盗撮から選手守る「衣装」 体操選手は自ら開発、バレーや卓球には赤外線吸収する新素材
スポーツで女子選手が性的な意図を持って撮影される被害が後を絶たない中、トップ選手の間で、盗撮されにくい仕様のユニホームや衣装が広がってきた。
7月に開幕するパリ五輪では、バレーボール女子の日本代表チームが着用する。
肌の露出を抑えた衣装を自ら提案、開発した体操選手は「誰もが安心して演技できる環境を整えることが必要だ」と訴える。
14日にパリ五輪の出場権獲得が明らかになったバレーボールの女子代表は、スポーツ用品大手「ミズノ」(大阪市)が開発した赤外線カメラによる盗撮対策を施した代表ユニホームで大舞台に臨む。
赤外線カメラで撮影すると、選手の下着や肌が透けてしまう。
ネット上には、盗撮されたとみられるスポーツ選手の写真があふれ、対策が急務となっていた。
新たなユニホームは、特殊な糸が赤外線を吸収する構造。
卓球女子やアーチェリー、ホッケー女子などパリ五輪に出場する6競技の代表ユニホームにもこの素材が採用されている。
開発チームの田島和弥さんは「トップアスリートが着用することで、盗撮を許さないという意識が社会全体で高まるきっかけになってほしい」と期待する。
空気抵抗を減らすため肌の露出が多い陸上競技でも盗撮の被害は深刻だ。
昨年1月に京都市で開かれた全国都道府県対抗女子駅伝では、出場した選手の下半身を執拗(しつよう)に撮影したとして男が京都府迷惑防止条例違反容疑で書類送検された。
ミズノは、赤外線対策を施した上で、従来のものでは露出していた腹部を生地で覆った試作品を現役選手らに試してもらっている。
今年5月、大阪市内で開かれた大会の予選で着用した短距離の児玉芽生選手(25)は「思ったより着心地も良かった」と話した。
リオデジャネイロと東京の五輪2大会に出場した体操女子の杉原愛子選手(24)は昨年6月、自ら会社を設立し、従来のレオタードよりも肌の露出を抑えた新たな衣装を作った。
太ももの上部までを生地で覆い、自身の名前から「アイタード」と命名した。
杉原選手も盗撮被害に悩まされてきた。
性的な文言とともに競技中の画像がSNSで送られてきたり、インターネット上に下半身などをアップにした画像が公開されたりした。
レオタードでは、下着や生理用品が見えてしまうのではないかとの不安もあったという。
昨秋からアイタードを着用すると、競技に集中できるようになった。
5月のNHK杯では、アイタードで出場し、5位に入賞した。
習い事として体操に取り組む子どもの親からもレオタード着用に不安の声が上がっていた。
アイタードの存在を知ったある選手の母親からは「安心して続けさせられる」と感想が届いた。
杉原選手は「誰もが好きな競技を安心して続け、練習の成果を観客に『もっと見て』と言えるような環境を整えたい」と力を込めた。
各競技団体も盗撮対策を実施している。
日本体操協会は2004年から原則として観客の撮影を禁止。
会場スタッフが巡回してトラブル防止に努める。
日本学生陸上競技連合は、トラック種目のスタート時、下着が映り込まないように、前方や後方からの撮影を禁止している。
昨年7月には、胸や尻など性的部位や下着姿を撮影する行為を取り締まる性的姿態撮影処罰法が施行された。
盗撮問題に詳しい中京大スポーツ科学部の石堂典秀教授(スポーツ政策)は「盗撮はアスリートに心理的負担を与える卑劣な行為。衣装やユニホームに対策をしていない選手が盗撮された場合、個人の責任だと中傷されないよう配慮する環境作りも重要だ」と話す。
参照元∶Yahoo!ニュース