2歳ごろ急に太り始めたことが病気のサインだった、40度の高熱から突然の意識不明に

子どもの手のひらを撮影した写真

渡辺瑚々(ここ)ちゃん(4歳)は、知られざる難病ROHHAD症候群(以下、ローハッド症候群)と診断されている。

ローハッド症候群は原因不明の病気で、小児の急激な肥満や自律神経障害、呼吸不全などが症状の特徴だ。

日本国内の医学論文では2007年に初めて詳細に報告されている。

ローハッド症候群は、日本ではまだ指定難病に指定されていない。

母親の未来(みく)さん(35歳)に、瑚々ちゃんがローハッド症候群を疑われるまでのことを聞いた。

予定帝王切開で元気な産声が。

出生時は体重3028g、身長48cm生後1カ月。

このころは何も気になる様子はなかった。

未来さんが瑚々ちゃんを出産したのは、30歳のとき。

「26歳のときに子宮筋腫の手術をしたこともあり、出産は予定帝王切開でした。手術室に入ってから30分ほどで元気な産声(うぶごえ)が聞こえました。出生体重は3028g、身長は48cm。私が妊娠中、妊娠糖尿病と診断され、娘は出産後、低血糖ぎみとは言われたのですが、出産も産後も順調で予定どおり母子ともに1週間ほどで退院できました」(未来さん)

未来さんは、妊娠がわかってからパートナーと別れている。

「紹介で知り合った人と、価値観も合って結婚を前提に一緒に暮らしていました。そこで妊娠がわかったのですが、パートナー側の家族の問題などが急に大きくなり、突然の婚約破棄となりました。私はもちろん、私の両親もかなり戸惑いましたが、私は『赤ちゃんを産みたい!』という気持ちが強く、1人で産んで育てることにしました。婚約破棄後、実家に戻りました。今でも、娘と実家で暮らしています。娘の名前は、母と決めました。私も2文字の名前なので娘もそうしたいなと思ったのと、将来、海外留学などをしたとき、外国でも呼ばれやすい名前にしたいと考えて、瑚々(ここ)にしました」(未来さん)

2歳ごろから体重が急激に増加。

細めからぽっちゃり体型に食べムラがあり細めだった1歳ごろ。

瑚々ちゃんに、気になる様子が見られるようになったのは2歳になる前からだ。

「生まれたときには標準体重でしたが、その後は細めのタイプでした。私の仕事の都合で、生後8カ月から保育園に通っていましたが、好きな食べ物はひじき、納豆、白身魚、チーズなどで、お菓子類には興味を示しません。離乳食の悩みは、気分によって食べムラがあることでした。運動発達は、1歳で歩き始めるなど気になることはありませんでした。しかし食生活に変化はないし、けして多く食べている、食べ過ぎているという状況ではないのに、体重の増加が気になり始めました。1歳のときは体重が8.8kgだったのに、2歳のときは13kg、その後も増え続けます。身長はあまり伸びません。細めだった子が、だんだんぽっちゃり体型になっていって、最初は『私もぽっちゃり体型だから似ているのかも』と思ったのですが、念のため栄養士さんに相談したこともあります」(未来さん)

ローハッド症候群の症状には、急激な肥満がある。

また眼球運動障害もある。

「1歳半ごろに、右の黒目が外側を向く感じがして、眼科を受診しました。眠いときなどに時々、視線が外側にずれる間欠性外斜視と診断されたのですが『小さい子にはよくあるし、視力に問題はないから、半年ごとに検査をして様子をみましょう』と言われました」(未来さん)

また瑚々ちゃんは、すごく汗っかきだ。

「保育園でも、みんなはそんなに汗をかいていないのに、娘だけ頭が汗でびっしょりぬれていることもありました。保育園の先生からも『瑚々ちゃん、すごく汗をかくんですよ~』と言われていたんです。私も汗っかきなので、体型同様に遺伝かな?と思っていました。ほかに気になったこととしては、2歳ごろから予防接種をしても泣かない、ということがありました。言葉では『イヤ~』と言うのですが、泣かないんです。転んでも痛がって泣いたりしません。一度、自動ドアに手をはさんでしまったことがあったのですが、そのときも痛くて泣くようなことがありませんでした。今となっては、これらのことがローハッド症候群のサインだということがわかるのですが、このころはまさか病気につながっているとは思いもしませんでした」(未来さん)

