親子げんかで里親抹消 10年以上育てた息子が突然他人に 三重・名張市

三重県名張市に住む79歳の男性が、県を訴えました。
会見で涙ながらに語った、その理由とは。
名張市に暮らす松山健さんは、16歳の兄・大樹さん(仮名)と、3歳年下の弟・拓実さん(仮名)の父親。
ただし、実の親子ではありません。
松山さん夫婦は里親として、兄弟がまだ幼かった頃に別々の家庭から迎え入れ、妻とともに10年以上育ててきた。
しかし、2人の息子との平穏な生活は突然、終わりを迎える。
きっかけは大樹さんが中学2年生だった一昨年3月。ある朝の出来事だった。
松山さんへの取材によると、大樹さんが少し離れたところにいた拓実さんに、チョコレートを取るよう何度も言った。
20回以上もしつこく繰り返す様子を見かねた健さんが注意すると、2人は口論になりましたが、妻が割って入り事なきを得た。
反抗期によくある親子げんか、そう思っていた翌日のことだ。
定期訪問の相談のため児童相談所の職員からかかってきた電話で、健さんは職員に大樹くんを指導してもらおうと「昨日ちょっと言い合いになって、大樹の胸ぐらつかんで1発やっちゃたんですよ」と、実際よりも大げさに説明した。
「オーバーに話さないと(職員が)来てくれないと思ったんです。実際は、彼はめちゃくちゃ大きいし、手をつかむこともできなかった」
電話から4日後、事態は思わぬ方向に。
大樹さんを一時保護するために、児童相談所の職員が大樹さんの中学校を訪れた。
その際、大樹さんは2年ほど前から父に「施設に帰れ」などと言われていたと説明した。
しかし、後に大樹さんは「僕は里子であることを友達に知られたくなかったのに(児相の職員が訪ねてきたので)友達にばれたらどうしようと不安があり、パニックにおちいっていた。
そんな中で言ったことは事実ではない」と、事実とは異なる説明をしてしまったと主張している。
父の健さんも、暴行や暴言はなかったと必死に説明しようとしましたが、「明くる日一番に僕(児相へ)行ったけど、会わせてくれない、聞く耳ももたない、何度説明しても」という。
そして、一時保護から約3週間後。
三重県からある通知が届きました。大樹さんと拓実さんを松山さんに預ける「里親委託」が解除された。
さらに、里子を受け入れるために必要な「里親登録」も取り消された。
突然の出来事に、妻は10日ほど食べ物が喉を通らず、水も飲めないほど衰弱してしまいた。
県内の児童養護施設で生活することになった大樹さん。
当時、施設から松山さん夫婦に宛てた手紙には、切実な思いが綴られていた。
「俺は松山の子です。お母さんがいつ倒れるんじゃないかっていう心配が頭から離れません。1秒でも早く帰りたいです」
サッカーに打ち込んでいた大樹さんは、プロになることを夢見て、サッカーの強豪校への進学を目指していましたが、施設での生活が続く中、志望校を変えることを余儀なくされたという。
家庭から引き離され、1年間を棒に振ってしまった。
親子の縁が絶たれてから約1年たった頃、一筋の光が差し込んだ。
家庭裁判所が、松山さん夫婦と大樹さんが養子縁組を結ぶことを許可した。
その際にまとめられた調査報告書には「(大樹さんが)同居中のエピソードを具体的かつ嬉しそうに述べた。
その陳述内容は(大樹さんの)真意が反映されたものと言える」と記されていた。
1年の時を経て、ようやく親子での生活がかなった。
一方、松山さんが養子縁組後に入手した三重県の弁明書では「(虐待に関して)経験したものでないと語れない具体的なエピソードを話しており(中略)供述には信用性があります」と、松山さんによる心理的虐待があったとして、「明確な根拠に基づいた適法な処分」だと主張。
今も、松山さん夫婦の里親登録は取り消されたままだ。
そのため、まだ元通りになっていないことがあった。
大樹さんと一緒に一時保護された拓実さんは現在13歳。
養子縁組を結ぶには親権者の同意が必要な年齢のため、今も施設での生活が続いている。
里親登録を取り消された松山さん夫婦は、拓実さんと話すことすらできない。
大樹さんは、拓実さんのサッカーのユニホームを部屋に飾り、時折、思い出すように一人でアルバムを眺めている。
離ればなれになってから2年以上がたった、4月30日。
松山さん夫婦は、県が事実誤認に基づいて里親登録を取り消した処分は違法だとして、処分を取り消すことなどを求め津地裁に提訴した。
松山健さん(79):「(弟・拓実が)帰ってきてない。連れて行かれたまま一言も話せていない。裁判で勝とうとかそういうことよりもまず、弟・拓実を取り戻さないといけない」
しかし、関係者たちの意見は割れている。
三重県の担当者は一般論として、「里親制度は社会みんなで子どもを養育しようというもの。必ずしも元の里親に戻さなければならないというわけではない」としている。
一方で、自身も里親経験者で元厚労省官僚の藤井康弘さんは、一般論として「児童相談所は杓子定規な判断ではなく、子どもの現在および将来の最善の利益がどこにあるのかを、よく検討した上で判断すべき」としている。
虐待を疑われるような発言をしたことで、「里親」を除されてしまった松山さん夫婦。
虐待から子どもを守ることは大前提ですが、難しい判断になりそうだ。
何が子どものために良いのか、今後の裁判の行方に注目している。
参照元∶Yahoo!ニュース