「馬鹿にしているのか」ヒグマ駆除 町と猟友会が交渉決裂「高校生のバイト以下」
北海道でクマの出没が相次いでいます。
猟友会のハンターらが、報酬の低さなどを理由に出動を辞退している奈井江町では、連日クマの親子が目撃されて、町民から不安の声が上がっている。
15日、北海道上砂川町で、林道を走る車がカーブに差し掛かると、数十メートル先で、木の枝が大きくしなる。
落ちてきたのは、ヒグマ。
よく見ると、落下しながらも枝に捕まろうと前足を伸ばしている。
道に落ちた後、ヒグマの姿はすぐに見えなくなった。
陸別町にある天文台の駐車場。
建物の影から出てきたのは、ヒグマ。
辺りを見回し、悠然と道路を歩いている。
周りには車がとめられていて、人の生活圏にヒグマが現れたことが分かる。
銀河の森天文台 津田浩之館長は、「まさか天文台の敷地内、しかも建物のすぐ下に出てきたというのは、(今までに)無かったものですから、驚いたというところです」
天文台によると、ヒグマの体長はおよそ1.5メートル。
このヒグマによる被害はありませんでしたが、天文台は来館者に注意を呼び掛けている。
住宅街にほど近い林で撮影された映像には、体長およそ2メートルのヒグマが映っていた。
二本脚で立ち、ダンスするような動きで、木に背中をこすりつけている。
設置されたカメラが気になるのか、近付く様子も。
観光客が通る車道に現れたヒグマ。
人間を怖がる様子もなく、車の中を伺うそぶりを見せながら、ゆっくりと歩く。
北海道ではヒグマの出没が相次ぎ、雨竜町では人が襲われる事態も。
周辺には今も、ヒグマ注意報が出されている。
その雨竜町からおよそ30キロ。
4800人ほどが暮らす奈井江町では、ヒグマ駆除を巡り“ある問題”が浮上している。
奈井江町 三本英司町長(69)は、「去年、おととしと、クマが山里じゃなくて、市街地まで出てくるようになってしまった。そこ(ヒグマ駆除)の体制を再構築しようということですね」 これまで奈井江町では、山に出ることが多かったヒグマをボランティアのハンターと協力して駆除してきた。
しかし、人里に降りてくるヒグマが増えたため、町は4月、猟友会に新たにクマの駆除などを行うチームへの参加を呼び掛けた。
北海道猟友会砂川支部 奈井江部会山岸辰人部会長(72)「高校生のコンビニのバイトみたいな金額でやれ。ハンターばかにしてない?って話ですよ」
しかし、町が提示した金額は日当8500円、発砲を伴う場合でも1万300円。
札幌市と比べると、半額以下だという。
山岸さん「(Q.提示された金額について)冗談だろと思いましたよ」
猟友会は、1回の出動につき4万5000円を提示しましたが…。
山岸さん「『予算がない。条例を変えなきゃならない、時間がない』と。
後日、仲間内で全員で話し合ってお断りしようと」 町と猟友会の交渉は決裂。
猟友会は、町のヒグマ駆除に協力しないことになった。
そんななか、奈井江町で先週、3日連続で住宅街のすぐ近くで、ヒグマの目撃情報が相次いだ。
根室市で4月、車を襲うヒグマが撮影された。
左には子グマがいて、襲ってきたのは子グマを守ろうと攻撃的になった母グマとみられている。
奈井江町のヒグマ目撃情報は、半分以上が親子連れのため、住民は不安を口にする。
近隣住民「やっぱりドキドキしますね。畑なんかやってる時に、もしひょっとすると近いからね。来るんじゃないかとか、そういうのはありますけどね」
近隣住民「奈井江川のほうにも出たっていうからさ。散歩をたまにしてたんだけど、今はこっちの方を歩いてるね」「(Q.やっぱり出くわさないように?)うん、言われたもん。歩いてたら、どっかのおばさんに『危ないよ』って」
野生動物の捕獲や駆除に協力することが多いハンターの団体「猟友会」。
奈井江町の猟友会が「今回は協力できない」としたのには、報酬金額以外にもリスクの問題があった。
