カチンコチンの「天然水ゼリー」が好調 膨大な自販機データから分かってきたこと
シャリシャリ→プルプル。
「なんだよ、いきなり」と思われたかもしれないが、JR東日本クロスステーション ウォータービジネスカンパニー(東京都渋谷区)の商品「From AQUA 天然水ゼリー」(以下、天然水ゼリー、515g:170円、280g:140円))の食感を表現したものである。
飲んだことがある人からは「シャリシャリではなく、プルプルだろ」といった指摘が入りそうだが、その理由はのちほど説明するので、最後までお付き合いいただきたい。
天然水ゼリーを飲んだことも聞いたこともない人もいると思うので、簡単に紹介しよう。
商品の特徴は、群馬・新潟県にまたがる谷川連峰の天然水を使用したラムネフレーバーのゼリー飲料であること。
2020年3月、JR東日本管内の駅に設置された自販機を中心に販売したところ、「天然水なのにゼリー」といった斬新さがウケて、SNSで話題に。
発売から4カ月で、予想の出荷量(174%)を達成するほどの人気ぶり。
その後も好調が続き、2021年度の販売実績は対前年比で228%、2022年度は同130%、2023年度は同135%。発売5年目を迎えているが、勢いが止まらないといった状況である。
注目するのは、初年度の売り上げである。
まだ記憶に残っている人が多いと思うが、発売したのは2020年3月である。
新型コロナウイルスの感染が広がって、人の動きが大きく制限された。
通勤・通学で鉄道の利用が大幅に減少していた中での数字である。
「もし感染がなければ……」と思わず想像してしまう商品でもある。
なぜJR東日本クロスステーションはこのような変わった商品を開発したのかというと、データをじっくり見た結果である。
商品を電子マネーで購入すると、購入した場所・商品名・時間のデータが取れる。
その情報を見ると、同社のミネラルウオーター「From AQUA(フロムアクア)」は朝に購入する人が多いことが分かってきた。
午前中はよく売れているけれど、夕方以降は苦戦するので、なんとかその“穴”を埋める商品をつくれないか。
あと、From AQUAのブランドを広めたいので、From AQUAで使っているミネラルウオーターを利用できないか。
この2点を満たすために、商品開発が進んだ。
いろいろと考えを巡らせる中で、担当者はここでもデータをじっくり見る。
夕方にどんな商品が売れているのかを調べたところ、味のついたフレーバー飲料がよく売れている。
1日の仕事で疲れたビジネスパーソンが「ちょっと甘いモノが飲みたいなあ」「小腹が空いたので、おやつ替わりになるモノを」といった理由で購入する人が多いようだ。
であれば、From AQUAを使ったゼリーがウケるのではないか。
夕方から売れるかもしれない。
このような仮説を立て「天然水ゼリー」が生まれたのである。
さて、冒頭のオノマトペに戻ろう。
天然水ゼリーの食感は「プルプル」であるが、もうひとつの「シャリシャリ」はどういった意味か。
実は、2023年8月にJRの品川駅と大宮駅に「冷凍From AQUA 天然水ゼリー自販機」を設置して、シャーベットタイプを販売したのだ(期間限定)。
「ははーん、だからプルプルではなくて、シャリシャリなのね。でも凍らせたら、すぐに飲めないのでは」と感じられたかもしれないが、その通りである。
喉が渇いているからすぐに飲みたいといった人には向かないが、昨年の夏を思い出してほしい。
とにかく暑かった。
駅の中はむしむしするので、きんきんに凍った天然水ゼリーを購入して、首回りにあてたり、額に押し付けたり、ほっぺにくっつけたり。
しばらくすると溶けてくるので、キャップ開けて「シャリシャリ」感を楽しむ人が多かったようだ。
発想としてはユニークな商品だが、どのくらい売れたのだろうか。
結論から先に言うと、売り切れる日が続いた。
想定以上の反響があったわけだが、どういった時間帯にどのような人が購入したのだろうか。
時間帯を見ると、午後1時からじわじわ売れていって、ピークは午後3~5時にかけて。
先ほど開発するにあたって「夕方の“穴”を埋められるモノ」と紹介したが、狙い通りの結果となったのだ。
男女・年代別で見ると、男性20~40代が多い。
大宮駅では1.8倍、品川駅では3.4倍、それぞれ男性が大きく上回った。
駅の利用者は女性よりも男性のほうが多いので、この結果は予想通りといったところ。
そんな中で、商品開発に携わった担当者は「男性10代」の数字に注目していた。
他の自販機のデータを見ても、男性10代の数字は低いことが多い。
10代といっても、前半と後半では購買力が違ってくるので、そもそもの母数が少ない。
また、電子マネーにチャージしているお金は親が負担しているケースが多く、「ムダ使いしないように」多くのお金を入れていないこともある。
こうした背景があるので、10代の購買率は低い傾向があるが、凍った天然水ゼリーは違った。
購入者が最も多いのは男性20代ということを踏まえると、この商品は若い男性に支持されていることがうかがえたのだ。
ちょっと話が変わるが、同社は期間とテーマを決めて、さまざまな商品を自販機で販売している。
その名も「イベントキュア」。一般的な自販機の場合、商品の入れ替えは年に3~4回ほど。
しかし、イベントキュアでは2~3カ月に1回ほどのペースでどんどん入れ替えている。
2023年7月から始めていて、冷凍の天然水ゼリーはこの取り組みの中で販売したのだ。
これまでどのような商品を扱ってきたのかというと、外国人観光客向けに抹茶のお土産であったり、飛行機の機内食を販売したり、ニベアクリームやリップをそろえたり。
「えっ、そんなモノも扱っているの?」と感じられる商品があるので、ウチの商品も並べてよといった問い合わせが多いようである。
JR東日本クロスステーションは多くの商品を扱ってみたいようだが、実現にはいくつかのハードルを超えなければいけない。
どういうことか。
自販機の特性上、商品の形状によって入らないことがあるのだ。
いや、無事に詰め込めたとしても、落ちてこないことがある。
例えば、先がちょっととんがっているだけで、そこが引っかかって、お金を入れても出てこない。
こうしたケースがあるようで、自販機での販売にあたっては、商品が取り出し口まできちんと落ちてくるかどうかのテストを何度も行っているそうだ。
最後に、今年の販売計画について紹介しよう。
冷凍の天然水ゼリーは昨年8月に販売したが、今年は1カ月早めて7月に登場する(終わりは9月末ごろを予定)。
場所は、同じく品川駅と大宮駅である。
昨年は初めてのことだったので、氷の上を歩くように慎重に「シャリシャリの一歩」を踏み出したわけだが、今年は違う。
実績があるので石橋を叩かずに歩いて、昨年よりさらに売れたら担当者はきっと震えるはずである。
「プルプルプル」と。
参照元∶Yahoo!ニュース