ローハッド症候群の症状には、発汗異常や痛みなどを感じにくいことがある。

瑚々ちゃんが2歳10カ月のとき、まさかの事態が起きる。

「夜、急に40度近い熱を出したのですが、ほかに症状はなくて、日中は平熱に下がり元気でした。でも、その日は保育園を休んで、家で様子を見ていました。コロナ禍だったので受診を控えて『また熱が出たら、小児科に行こう』と思っていました。熱が下がった日中はすごく元気だったのでちょっと近所にお散歩に行ったところ、珍しく『疲れちゃった』と言って、歩くのが遅いんです。その日の夜は、いつもより2時間ぐらい早く寝たので『やっぱり調子が悪いんだな。明日、小児科で診てもらおう』と思っていました。すると夜中に急に起き出して『ママ~、これって〇〇なんだって!』と興奮気味に話し始めたんです。今までそんなことはありませんでした。熱を測ったら40度近くあったので、常備していた解熱剤を服用させて、とりあえず寝かしつけました。もしかしたら熱で幻覚が見えていたのかもしれません」(未来さん)

しかし朝、未来さんは瑚々ちゃんの異変に気づく。

「早朝、瑚々の様子を見たら、ぐっすり寝ているけれど、いつもより呼吸が早いかな?と思いました。朝7時に声をかけて起こそうとしたところ意識がないため、驚いてすぐに救急車を呼びました。救急車が到着するまで、同居の父が心臓マッサージを続けてくれました。ちょうど数日前に地域の消防団で、心臓マッサージの講習を受けていたということも幸いしました。瑚々は、その後大学病院に搬送。『重度の肺炎』と診断されました。医師からは『肺炎で意識不明になることはあまりないので、何かほかに原因があると考えられます。入院して検査をしましょう』と言われました」(未来さん)

大学病院での治療で瑚々ちゃんの肺炎の症状はよくなり、意識も回復した。

「でもその後も、眠ると血中酸素濃度が下がることがたびたびありました。原因を探るためにアデノイド肥大や睡眠時無呼吸症候群、肺や筋肉の疾患などの検査をしました。遺伝子検査もしました。それらの検査結果が出るまでには時間がかかるため、7月の3歳の誕生日に一時退院して自宅で様子を見ることになりました」

退院から数日後、瑚々ちゃんの血中酸素濃度が一日中、下がった。

「退院後は自宅で、パルスオキシメーターを指につけて、血中酸素濃度を定期的に測っていたのですが、血中酸素濃度が65%しかなくて。正常値は96~99%です。急いで入院していた大学病院の救急外来を受診したところ、そのまま入院となりました。入院中、先日、検査をしたアデノイド肥大や睡眠時無呼吸症候群、肺や筋肉の疾患などの検査結果が出たのですが、どの病気も当てはまりませんでした。遺伝子検査の結果も出たのですが、瑚々の病名はわかりませんでした。それらの検査結果から、次に医師が疑ったのは、『先天性中枢性低換気症候群』でした。これは先天的な呼吸中枢の異常によって、主に睡眠時に無呼吸や血液中の酸素が低下し、二酸化炭素が多くなる難病との説明でした。しかし検査の結果、この病気でもないことがわかりました」(未来さん)

そして未来さんは、医師から「先天性中枢性低換気症候群でなければ、ローハッド症候群が疑われる」と、説明を受けた。

「ローハッド症候群というのは初めて聞く病名でした。医師は考えられる病気の検査はすべて行ったけれど、それらの病気ではない。急激な体重増加や呼吸不全があるため、最後に希少難病のローハッド症候群を疑ったようでした。医師から説明を受けた後、インターネットでローハッド症候群について調べたのですが原因不明で、現在のところ治療法がなく、症状は人によってさまざまと書かれていました。とてもまれな病気で、短命の患者さんもいるとも書かれていました。あんなに元気だった瑚々が。ローハッド症候群の疑いがより強くなっていると思うと怖くて怖くてしかたがありませんでした」(未来さん)

【鈴木雄一先生から】脳の複数の部位に影響を及ぼすため、早期発見が重要ローハッド症候群は、脳の複数の部位が障害されるまれな病気です。

脳の中心部分には、ホルモンを産生する部分と、呼吸や睡眠、体温調節など体のリズムを調節する部分が隣り合って存在しています。

ローハッド症候群は、生命維持に重要なホルモンや呼吸に影響を及ぼすため、早期発見が重要です。

この脳の障害が生まれつきなのか、それとも生まれてから発生するのかは、まだはっきりわかっていません。

ローハッド症候群は、世界で100例ほどと言われる希少難病のため情報が少ないことが課題です。

未来さんは、ローハッド症候群が疑われると医師に聞いたときから、正しい情報を得るために「ROHHAD症候群日本事務局・患者家族会」に入会しました。

「ローハッド症候群は、知られざる難病と言われていて、数は少ないけれど苦しんでいる患者さんたちがいます。

現在は、国の指定難病に指定されていませんが、2023年度に厚生労働省の難病に関する研究班の研究対象となったことで、1歩前に進めた感じがします」と未来さんは話します。

参照元∶Yahoo!ニュース