山岸さん「ひざ丈まで草があれば、彼らは体重200キロあって、5メートル離れた所に身を隠しても分からないですよ。だから、特殊部隊を相手にして、ハンターが勝負を挑むようなもんですよね」
実際に3メートル近いヒグマと対峙(たいじ)した北海道猟友会・砂川支部の池上治男支部長 (75)は、次のように述べた。
池上さん「(Q.かなり鋭いですね?)だいたい275キロ、2メートル75センチ。手脚合わせたら、3メートルくらいのヒグマの爪なんです。これが手についてるわけ。5本!これ5つ!これで頭をドーンとやられて、犠牲になった人がたくさんいる」 さらに、自身の生活や猟友会の高齢化も…。山岸さん「正直、私たち仕事してるんで。それほど暇じゃないです」
介護関係の仕事をしているという山岸さん。
奈井江の猟友会は5人が所属していますが、全員仕事をしながら、ハンターとして活動している。
さらに、5人中3人が70代だという。
山岸さん「町民のためとか、住民のためとか。それは自分たちの生活あっての話で、余力でやる話で。自分たちの生活犠牲にしてまでやりますかって話です」
三本町長は、猟友会から協力を断られたことについて、次のように述べた。
三本町長「たたき台でしか、まだなくてですね。残念ながら、そこの段階できちんとした意思の疎通が出来なかったということでしょうね」
三本町長「どのくらいの報酬が妥当なのかっていうことでの議論が、おそらく全国でもされていないと思っていて、それを協議するということだと思うんですよ。そういう意味では見直しありきというよりも、それを作り上げていくということが協議の始まりであってほしかったという気はしますよね」
町が提示している1万300円というのは、予算で出せる最大の額なのでしょうか?
三本町長「そういうことじゃなくて。だから、隣町と一緒のベース。それをベースに予算を組んだというだけの話ですよ。上がる可能性は全然あるし、上げることは一つも、やぶさかでないので。一回も上げるつもりないと言っていませんから」 町は「提示額は隣町を参考にしたベースの額で、安全確保の話についても、話し合いを進めていくつもりだった」ということです。
三本町長「私たちとしては、町としての担当からの思いが伝わらなかったのかなと思って。そこのところは本当に反省しなきゃいけないなと思っています」現在、猟友会との交渉は途絶えたままです。町は「当面、猟友会に所属していないハンターにボランティアとして協力を仰ぐ」ということです。
奈井江町側は、クマの駆除で発砲を伴った場合、1万3000円を支払うつもりだったとしています。これはあくまでも三本町長とのたたき台だったという。
「報酬・安全面についての協議の始まりであってほしかった。対応の仕方に反省はある」としている。
一方、猟友会側の主張。
山岸さんは、緊急出動の場合、実際にクマを駆除した場合も含め、4万5000円の報酬を要求している。
町側の提示額については「高校生のバイト代以下」としている。
さらに、報酬だけでなく「クマ駆除の枠組みがない。罠の仕掛けから片付けまで丸投げ。やる気が感じられない」という。
他の自治体の例としては、幌加内町では昨年、釣り人がクマに襲われて死亡した事故をきっかけに報酬が増額され、1日1万5000円。札幌市では1日2万5300円、捕獲や運搬を行った場合は3万6300円になっている。
島牧村では1日2万6900円で、緊急時には4万300円に引き上げられる。
さらに、実際にクマを捕獲した場合は10万円がプラスして支払われるという。
今後の自治体と猟友会との関係について、酪農学園大学の佐藤喜和教授は「クマの駆除については猟友会頼みの自治体が多いが、高齢化・後継者不足により今後困る地域が出てくる。猟友会頼みのクマ対策を考え直す時期に来ているのでは」と指摘している。
参照元∶Yahoo!ニュース