日立はもう「ガクチカ」を聞かず 新卒ミスマッチ防止へ
企業の採用活動の主戦場だった新卒採用にも変化の波が押し寄せている。
自社のカルチャーや仕事にフィットとする学生を探り当てようと企業は知恵を絞る。
労働市場の流動化を受けて第二新卒をターゲットとする取り組みも広がる。
「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)は聞きません」──。日立製作所は2023年、事務系新卒採用の最終面接を一変させた。導入したのは「プレゼン選考」だ。
ある学生は新興国への留学中に経験した交通渋滞や防犯面の課題を踏まえ、「女性が安心して移動できる世の中へ」というテーマを設定。
日立の無人運転技術や人工知能(AI)を活用した防犯システムで解決できると提案した。
そのプレゼンが評価されたこともあって同社への入社を果たした。
「論理的思考や課題発見力を見極めやすい」。
タレントアクイジション部の大河原久治部長代理は手応えを語る。
課題をどう設定するかで学生の個性が浮き彫りに。
学生からも「キャリアについて考えるきっかけになった」などと好評で、内定後の辞退率は以前に比べ約10ポイントも下がった。
25年卒採用でも継続する方針だ。
個性を見る面白採用の元祖といえば、東証グロース上場のIT(情報技術)企業カヤックの名前が挙がる。
社員の9割超がゲームなどコンテンツのクリエーターだ。
社風に合う人材を採ろうと編み出した面白採用は10種類以上。
人事部のみよしこういち氏は「採用戦略は広告戦略に近い。
『自分のことかも』と思ってもらえる採用方法を常に考えている」と明かす。
特に成果が出たのは17年に始めた「いちゲー採用」と15年からの「エゴサーチ採用」だという。
いちゲー採用はゲームの達人を優遇する仕組みだ。
ゲームへの情熱はその開発に生きるはずだと考え、ソニーグループの家庭用ゲーム機ユーザーの中で1000人に1人の腕前と認められた「プラチナトロフィー」の持ち主を対象に1次選考を免除する。
エゴサーチ採用はその名の通り、名前やブログ、作品名などの単語検索の結果を履歴書代わりに評価するというもの。
売れっ子バンドのメンバーや起業家など個性派が数多く応募してきた。
いちゲー採用とエゴサーチ採用の合計でのべ約3200人の応募があり、これまでに20人程度が入社した。
企業が選考過程で学生の個性を少しでも引き出したいと考えるのは、旧来型の画一的な新卒採用のスタイルから抜け出したいとの思いからだ。
新しいやり方を取り入れないと、学生側の「対策」が進み、人柄や能力が正確につかめない。
相思相愛で採用が決まったはずなのに、入社後ほどなくしてミスマッチがあらわになる。
厚生労働省が23年10月に公表した「新規学卒就職者の離職状況」によると、21年3月大学卒の働き手で就職後2年以内に離職した人の割合は24.5%と、ほぼ4人に1人。
20年3月卒の人に比べて2年以内の離職率は2.6ポイント上昇した。
こうした傾向が続くようでは、お互いにとって不幸だ。
参照元∶日経ビジネス