機密費の使途公開巡る動きなく、相次ぐ疑惑 「国民との約束」踏み切れなかった民主党政権
選挙を巡る不透明なカネとして、使途が非公表の内閣官房報償費(機密費)にも疑惑の目が向けられている。
2009年に政権交代を果たした民主党政権が使途の公開を検討したが、結論を出せないままで幕を閉じた。
12年に返り咲いた自民党政権では使途公開の動きは途絶え、機密費を巡る疑惑が相次ぐ。
13年の参院選で首相だった安倍晋三が候補者に100万円を提供した疑いが発覚。機密費の流用もささやかれる。
「やるべきだった」元民主党政権幹部の悔恨
「機密費の使途を明らかにしなかったのは本当に心残り。国民との約束でもあり、やるべきだった」。
09年の政権交代で誕生した民主党の鳩山政権で官房副長官を務めた松野頼久(63)は悔しそうに振り返る。
鳩山政権が発足する8年前の01年、当時野党だった民主党は「官房機密費流用防止法案」を国会に提出した。
機密費と呼ばれる内閣官房報償費の支払い記録の作成と保存を義務づけ、機密の程度に応じて10~25年後に公表させるための法案だ。
事後であっても使途を公表することで、目的外への流用を防ぐ狙いがあった。
自民党などの賛成を得られず廃案となったが、8年を経て実現した政権交代によって使途公開への期待が高まった。
政権中枢にいた松野は、当時の法案に沿って使途公開に踏み切るよう求めたが、官房長官だった平野博文(75)は賛同しなかった。
まずは機密費を1年間運用した上で、一定期間が経過した後に使途を公表できるかを検討する方針を示した。
その後、鳩山政権は9カ月で退陣に追い込まれ、使途公開の可否に結論を出せなかった。
なぜ使途公開に踏み切らなかったのか。
平野は中国新聞の取材に「機密費(の実態)を自分で見ていないので、全部をオープンにできるのか分からなかった」と語った。
鳩山政権は1年ともたずに退陣したが、平野は官房長官として在任中に機密費を使った。
最も多い使途を尋ねると「情報収集の費用が多かった」と説明。
さまざまな政権課題の関係者らと極秘で面会する際に相手側の交通・宿泊費や会場のホテル代を支払ったとした。
自民党政権と同様、国会の野党対策の費用にも使ったという。
一定期間後の使途公開は可能なのか―。
平野は「ものによっては出せる」と明言した。
情報収集の費用は「(相手がいるから)難しい」としつつも、国会対策や政権内の組織運営のための費用は「出せる」と語った。
鳩山政権退陣後、菅政権を経て11年9月に野田政権が発足。
30年後の機密費の使途公開を検討したが、12年12月の衆院選で大敗し、政権は自民党に戻った。
使途公開を検討する動きは途絶えた。
一方で、機密費を巡る疑惑は後を絶たない。
昨年11月、元国会議員で石川県知事の馳浩が東京五輪の招致活動で、開催都市決定の投票権を持つ国際オリンピック委員会の委員に、機密費を用いて贈答品を渡したと発言。
後に発言を撤回した。
19年参院選広島選挙区の大規模買収事件では、主犯の元法相河井克行(61)に対し、当時首相の安倍晋三(22年死去)が2800万円、官房長官の菅義偉が500万円を提供した疑惑が浮上。
機密費が使われたのではないかとの見方が出ている。
安倍を巡っては、別の疑惑も持ち上がっている。
13年の参院選で東日本の選挙区の自民党候補者に100万円を渡していた疑いがあることが中国新聞の取材で判明した。
この候補者によると、参院選中に安倍が応援演説に入った当日、個室で面会する場面があり、安倍からA4判の茶封筒を受け取った。
茶封筒の中には白い封筒が入っており、その中に100万円が入っていたという。
候補者は100万円の趣旨について「陣中見舞いのような感じで差し出された。厳しい選挙戦の足しにしてほしいという意味と思った」と説明。
「表にしないカネ」と受け止め、選挙運動費用や政治団体の収支報告書には記載しなかったという。
安倍が関係する政治団体の収支報告書にも100万円の記載はなかった。
どこから出した現金なのか。
自民党の元幹部らによると、政権幹部が候補者の応援に行った際に渡す陣中見舞いは党の政策活動費から出すことがあるという。
政策活動費は使途を明らかにする義務がなく、事実上の裏金と指摘される。
ただ、13年の党本部の収支報告書を見ると、政策活動費は幹事長だった石破茂に10億円超が渡っていたが、安倍に提供された記載はない。
複数の元政権幹部は、機密費から出していた可能性があると指摘する。
政権中枢の「政治とカネ」の不透明な実態に国民の不信感はかつてなく高い。
「官房長官は機密費、自民党の幹事長は政策活動費をばらまく。金権政治ここに極まれりだ」と話すのは法政大大学院教授の白鳥浩(現代政治分析)。
「政治とカネの透明性を上げて、国民への説明責任を果たしていくことが重要」と強調する。
現在開会中の通常国会は会期末(6月23日)に向け、終盤に入っている。
今後は、政治資金を透明化するための改革が最大の焦点になる。
不透明なカネを国民に見える形にするのか。
われわれ国民は、各党の動きに目をこらす必要がある。
次の衆院選で投票先を考える際の大きな判断材料となる。
参照元:Yahoo!ニュース