涙止まらず 奥川恭伸980日ぶり白星 度重なる故障 家族のデマ流されたことも

プロ野球選手をイメージした写真

涙なくして語れない道のりだった。

ヤクルト奥川恭伸投手(23)が「日本生命セ・パ交流戦」のオリックス戦に先発。

最速151キロで5回7安打1失点と好投し、21年10月8日阪神戦(神宮)以来となる自身980日ぶりの白星を挙げた。

808日ぶりの1軍マウンド。

22年3月29日の巨人戦(神宮)で右肘痛を発症し、昨年7月の練習中には左足首を骨折。

満を持して臨んだ2年ぶりの今春キャンプも、完走前に腰痛で離脱。

あらゆるものを乗り越えた復活勝利に、ヒーローインタビューでは号泣した。

左手で恥ずかしそうに頭をかいた。

ヒーローインタビュー。

奥川のその手は、すぐに目元へ向かった。

「2年という期間の中で…」。右手で覆っても、涙は止まらなかった。

3回まで毎回、得点圏に走者を置いた。

一時はセットポジションで、マウンドからの18・44メートルが遠く感じることもあった。

「どう投げていたっけ?」と恐怖を覚えることもあった。

4回には杉本に1発を許した。

それでも、崩れなかった。5回79球7安打1失点。

「うれし涙もありますし、悔し涙も。今回は支えてもらった人たちとか、そういうの思い出すって感じです」。 

ようやく吐き出せた。

あの時の、心の涙も。

2軍の試合で投げる度に、X(旧ツイッター)で「奥川」がトレンドに上がった。

興味本位でたどった先のデマに怒りで指先が震えた。

「『父親が仕事辞めて、息子のすねをかじっていて、自分の(右肘)手術に反対している』みたいなことが書かれていて。父は別のところで働いているし、手術のことも自分がしない決断をした。一切違うのに勝手に書かれて一番ムカついた。野球選手やってる以上は、たたかれることは覚悟しないといけない。でも家族は別に関係ない」。

当時は言えなかった。

「リハビリ中に何を言っているんだって思われる」。否定したくても出来ないもどかしさ。「勝った時にようやく言える」。

復活の日を心待ちにした。

何度空を見つめ、泣いたことか。

今年のはじめ。初詣に向かった。

何げなく引いたおみくじ。

「大吉」とあった。

過去の右肘痛、左足首の骨折も癒え「今年こそ大丈夫」と思った矢先、2年ぶりの1軍春季キャンプ中に腰痛が襲った。

「呪われているのかなと思いました」。

周囲からは、おはらいを勧める声もあった。

ただ、おみくじの下にはこう書いてあった。

「けがも良くなるでしょう」。 

囲み取材中も時折、言葉を詰まらせた。

「野球の神様っていうか、本当助けられたなって思います。今までいろんな選択がありましたけど、歩んできた道が間違いじゃないことをしっかり証明したいなと思ってた」。

涙なくして、帰ってこれなかった。

参照元∶Yahoo!ニュース