」と思い苦しむことも少なくありません。身体には異常がないため「大げさ」「気の持ちよう」という言葉で片づけられてしまうことがあります。しかし、本人は度々起こるパニック発作や予期不安に苦しみ、「死ぬかもしれない」という死の恐怖に直面しているのです。もし友人やご家族など、身近にパニック障害の人がいたら、相手の不安や恐怖を否定しないでください。辛い気持ちに共感したり温かい言葉をかけたりするだけでも、気持ちが軽くなることがあります。誰かが側にいてくれるという安心感は、パニック障害の患者さんにとって大きな心の支えになるでしょう。そのためにも、病気の症状や治療などについての理解が必要です。

編集部:最後に、読者へメッセージがあればお願いします。

稲川先生:「パニック障害」と聞くと、何となく特別な病気のように感じる人も多いのではないでしょうか。しかし、1,000人に6~9人がかかる、誰でもなりうる病気です。突然動悸・めまい・手足の震え・窒息感などの身体症状が出ると、不安や死の恐怖を抱くのも無理はありません。パニック障害になると不安や恐怖だけでなく、孤独感に悩む人も多いです。適切な治療を受ければ治る可能性がある病気のため、1人で悩まず受診することが大切です。

パニック障害はパニック発作が繰り返される病気で、予期不安や広場恐怖によって日常生活に支障が出ることも少なくない。

外出を控えたり仕事に行けなくなったりするなど、病気の影響は大きいものだ。

また、パニック発作で起こる身体症状や精神症状はコントロールが難しく、周囲の人に理解されにくいという苦悩がある。

「パニック発作で死ぬことはない」といわれますが、パニック障害は本人にとってとても辛い病気だ。

パニック障害で悩む患者さんも周囲の人も、まずは病気について知るところから始めよう。

参照元∶Yahoo!ニュース